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「みんなのフォトギャラリー」から生まれた詩

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記事一覧

氷を崩す

氷を崩す

頬に杖ついて 欹てた耳が拾う
奏者の足音

頬に杖ついて 半開いた目が映す
グラスの汗

頬に杖ついて 歪めた頬が伝える
己の上気

指が頬をつついてリズムを取り出す

ずんずん

まだだ

たったっ

まだまだ

ずんずん

ジンフィズを

たったっ

熱を

まぶしくて

まぶしくて

目を逸らしても瞑ってもまぶしくて

直視してすら見えないものが増す増す見えなくなっていく

Something Sweet

嬉しい時に Something Sweet

怒れる時も哀しい時も楽しい時も Something Sweet

Not "Anything Sweet"

小石を蹴飛ばすまでの静寂

小石を蹴飛ばすまでの静寂

街灯が賑やかに滲んだ路面を見ていた.歩いていた.くるくる踊っていた.遮二無二叫んでしまいたい.ウィスキーと氷が耳に残した音楽を聴いていたい.かじかんだ指先でポッケの中の鍵を撫でる.何がいけなかったんだろうか.直視できない記憶の琥珀に安寧してしまう.何がいけなかったんだろうか.夜に消えない記憶の輪郭を確かめてしまう.

ひとりのうみ

ひとりのうみ

寄せては返す波を掬っては溢す

陽光が滲んで溶けて

這い上がる潮が私を心ごと沈める

まだだ

飲み込み切れず喘いだ言葉に沈溺せよ

そのベンチはからっぽか

陽気に連られてサンドイッチを買ったサラリーマン

携帯ゲームに盛り上がる児童

昼寝する私

人の行き交うミリ秒のベンチ

目の奥

目の奥

ピアスの穴,たわんだ髪,滑らかな側頬部.声をかけることもままならない.

薄く開いた口,伸び切った喉元,上瞼に寄った黒目.見惚れていた.

まただ.また彼女の世界を知る機会を失ったのだ.

まただ.またこの恍惚を私は私だけのものにできている.

私とセカイの影

私とセカイの影

夕暮れを背に歩いていると少しずつ私の影が伸びる.そのうち誰かの影に繋って,しまいには宵闇に飲み込まれていく.毎夕飲み込まれていく.たまらなく自身が矮小だと思わされる魔性の一時だ.いっそ夜は優しい.宵闇の向こうにみんな消えて,一人佇んで,ようやく私は私の存在を自覚する.

雨降りの雑踏に立ち止まる

傘をさすと,人との距離が空く.触れたい.知りたい.けれどいつも私は何か間違えて後で後悔するのだ.後悔の最中,自分が生きていると強く感じる.雨は私と他者を隔ててくれる.傘の柄を握る手が私の視界に漂う. 自然と私の意識は内向する.やさしく自分が生きていることを教えてくれる.

風が吹く前に

風が吹く前に

昨日蹴った石コロを探したことがある.思い出探しみたいなものだろうか.見つかった試しはまずない.並んだ葉っぱは,色合いを愛でた跡かもしれないし,悲しみの数かもしれない.多分,前者だ.そんな出会いを大事にしたい.

「みんなのフォトギャラリー」で目についた写真をテーマに詩を書いています.