「四国はどこまで入れ換え可能か(佐藤雅彦著)」の感想
この本は、「だんご三兄弟」や「スコーン」をプロデュースした佐藤雅彦さんのショートコミック集です。
佐藤雅彦さんの本は個人的に好きで、以前別の本の感想もnoteに書いたこともありますので、そちらもよろしければお読みください。
そして、この本も例に漏れずとても面白いです!
自分が面白いと思ったマンガと面白いと思ったポイントを紹介していきます。(マンガの描写をすべて言葉で説明するという苦行を頑張ります(笑))
読者の常識を利用する
・金のおの
①主人公が池に斧を落としてしまう。
②女神が池から斧を持って「この金のおのか」と尋ねる。
③主人公は女神が出てきた事自体にびっくりする。
・ガリバー新旅行記
①ガリバーが縛り上げられていて、「また小人の国に来たのか」と思う。
②実際は手先の器用な巨人の国に来てしまっていた。
・一休さん渡るべからずの巻
①一休さんが「このはしわたるべからず」という立て看板を見る。
②端を渡らなければいいんだというトンチで切り抜けようとする。
③しかし、看板に「橋」と漢字で書かれているため失敗
この3つの作品は、読者が一度は見たことがある場面からスタートします。ですが、どの作品も読者が想定したとおりには進みません。
「金のおの」なら池から出てきた女神にびっくりしている主人公を見て、読者は池から女神が出てくることを当然に思っていたことに気づきます。
「一休さん渡るべからずの巻」なら、「この橋わたるべからず」という立て看板が漢字で書かれていたことを知って、読者はこの看板が「このはしわたるべからず」とひらがなで書かれていると思いこんでいたことに気づきます。
読者の想定(常識)から外れた方向に進む漫画を見ることで初めて自分が持っている固定観念に気づくことができます。
そして、自分が持っている常識が通じない世界も面白くていいなぁと感じます。
一度出した理由を無理にでも突き通す
・子供忍者ちび丸ー殿のお気に入りー
①殿様がちび丸(子供の忍者)を呼び出します。
②殿様はカステラをちび丸に勧めますが、ちび丸は仕事中なので一度遠慮します。
③しかし、やっぱりちび丸はカステラが食べたいので、毒味という名目でカステラを食べます。
④ちび丸はカステラで喉が詰まってしまい、「お茶の毒味もさせて」といいます
この作品は「まんじゅうこわい」という落語に似ているなと思いました。
「まんじゅうこわい」では、主人公が自分にまんじゅうを持ってこさせるために、「まんじゅうが怖い」という理由を使います。そして、まんじゅうでお腹が一杯になってお茶が飲みたくなったら「お茶が怖い」と言い出します。
今回の作品では、ちび丸がカステラを食べるために、「毒味」という理由を使います。そして、喉が詰まってお茶が必要になった際に「お茶の毒味もさせてくれ」と言い出します。
どちらも、最初に言った理由が周りに嘘だとバレているのに、その理由を突き通そうとするところにおかしみがあります。
合理性の破壊
・賞味期限ーヨーグルト編ー
①冷蔵庫の中で、ヨーグルト4体が賞味期限についておしゃべりをしています。
②賞味期限が昨日のヨーグルトが、「自分はもう食べられないんじゃないか」と不安がります。
③「その家のお母さんによっては、2-3日へっちゃらな人もいるからまだわからない」と他のヨーグルトが励まします。
④「手堅いお母さんだと今日が賞味期限のヨーグルトを呼ぶよね」と言うヨーグルトもいます。
⑤お母さんが冷蔵庫を開けます。
⑥選ばれるのは昨日のヨーグルトか今日のヨーグルトか、みんなドキドキします。
⑦選ばれたのは明日のヨーグルトでした。
⑧ヨーグルト達は「ここの奥さんの価値観わからないー」と困惑しました。
・賞味期限ー納豆編ー
③までは上と同じ流れの納豆バージョンです。
①「この家のお母さんは、納豆を取るときは2パックだから、手堅いお母さんだったら、今日の納豆と明日の納豆が選ばれるんじゃないか」と納豆達は推測します。
②お母さんが冷蔵庫を開けます。
③選ばれたのは昨日の納豆と明日の納豆でした。
④納豆達は最初困惑しましたが、「昨日と明日の納豆を足して2で割ると今日の納豆になるのではないか」と納得しました。
上のヨーグルト編では、お母さんが賞味期限を気にせず昨日のヨーグルトを選ぶか、手堅く今日のヨーグルトを選ぶかの2択で予想していたところ、明日のヨーグルトが選ばれて予想が崩壊してしましました。
合理的に考えていたことが、たやすく破壊されてしまうところに面白さがあります。
下の納豆編は、ヨーグルト編の応用編になっています。昨日の納豆と明日の納豆が選ばれて、納豆たちの予想が崩壊するところまでは同じですが、そこから「昨日と明日の納豆を足して2で割ることで今日の納豆になるのではないか」という推測が生まれます。
合理的に考えていたことが、破壊され、その上に別の合理性が生まれるという面白さがこちらにはあります。
言葉で説明されても訳わかんねーよという方は実際に本を手にとって読んでみてください。
以上です。お読みいただきありがとうございます。
(紺色らいおんさんによる写真ACからの写真 を使用させていただきました。)
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