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世界遺産から消えたリヴァプール

皆様こんにちは。
本田拓郎(Takuro Honda)と申します。
この記事へお越しくださいまして、ありがとうございます。

 このnoteでは、今現在観光業に就いている私が、私の目線で、「観光・旅行・歴史・文化・教育」について、知識や新たな発見の提供、その他自論を展開し、古代ギリシャでいう「アゴラ」のような場所を目指します。私が勉強していることを皆様とも一緒に学ぶというスタイルで、記事を創っていきます。

 今年、オンライン会議で行われた世界遺産委員会で、波乱が起きました。「リヴァプール海商都市」が世界遺産から抹消されました。今回はこの事件を通して、改めて、「世界遺産の在り方」を考えてみましょう。

拙い文章力と乏しい考察力ではありますが、
最後までお付き合い、お願いいたします。

1.「リヴァプール海商都市」の普遍的価値

 まずは、「リヴァプール海商都市」が世界遺産に認められることになった普遍的価値から学んでいきましょう。

 リヴァプールが世界遺産に登録されたのは2004年でした。評価されたのは、大きく2つの歴史的な大きな役割を担っていた港だったということです。

 1つ目は、三角貿易の拠点であったこと。多くの植民地を所有していたイギリスにとって、三角貿易は大きな経済的支柱でした。イギリス本土で製造した繊維製品や武器をアフリカで奴隷と交換し、その奴隷をカリブ海の西インド諸島の植民地へ売り、西インド諸島のプランテーションで生産された砂糖や綿花をイギリス本土へ輸入するという仕組みです。

 2つ目は、産業革命によって大工業都市に成長したバーミンガムやマンチャスターの外港であったこと。バーミンガムとは鉄道で、マンチェスターとはマージ―川の水運で結ばれ、工業製品の輸出、原料の輸入の役割を担っていました。

 リヴァプールが世界に示した「港湾都市」としての役割と影響力、大英帝国の経済基盤を築いた歴史、貿易による国際化の時代性を示す証拠が認められ、世界遺産に登録されました。

2.ウォーターフロント開発による景観破壊

 しかし、そんな世界遺産から、ライバーバードは飛び去ってしまいました。

 「リヴァプール海商都市」は、造船所が残るヘッド桟橋地域、港湾施設が集まるアルバート造船地区、倉庫街のスタンレー造船管理区、カースル通り周辺地域、公共施設が立ち並ぶウィリアム・ブラウン通りの文化地区、当時の商人の事務所が残るデューク通りの商業地区、計6地域が登録範囲でした。

 ただ、近年の観光都市化に伴い、2012年に世界遺産登録範囲内のウォータフロント開発を敢行します。2004年登録時点では建てられていなかったリヴァプール博物館や、Liverpool Oneというショッピングセンターなどのモダン建築が建てられ、景観だけでなく、その歴史的価値自体を傷つける恐れがあると警告を受けていました。

 加えて、プレミアリーグ所属のエヴァートンの新スタジアム建設も、ウォーターフロント開発計画に含まれていました。ユネスコはそれも著しい景観破壊の一端を担っているとし、ついに2021年の世界遺産委員会で、「リヴァプール海商都市」は世界で3例目の世界遺産リストからの削除物件となってしまったのです。

3.「ドレスデン・エルベ渓谷」の轍を踏むことに

 「リヴァプール海商都市」の他に、世界遺産リストから削除された物件は、2007年の「アラビアオリックス保護区」(オマーン)と、2009年の「ドレスデン・エルベ渓谷」(ドイツ)です。

 前者は、密猟の取締が徹底されていないことや、石油資源開発の影響を受けて、後者は、交通渋滞緩和のための架橋計画による景観破壊が引き金となり、世界遺産リストから削除されました。

 特に後者の「ドレスデン・エルベ渓谷」は、そもそも「文化的景観」という側面を持ち、渓谷の景観そのものに価値が見出されていました。しかし、市民側は、架橋計画を進めることを議会に要求し、住民投票の結果、架橋計画賛成派が過半数を獲得し、ヴァルトシュレスヒェン橋が架けられことになりました。

 これにより、渓谷の美しい川と緑の景観は損なわれ、登録からわずか5年で世界遺産から削除されることになりました。

 今回のリヴァプールは、側面としては異なりますが、「景観破壊」による世界遺産からの削除という面では非常に類似しています。リヴァプールという街の急速な観光都市化、街の規模の拡大が、大英帝国の歴史の証拠を消し去ったのまぎれもない事実です。

 同様の理由で世界遺産からの削除されたことについて、リヴァプール市民や、世界遺産の研究者はどのように思っているんでしょうか。私としては、「ドレスデン・エルベ渓谷」が示した過ちを繰り返し、まさに「轍を踏んだ」ことがとても残念でなりません。

4.「世界遺産」×「生活」=?

 実際、リヴァプールも含め、今までに世界遺産から削除された3件に大きく関わっているのは、人間の「生活」です。

 正直なところ、私の考えとして、「世界遺産」と「生活」を結びつけるのは、非常に難しいことだと思います。生活圏は日々進歩していくものですが、世界文化遺産は、残された歴史を現代に伝えるためにあるものであり、世界自然遺産は、私たちが生きていく上で必要となる環境を伝えるものです。

 だから、世界遺産に人間の生活を干渉させることに私は反対です。特に、「世界遺産」と「観光」を簡単に結びつけないでほしいです。旅行会社に勤めてる奴がそんなん言って良いんかって感じですけど、私は声を大にして言います。

 先日、「奄美・沖縄」と「北海道・北東北縄文遺跡」が世界遺産に登録されました。大変喜ばしいことですよそりゃ。しかし、「祝・世界遺産登録!奄美に行こう!!」と謳うのは大きな間違いだと思います。「世界遺産」は守るべきもの。なぜ旅行会社が破壊行為に加担するのか。

 じゃあただ行くだけじゃなくて、「エコツーリズム」の推進だの、「インタープリター」の育成だの、世界遺産に関連した他形態の旅行をもっと展開すべきだと私は考えます。そうじゃないと、日本の世界遺産も、いつ世界遺産から削除されてもおかしくない状態になるのではないでしょうか。日本人として考えてください。そうなっても良いんですか?

 最後に、今回のリヴァプールの件でユネスコが言及した、フットボールスタジアムの建設について。イギリスとフットボール文化は絶対に切れない、というか、切ってはならない、イギリス人の人生そのものです。もっとリヴァプール市とエヴァートンが歩み寄って、しっかりと吟味して、プロジェクトを進めてほしかったなと思います。

今回も最後まで読んでくださいまして、誠にありがとうございます。
また次回お会いしましょう。

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