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「茜色の空」

「茜色の空」(小説・柿の木と鳥モチ)

あれは、ちょうど、今頃の時期だったかも知れない。


僕の家には、庭に柿の木があった。


たいして実を付ける訳ではなかったが、それでも熟してくると鳥たちが食べにやってきたりしていた。


僕は、子供の頃その木に一度だけ鳥モチをつけた事がある。


その頃は、駄菓子屋のような所でも、田舎では鳥モチを売っていたのだ。


しかし、鳥モチを柿の木に付けたのは鳥を本当に獲りたかった訳ではない。


単に、鳥モチを使ってみたかっただけだった。


柿の木には、朝早くに鳥モチをつけた。


そして、朝食を食べ、学校へ行く支度をしていると、僕は、そのこと自体を忘れていたのだった。


ところがである、暫くすると、どこからか喧しい声が聞こえてきた。

「ギィヤー、ギィヤー」と大きな声で何かが鳴いているのだ。


僕は、慌てて家の外に出た。


すると、鳥モチをつけた柿の木で。


一羽のオナガが、鳥モチにかかって羽をバタバタとさせて騒いでいたのだ。


オナガは、長い尾羽を持つ鳥で、土鳩よりも少し小さい鳥だ。


僕は、そのオナガを見てたまげてしまった。


まさか、本当に鳥がかかるとは思ってもいなかったからだ。


しかも、スズメやメジロなどの小鳥ではなく、大きなオナガだったから、なおさらだった。


僕は、そのオナガの側によって、オナガの足についている鳥モチをとってやろうとした。


しかし、オナガは人が近ずくのが怖かったのだろう。

大きな声をだして暴れて、中々足の鳥モチをとってやることが出来なかった。


僕が、どうしたものかと、もたもたとしている間に、時間は進みもう学校の始まる時間になっていた。


僕は、「ああ、学校が始まってしまう。早く、学校へ行かなくては遅刻してしまう」

と思ったが。


しかし、このオナガを、そのままにして置くわけにはいかなかった。


それから、僕は、何とかしてオナガの足についている鳥モチをとってやることが出来たのだった。


鳥モチがとれて、自由になったオナガは。


羽を、はばたかせると、

「グェー」と、

あまり良い声ではないが、ひと声鳴くと。


大空へむかって、飛び立っていった・・・。



その後、急いで学校へ行ってどうだったかは全く覚えていない。


しかし、オナガのような美しい鳥に対して、鳥モチを使って恐ろしい思いをさせた事を後悔したことは確かなことだった。


だから僕は、それ以来鳥モチを使用した事は一度もない・・・。



注‼(現在は、鳥モチを使用して鳥類を捕獲する行為は禁止されていいます)



「茜色の空」アクリル画 (秋野あかね)

アートとメルヘンと創作の森 画廊





「茜色の空」(柿の木と鳥モチ)は、アートとメルヘンと創作の森の記事を一部修正加筆して再掲いたしました。
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画像素材 ACイラストより

2022.11.2

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