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幽霊も暴力も出てこない怖い実話3

義理の弟がいる。と言っても私より七、八歳年上だ。これは彼から聞いた話である。

彼は関西の大学を出て、めでたく超一流証券会社で働くことになり、関東某所にアパートを借りて一人暮らしを始めた。若いということもあり、頻繁に友人を招いて飲んでいたそうだ。
そんなある日、会社から帰宅すると、通帳が消えていた。彼はてっきり銀行に忘れたか、紛失したかのどちらかだと思ったらしい。しかしノートパソコンも消えていた。のみならず、コレクションのスニーカーも消えていたのだ。
彼はすぐさま警察に通報した。

警察はさっそく監視カメラ映像を入手し、確認作業を始めた。残念なことに顔ははっきり映っていなかったそうだ。
警察は義理の弟を呼び出して、こう訊いた。
「部屋に友人を招き入れることはありますか?」
義弟は首肯した。
警察はさらに説明を付け加える。
「顔ははっきり映っていないのですが、アナタなら分かるかも知れません。と言うのも、空き巣というのはほとんどが顔見知りの犯行なんです。ようするに、友達が盗んだ可能性があります」
義弟はある友人に心当たりがあったらしい。
警察は念を押す。
「友人関係が壊れてもいいのなら監視カメラ映像を見せます。もし壊したくないのであれば見ない方がよろしいかと」
義弟はそれでも見る覚悟をした。警察はその覚悟に応じて監視カメラ映像を見せた。
そこに映っていたのは、まったく心当たりのない男だった。義弟はもう犯人は捕まらないだろうと覚悟した。

ところが後日、犯人が逮捕された。犯人は同署の警官……だったら恐ろしい。しがし違った。犯人は、ずっと義弟宅のベッドの下に暮らしていた男……だったら君が悪い。しかし違った。犯人は元彼女の今彼……だったら気持ち悪い。しかし違った。オチは実話ならではの味気ないものだ。

犯人はやっぱりまったく知らない男だった。

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