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武田敦
2024年2月3日 07:00
『ふふ。さすがは、詩人さんね。あなたが盆地、盆地と言っているあの地形、実はカルデラなの。巨大カルデラ』 「火山だったの!」 『安心して、死火山だから。……見た目には別世界のように見えても、『盆地』の中と外は、地質学的にはつながっている。鉱物が豊富』 わたしは、改めて登りゆくアンコーナの太陽に照らされた大地を見晴るかした。 ……きっと陽の角度によって山肌の色彩は、驚くほど繊細なグラデーショ
2024年2月2日 07:00
わたしは、目を見開いた。――あと数秒であそこを! そして……やんぬるかな、やっぱり目を瞑ってしまった。エリザの逞しい首に指先から足先まで全身でしがみつきながら…… フッと風圧が弱まった……先刻までのわたし達が大気を切り裂く槍のようだとすれば、まるで凧のように…… 恐る恐る目を開いたわたしは、盆地の中とはまるで違う弱い気流の中を、エリザの背に乗ってゆったりと滑空していた。眼下の風景は、つい昨
2024年1月31日 07:00
それで、会話は途切れた。わたし達二人(?)とも、何となく黙り込んでしまった……心が読める二人の間で沈黙なんてものがあるとすればだが…… わたしは、悠然と滑空するエリザの首筋につかまりながら、気流がその強さを増してきていることに気付いた……太陽はどんどん高くなっていく……エリザは、ちょっと体の一部を動かすだけで、自在に虚空を切り裂いていった。 『そろそろ行きましょう!』 彼女は、この時を待っ
2024年1月15日 07:00
わたしは、前を行くデビル達と湿りを帯びた洞窟の壁との間の狭い隙間を、デビル達の横っ腹にぶよっぶよっと手を突きながら駆け抜けた――一匹、二匹……四、五、六……八匹……九! パッとまぶしく周囲が開け、わたしは、断崖絶壁からせり出した岩棚の上に走り出ていた――危うく急ブレーキをかけ前のめりに立ち止ったわたしの全身を、夏とまではいかないが、明らかに初夏の風が吹き抜けた。強い風……。 わたしの眼前に、