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銀河のお話し(12) アンドロメダ殺し 第二幕


お話の設定の説明です。

月影優子の心配

ソンブレロ銀河の話を楽しんだ翌日の放課後、優子はまた天文部の部室に向かった。さて、今日はどんな展開になるのだろう。楽しみではあるが、不安もある。その不安はアンドロメダ銀河の行方のことだ。

定例部会の次の日、アンドロメダ銀河の話を終えたとき、輝明はニヤッと笑っていた。その笑みの意味するところは何か? アンドロメダ銀河には、まだとんでもない出来事が待っている! これが優子の予想だ。といったい、どんな出来事なのだろう。

そんなことを考えながら部室に入っていくと、もう輝明は来ていた。

「部長、今日もよろしくお願いします。」

「おお、優子。今日はどんな話をしようか?」

 優子は一瞬悩んだが、思い切って言った。

「アンドロメダ銀河の運命について! この話でお願いします。」

「オーケー。じゃあ、始めよう。」

優子はわくわくしてきた。

「この前の話ではアンドロメダ殺しというか、アンドロメダ銀河は今から20億年前にM32に衝突された話をした。おかげで、現在のアンドロメダ銀河には綺麗な渦巻はない。その代わり、リングができてしまった。つまり、アンドロメダ銀河は渦巻銀河ではなく、リング銀河ということになった。」

「はい、その話には本当に驚きました。だって、どんな天文関係の本や雑誌では、アンドロメダ銀河といえば渦巻銀河の代表みたいに紹介されています。そもそも、ハッブルもアンドロメダ銀河をSb型の渦巻銀河に分類していました。」

「そうだったね。アンドロメダ銀河は渦巻銀河じゃないなんて言ったら、普通はバカにされそうだ。」

「はい、だから私は人には言わないようにするつもりです。」

「うん、それがいい。

本当はアンドロメダ銀河の真の姿を理解してもらう方がいいに決まっている。ところが、通説というか、みんなの共通した知識になっていることを覆すのはとても難しい。まあ、とりあえず、放っておくのが一番だ。」

「では、そろそろ・・・」

 優子に促されて、輝明はアンドロメダ殺しの第二幕の話を始めることにした。

アンドロメダ銀河がやってくる

「アンドロメダ銀河までの距離は250万光年。では、アンドロメダ銀河は天の川銀河に対してどのような運動をしていると思う? 遠ざかっているのか? あるいは、近づいているのか?」

「あれっ?」

 優子は輝明の質問に面食らった。

「宇宙は膨張しているので、銀河は宇宙の膨張の効果でお互いに離れていっていると聞きました。」

「それが本当だと、アンドロメダ銀河は天の川銀河から遠ざかるように運動していることになるね。」

「そう思います。」

「ところが、違うんだ。」

「ええっ! じゃあ、アンドロメダ銀河は近づいてきているんですか?」

 優子は驚いて輝明に聞いた。

宇宙膨張に逆らう銀河

輝明はパソコンを取り出して、スライドを見せてくれた。

「銀河は宇宙のある場所に位置している。まあ、ほとんど動かないと思っていい。ところが、宇宙膨張の効果で銀河はお互いに離れていくんだ(図1)。優子の言ったとおりだ。」

「そうですね。単純に考えると、アンドロメダ銀河は天の川銀河から離れていくことになります。」

図1  宇宙膨張の効果で銀河同士がお互いに遠ざかっていく様子。銀河は黒丸(●)で示されている。

「ところが、銀河はぶつかることがある。」

「はい、そうでした。アンドロメダ殺しの話の中で、M32がぶつかってきたことを教えてもらっていたのに・・・」

 優子はしょんぼりしている。

「気にする必要はないよ。宇宙は広いので、いろいろな場所があることを、まず覚えておこう。」

「はい。」

「実際、銀河は宇宙に一様に分布しているわけではない。そもそもダークマターの密度が高い領域で、銀河は選択的に多く生まれている。そのため、銀河同士がお互いの重力圏内にいる場合がある。この場合、宇宙膨張の効果に打ちかって、銀河はお互いに近づいていくことができるんだ(図2 )。

