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”心を入れ替えた夫”を受け入れられないあなたへ

壁に向かってラケットを振る。

ボールは思ったところに予想通りの力で返ってくる。

中学生の頃、テニス部だったぼくは校舎の裏でよく壁打ちをしていました。

ボールをまっすぐ打てばまっすぐ返ってくる。斜めに打てば斜めに返ってくる。

壁打ちって、ボールを自分の思い通りにコントロールできるんです。

でも、相手がいるラリーはそう簡単ではありません。

予想外の場所に相手が打ち込んできたり、こちらも相手がいない場所に打ち込んでしまい、ラリーが止まることが何度もあるんです。

息の合わない相手だと特に止まりやすく、(なんで、そんなとこに打つかな…?)と思うことすらありました。

これって、夫婦の会話でも同じだなと思うんです。

「今さら何言っているの?あなたが変わったと言っても私は信じないから」

妻を大切にしてこなかった男性が、これからは妻を大切にしようと行動を変えた時、まっさきに立ちはだかる壁が妻からの不信感です。

どんな言葉をかけようと、どんなに妻や家庭のために行動しようと、妻の心は固く閉ざされ、こちらの言葉がまったく届かない。

妻に向けて打った優しさというボールは、敵意という形で何倍もの力で返ってくる。

もしくは、こちらがどれだけボールを打っても、妻はボールを拾おうとすらせず、ただ足元のボールを見つめている。

夫婦関係に悩む男性の話を聞くと、こういった話をよく聞くんです。

どれだけ夫が変わったと言っても、私は信じない。いや、心が信じることを拒否しているのだ。

まるで、そう言うかのように妻の心は開かない。

だけど、ちょっとした一歩がふたりに大きな影響を与え、子どもを含めた家族全体の幸せに大きく関わってくると思うんです。

「心を入れ替えたという夫を信じられない」

「今さら何を言われても話を聞きたくない」

(だけど、本当は今のままではいけないことは分かっている……。)

そんな女性に、この記事が少しでもヒントになれば幸いです。

「夕飯をレンジで温めているあっちゃんを見て、イライラが止まらなかった」

昔、妻がそう言ったんです。

まだ、上の子が1歳になるちょっと前だったと思います。

妻は一日中子どもの相手をして疲れ果て、ぼくは仕事から帰り、妻が作ってくれた夕飯を電子レンジで温め直しているところでした。

(あたしには温かいご飯を食べる時間なんてないのに……。)

一日中、育児と家事に追われ、一息つく時間なんてこれっぽっちもないのに、なぜ、あなたは優雅にご飯を温めてなんているのだと。

妻は殺意にも近いイライラをぼくに感じたそうです。

他の方でも、産後のものすごく大変な時期に夫が支えてくれなかったために、夫に大きな恨みを抱いてしまうことってあると思うんです。

夜泣きの対応をしてくれなかった。
おむつをろくに変えてくれなかった。
私を眠らせてくれなかった。
いつも仕事帰りが遅かった。
夕飯をレンジで温めるあなたが憎かった。
優雅にビールを飲むあなたに殺意を覚えた。
病気になっても、私と子どもたちの面倒をみてくれなかった。
私が一人で子育てすることが当たり前だとあなたは思っていた。

きっと、あなたもこういった思いを夫に抱いていたんだと思います。

上の子が8歳に、下の子が4歳になり、妻との絆を取り戻した今、ぼくにはわかります。

あなたはずっと傷ついてきたんですよね。

小さな子どもを抱え、頼る人もおらず、この世界で自分と子どもだけになったかのような孤独と絶望の中、必死に生きてきたんですよね。

唯一の味方であるはずの夫からは冷たい言葉をかけられ、誰も信じられない強い不信感が心に刻まれ、(この人には頼らない)と固く誓ったんですよね。

あなたはずっと傷ついてきた。

そんなあなたが夫を恨むのは当然です。

あなたを大切にしようと生まれ変わった夫を見ても、あなたの心は反発を感じてしまいますよね。

今さら何言っているの、私が今までどれだけ苦労したと思っているの。
あなたを許したら、今までの私の気持ちはどうすればいいの。
今さら虫のいいこと言わないでよ。

きっとそう感じると思います。

それに、もしかしたら、「いい夫」に変わった夫を受け入れられない自分を責めてはいませんか?

