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雪柳 あうこ
2020年4月10日 12:34
春が、揺れる。大きな窓の下、一つきりのランプをのせた机で仕事に向かう私に、語りかけるように。何もかもを思い出さないように没頭していたいのに、春は私にそれを許さない。握りしめた万年筆が原稿用紙を削る音に、窓がかたかた震える音が絡まる。ガラスの向こうのまだ冷える夜、庭の端にどっしり根付く桜は満開。窓を隔ててはらはら雪のように散りゆく花びらが、原稿用紙に儚い影を落とす。指先が震える。桜が散るのと
2019年12月9日 16:29
墓じまいに来たついでに、祖父母の家があった土地の近くまで車を進めた。祖父母の家はわたしが学生だったうちに解体が済んでしまったけれど、すでに限界集落に近い山の半ばの村は、住む人のいなくなった木造の古い家をいくつも残している。歳をとり右足が悪くなった母を助手席から下ろし、二人で少しだけ辺りを歩いた。アスファルトの舗装のない白いコンクリートの細道を、支えながらゆっくり上る。小道はひび割れて、やが