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「毎月新聞(中央文庫)」の書評

この本は「だんご三兄弟」や「スコーン」をプロデュースした佐藤雅彦さんが書かれたものです。
毎日新聞に月に一回掲載していたコラムをまとめたものです。

っていう説明はもうどうでもよくてとりあえず面白い。

「毎月新聞(中央文庫)」の初版発行2009年、つまり約10年前だ。単行本なら2003年発行だから15年前になる。でも書かれている内容の核は全然古びない。もし古びた部分があっても、自分の頭で現代と付き合わせることでより一層楽しむことができる。

以下、面白いと思ったコラムの要約と考察です。

おじゃんにできない(第9号)

・要約
出かけるとき、靴を履き終わった時点で忘れ物に気が付く、その際にどうするかの話。
それについて話してみると、みんなからいろんな案が出てくる。
新聞を下に敷いて戻る、よちよち歩きで戻る、ケンケンで戻る等々。
靴を脱いで取りに行くという当たり前の回答が出てこない。

そこで佐藤さんは気づく。

”それは、せっかく始めてしまったことをおじゃんにして、一からやり直すことにとても抵抗があるからではないでしょうか。” (P66)

・考察
そこで僕は気づく。
これって、サンコストコンコルドの誤謬の話なのではないか。
サンコストとは、一度投下されてもう戻ってこないお金や労力のこと。
人はサンコストを気にしすぎて愚かなことをしやすい。
例えば、食べ放題でいくら食べても払ったお金は戻ってこないのに、元を取ろうと言って食べまくる。
その結果体調を崩してしまう。
今回の例では、靴を履くというコストを払ったために、そこに縛られてしまい、よちよち歩きをするはめになるということ。
ちなみに、コンコルドはイギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機のこと。完成する前に商業的にうまくいかないことがわかっていたが、サンコストに縛られて開発を止めることができなかった。コンコルドの誤謬はサンコストの例としてよく引用される。

サンコストやコンコルドの誤謬といった難しい言葉を使わず、「おじゃんにできない」という一言でこの概念を説明できる佐藤雅彦さんすごいなぁと思った。


お客さん、これ最後のひとつですよの法則(第2号)

・要約
品切れ、最後の一つですという言葉の魔力。
最後の一つ=みんなが欲しがっている+自分は手に入れることができるという幸運

・考察
現代なら、サーバーダウン・サービス中止・配送遅延がそれに該当するのか?
ZOZOSUIT・CACHE?

この話をするのは今しかない(第3号)

・要約
話題の鮮度の話。
少し古い話題を話すと「古臭い」といわれるが、数年後に同じ話をした場合には賛同や驚嘆を得られる。

・考察
長い時間を経ることでニュースが歴史に格上げされる感じ。
芸人さんの一発ギャグとかも同じではないか。
松本人志さんはギャグの鮮度をうまく利用しているイメージがある。みんなが忘れた頃に「ルネッサンス」をやってすごく受けていた気がする。
鮮度というかインフレ化の方がしっくりくる。
ニュースやギャグをたくさんの人がいっぺんに消費することで、ニュースやギャグの価値が一時的に下がる。
しかし、時が経てばそのニュースやギャグは本来持っていた価値を取り戻す。

ブーム断固反対(第5号)

・要約

”ブームとは(中略)中身を置いてきぼりにしてしまう記号的な消費なのである。(P42)”

・考察
一つ前の考察の価値のインフレ化が爆発的に起こったのがブーム。
佐渡島庸平さんの「WE ARE LONELY BUT NOT ALONE」の中でも佐藤雅彦さんは

”「 大 ヒット し ない よう に 気 を つけ て いる。『 だ ん ご 3 兄弟』 は、 ヒット し た せい で、 新しく 好き に なる 人 が 減っ た。 他 の 作品 は、 今 も 新しく ファン に なる 人 が 多い」”

と述べている。
ブームによる価値破壊の凄まじさを物語っている。価格破壊と価値破壊があって、今は後者の方が重大か?

モードが違う(第8号)
・要約
道案内をする占い師を見て、異なるモードが同じ一人の人に同居している面白さを感じる。

”僕は、この光景を見て、とても可笑しくなってしまった。なぜなら、左手で握っているのは悩みを抱えた人の手相であり、易者として、人生を委ねられている状況である。しかし、右手で「○○ビル」をさしているその様は、人の好い親切なおじさんそのものである。二つの違った立場がひとつに同居していたのだ。”

・考察
ここで言われているモードは「私とは何か「個人」から「分人」へ」のなかの「分人」に近いなと思った。
「分人」とは平野啓一郎さんの造語で、対人・対物にたいして生まれてくる自分だ。
中学の友達と高校の友達といっぺんに会う機会があったら多分人は居心地がわるくなるだろう。
それは中学の友達と対応している時の分人と高校の友達と対応している時の分人が違うからだ。

たのしい制約(第15号)

・要約
制約があることによって創作が進む。

・考察
この制約が創造性を高めることはいろんな記事で見ますね。
wiredの記事
石川善樹さんと長沼伸一郎さんの対談

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