夫は変わったというのに、そんな夫を素直に受け入れられないなんて、私はおかしいんじゃないか?

私が悪いのかな……。

でも、あんなに苦しめられた私が悪いなんて、なにかおかしい……。

そう感じてはいないでしょうか?

そうですよね。あんなに苦しんだあなたが悪いなんておかしいですよね。

ぼくは、夫を受け入れらないあなたが悪いとは思えないんです。

夫が打ってくるボールの強さと方向が予想外なので、ただうまく打ち返せないだけだと思うんです。

今まで何度言っても協力してくれなかったのに、急に態度を変えられてもびっくりしますよね。

夫が投げてくるボールにびっくりして、うまく打ち返すどころか、受け止めることも難しいですよね。

そんな時は、無理に打ち返さなくてもいいと思うんです。正面から受け止めなくてもいいんです。

コロコロと転がるボールを拾い上げ、まずはしげしげと見つめてみてはどうでしょう?

今まであなたは一人で壁打ちをしてきたんです。

家事も育児も、自分がコントロールできる世界の中にあったはずです。

このボールはここに打てばこう返ってくる。あのボールはやっかいだからこう打った方がいい。

きっと、家庭の中のすべてにあなただけの勘所があったはずです。

料理、洗濯、掃除、習い事の送り迎え、子どもの保育園や学校の準備。

きっと、あなたにしかわからないボールの打ち方があったはずです。

なのに、突然夫が現れてラリーをしようと言う。夫はラケットを握ったことすらないのに。

素人とのラリーは気を使うことが多いから疲れますよね。

それに、二人で何かを一緒にやるなんて久しぶりじゃないですか?

もしかしたら、独身の時以来かもしれないですね。

どうやって息を合わせればいいのかなんて、お互いに忘れてしまっていますよね。

でも、それでいいと思うんです。

「ちょっとボールが速いからもっとゆっくり打って欲しい」

「ちょっと違うところにあなたは打っているから、もっちこっちに打って欲しい」

と、言っていいんです。

いちいち指示するのは大変だし、それなら一人で壁打ちしていた方が楽だとあなたは思うかもしれないけど、慣れてくればうまくラリーができるようになってくるんです。

今はまだ、あなたの方が先にラケットを握り、壁打ち練習で上達してしまっているんです。

どうか、夫があなたのレベルに近づくまで待って欲しいんです。あなたの夫は追いつこうと必死ですから。

ラリーに慣れてくれば、お互いのボールの癖もわかり、相手との意思疎通も自然とできるようになってきます。どうか、もうちょっとだけ待ってください。

どうでしょう?やっぱり難しいでしょうか?

もし抵抗を感じるのであれば、もしかしたらあなたは夫への恨みの扱いに戸惑い、「いい夫」に変わった夫を受け入れられず、ボールを打ち返したくないと思っているのかもしれません。

突然の夫の変化にはびっくりしますよね。今までのことがあるから信じられない思いだと思います。

それに過去の恨みをなかったことにされたくないですよね。

恨みを忘れなければいけないのか、夫を許せない自分の心が狭いのかと思い悩んでしまいますよね。

でも、無理に許さなくていいと思うんです。

トラウマ治療専門家の話によると、トラウマは消えてなくなることはなく、ただ薄まっていくだけだそうです。

産後の恨みはPTSDと呼べるほどの心の傷だと思うんです。

そんな大きな心の傷つきは、ちょっとやちょっとでは癒されないと思うんです。

だから、無理に許そうとしたり、夫への恨みを消そうとがんばらなくていいと思うんです。

夫の変化に戸惑いながらも、恐る恐るボールを打ち返し、少しづつラリーを続けていく。

すると不器用だったふたりのラリーが、ちょっとずつこなれたものに変わっていくはずです。

その繰り返しの中で、あなたの夫への恨みは削り取られていくんです。

薄まっていく夫への恨みが、あなたに壁打ちでは手に入れることができないラリーの楽しさを、ふたりで生きていくことの喜びを与えてくれるはずです。

少なくとも、妻へのケアを続けてもうすぐ5年目のぼくは、そう感じています。

あなたと夫さんとのラリーが、少しでも心地よいものになれるよう、心から祈っています。






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