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これは大企業病だ!~積み上がる手元資金、増えない研究開発費~

 日経電子版の記事【データ分析 世界企業の攻防(下) 日米欧、カネ余り鮮明 日本、研究開発で見劣り】を読んでつくづく実感したことがあります――日本に大企業病が蔓延しているのではないか――


 第4次産業革命の時代に、本来企業のあるべき姿は、「イノベーションのアイデアが社内に溢れ、やりたい事がいっぱいで、研究開発費が足りない!」、ではなかろうか?なのに手元資金だけが冬眠状態というのは、どうしたことか……。

 記事には「バブル崩壊後に過剰な借金に苦しんだ記憶は根強い安全志向として残る」とありますが、過去の失敗体験だけでは説明がつかない部分があるように思います。研究開発費などの成長投資が伸びない背景には、『過去の失敗体験』から来る『消極性』の他に、『過去の成功体験』に胡坐をかいた大企業病が原因の『積極性の欠如』、という側面もあるのではないでしょうか?

 企業にとって大切なものは、ESGなども含め多々ありますが、企業にとって最も基本的な、企業が顧客に提供する商品(モノ・サービス)ということであれば、『商品開発』こそ最も大切なことだと言えます。そして、消費の対象がモノからコトへと比重を移していく現在進行形の第4次産業革命の時代の『商品開発』には、消費者の潜在的なニーズを捉えた、今までにない全く新しい価値を創出するイノベーションが重要なのは言うまでもありません。このイノベーションへのアプローチにおいて『積極性の欠如』という現象が起きていては、研究開発費が伸長するはずもありません。


 『積極性の欠如』という現象は、様々な形で現れてくると思われますが、大きくは次の3つに集約されると考えられます――

 ① 何をやればいいか分からない。イノベーションのアイデアが枯渇して
  いる。⇒『イノベーションのアイデアがない』
 ② アイデアはあるのだが、経営トップが及び腰で、イノベーションに
  本格的にアプローチできない。中途半端な状態。⇒『イノベーションの
  アイデアがトップに承認されない』
 ③ アイデアが決裁ルートの途中で潰されてしまう。アイデアのある意欲
  のある人材が、社内で孤立している。⇒『イノベーションのアイデアが
  埋もれている』


 言うまでもなく、最も症状が重いのは、①の『イノベーションのアイデアがない』です。

 成功体験を引きずった上から目線、『お客様目線の欠如』や、肥大化した本部組織による『現場軽視』の風潮などが、作り手の思い込みを排して、スピーディーに無駄なく時代の求める商品(モノ・サービス)を作る事を妨げているのではないでしょうか。『お客様目線の欠如』や『現場軽視』は、典型的な大企業病の症状です。

 経営トップから従業員に至るまで、『お客様目線の欠如』や『現場軽視』といったメンタリティーが蔓延すると、危機感は欠落し、新しいものを作ろうという機運は湧いてこないに違いありません。


 ②の『イノベーションのアイデアがトップに承認されない』という状況は、すなわち第4次産業革命の時代の経営トップの資質という問題と直結しています。

 無論、全てのアイデアを承認する必要などありませんが、イノベーティブで可能性のあるアイデアを見抜く、時代に対する鋭敏な嗅覚が求められると思います。さらには、アントレプレナーの資質を持って、経営トップ自らがイノベーションにアプローチし、イノベーティブなアイデアの事業化を指示、陣頭指揮するくらいでないと、企業の舳先(へさき)はなかなかイノベーションへと向いていかないかも知れません。


 ③の『イノベーションのアイデアが埋もれている』というのは、非常にもったいない状態です。

 事なかれ主義・手続き主義・煩瑣な決裁ルート・タテ割り組織などの官僚主義は、まさにイノベーションの大敵で、(経営トップが先頭に立って)組織改革・意識改革を断行しない限り、優秀な人材のやる気を削ぎ、人員の流出が続くことになります……


 『積み上がる手元資金、増えない研究開発費』、その背後に大企業病があるとすれば、そのような企業は、まず大企業病と闘う決断と勇気が求められます。それは、極めて困難の予想される戦いですが、それを乗り越えなくては、第4次産業革命の時代のイノベーションに乗り遅れることは間違いないと思われます。それにはまず、『リスクを取らないリスクがいかに大きいか』、中長期的な視点を皆が共有する事ではないでしょうか。

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