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この男、どうかしている。命がけで海に飛び込んだトマト農家の男がおもしろいっ!

渥美半島の異端児発見!15歳でニューヨークの超有名劇場カーネギーホールの舞台で剣舞ソロパフォーマンス、17歳で剣舞全国優勝、20歳を過ぎてからはテレビや映画のスタントマンとして活躍し、大河ドラマに役付きで出演も果たした男、石井芳典。彼の本職はトマト農家である。彼の面白いのはこの異色の経歴のみにあらず。実は彼、独学で鮨(すし)の技術を身につけ、幻の自宅寿司屋「よし鮨」を始めてしまった。その底知れぬ探究心から経験した話は「おい、マジかっ!?(笑)」と驚き笑ってしまう程に面白い。

石井氏が剣舞全国優勝した時の映像がコチラ↓


そして...2010年。この男、石井芳典が何を思ったか、今度は銛(もり)を片手に夜の海へ潜りはじめたっ!?


 ドボン! シュワシュワー!

 今夜もたった一人で沖へ船を出し、真っ暗な海底へと息をとめて潜ってゆく。不気味に静まり返ったその世界は、かつて人間がいなかった太古の昔へとタイムスリップしたかのようだ。左手にライト、右手にはプロの漁師がつかう自慢の土佐銛が出番を静かに待っている。
 息のつづくかぎり、キョロキョロと眼だけを動かし、魚のいそうな場所をさがしまわる。不気味なほどの静けさと言ったが、途轍もなく大きくて、かえって人間の耳に聞こえない、地球が発する巨大な音に包まれているようでもある。
 ふと、岩穴が眼にとまった。そっと近づき、中を照らし覗き込むと、大きなタイが、ギラリとこちらを見た。その瞬間、ぼくの眼は般若のように細く吊りあがり、身体中の血が一気に沸き立つ。大物だ! 銛のゴム紐を力一杯に引き、すぐさま放つ。
 グサリ! その大きな土手っ腹を銛先が貫通し、ウロコがパアッと散った。突然の出来事に驚いた大鯛は、銛が刺さったまま、すごい勢いでぼくの方へむかって穴から飛び出してきた。その顔面を反射的に、左手で鷲掴みに掴まえる。人間の頭ほどの大きさだ。右手でナイフをぬいて、トドメの一撃を首に突き立てる。
 が、首の骨は想像以上に頑丈で、中途半端に刺しただけでは断ち切ることができない。ならばと、ナイフの柄を両手でもって、暴れる鯛もろともそのまま岩の側面にブチあてた。バキィッ! ナイフの先が少し折れると同時に、バタバタバタッー! 末期の痙攣のあと、獲物の命が尽きた感覚が、ナイフをとおってぼくの手に伝わり、狩りに成功した爽快感が全身に沁みわたった。
 そのあとは小物ばかりだったが、途切れることなく次々と仕留めつづけた。さっきまで意思をもって生きていた魚が、ぼくの手のひらで、今は口をぱっくり開けて絶命している。その姿に、ふと、ぼくもいつか逆の立場になり、このような姿を晒すのかもしれないという思いが頭をよぎる。
 どのくらい時間がたっただろう、いつものようにピリピリと体が麻痺してきた。手の感覚はもはやないに等しい。夜の冷たい海水が体温を徐々に奪ってゆく。胸のあたりに、グワアーンと違和感が生じる。波に酔ったように気持ちが悪くなり、視力が曇るように落ちてくる。そこからさらに時間がたつと、ほとんど見えなくなってしまう。しかし集中して眼をギッと凝らすと、そのときだけ、一時的に見えるようになる。
 そろそろ今日のゲームは終わりにしよう、と思ったそのとき、向こうの闇の中から、ヌウーッと、ぼくの脚の長さほどもあるスズキがあらわれた。思いがけない大物がやってきた、と最後の力を振りしぼって銛のゴム紐を引く、ギリギリギリ…狙いを定めたとき、ぼくはやっと異変に気づいた。
 なんとそのスズキには、背びれがない、肩から尾にかけて背中がないのだ。大きく湾曲したギロチンのような物で一口にバッグリと食いちぎられている...。そして...

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