図2 鎖線で囲まれた二個の銀河はお互いの重力圏内に入っているため、宇宙膨張の効果を振り切って近づいていく。銀河は黒丸(●)で示されている。

「なるほど、そうだったんですね。」

「まず、天の川銀河だけど、太陽みたいな星が約2000億個もある。ダークマターがあるので、質量は太陽質量の約2兆倍だ。」

「想像できないぐらい、重いですね。」

「アンドロメダ銀河の直径は15万光年以上あり、天の川銀河より大きい。質量もやや重い。これだけ重い銀河が比較的近くにあると、お互いの重力の影響を受ける。というよりは、二つの銀河は、すでにお互いの重力圏内に入っていると考えていい。」

「重力は万有引力とも言うので、引き合う力ですね。」

「そうだね。だから、アンドロメダ銀河と天の川銀河は重力で引き合い、お互いに近づいてきているんだ。」

「どのぐらいの速度で近づいてきているんですか?」

「なんと、秒速300キロメートル。時速にすると、100万キロメートル! 途方もなく速いスピードだ。」

「すると、二つの銀河の未来予想図は・・・」

「そういうことだ。」

 優子の頭の中に、アンドロメダ殺しの第二幕の様子がおぼろげながら浮かんできた。

「アンドロメダ銀河と天の川銀河を待ち受ける未来予想図は二つの銀河の衝突だ。」

「アンドロメダ銀河も可哀想ですね。20億年前にM32がぶつかってきて、最近ようやくその後遺症も治りつつあるというのに、今度は・・・」

「まったくだ。天の川銀河はM32に比べて非常に重い。大事件が起こるということだ。」

接線速度を測定せよ

「さて、ここで問題だ。アンドロメダ銀河が天の川銀河に向かって秒速300キロメートルの速度で近づいてくるというだけで、正しい未来予想図を描くことができるだろうか?」

「アンドロメダ銀河までの距離は250万光年。1光年は約10兆キロメートルなので、距離は2.5かける10の19乗キロメートルになります。速度は秒速300キロメートルなので、割り算をすると約8かける10の16乗秒。一年は約3かける10の7乗秒なので、だいたい3かける10の9乗年ですね。つまり、30億年後にはぶつかるんでしょうか?」

「優子、素晴らしい計算だ。ただ、ひとつ問題がある。」

「ひょっとして、二つの銀河の相対速度として、単純に秒速300キロメートルとしたのは・・・。」

「そうだね、その速度は視線速度だ。つまり、アンドロメダ銀河と天の川銀河とを結ぶ方向での相対速度でしかない。しかし、アンドロメダ銀河の運動速度は視線速度だけで評価することはできない。」

「そうか、視線と直交する方向にも運動しているからですね。」

「ピンポーン!」

「視線と直交する方向の運動速度は接線速度と呼ばれている(図3)。」

「天球面に沿う方向にどのぐらいの速度で運動しているか調べないとダメなんですね。」

図3 天体の視線速度と接線速度。視線速度は観測する人と天体を結ぶ方向の速度。接線速度は天球面に沿う天体の移動速度。
https://astro-dic.jp/proper-motion/

「それを測定するには天体の固有運動と呼ばれる運動を調べることになる。たとえば、1年間あたり、その天体の見える方向がどのぐらいずれたかを調べることになる。」

 ここで、一旦まとめておこう。輝明は説明を加えた。

「秒速300キロメートルの速度というのは、視線に沿った方向の速度だ。つまり、1次元の速度情報にすぎない。視線と直交する方向の動きも知らないと、アンドロメダ銀河の真の運動はわからない。視線と直交する方向は接線方向と言うんだけど、接線方向は、天球面に沿った方向になる。天球面は面なので、縦・横の二次元になる。方向は任意でいいけど、二方向の速度情報が必要になる。視線速度にこの二方向の速度を加えることで、アンドロメダ銀河の三次元空間における運動の様子がわかる。」

ハッブル宇宙望遠鏡を使え

 詳しいことはさておき、優子には接線速度の測定は難しそうに思えた。

「問題は接線速度をどうやって測ればよいかですね。」

「うん、実は結構難しい。」

「視線速度の測定は簡単だ。その天体のスペクトル観測(分光観測)をすればいい。ある既知のスペクトル線(輝線でも吸収線でもよい)が、静止しているときの波長と比べて、どれだけ波長がずれているかを測る。そのずれが、天体の運動速度を反映している。ドップラー効果と呼ばれる現象だけど、これを利用すれば視線速度が簡単に求まる。」

「やっぱり、問題は接線速度ですね。アンドロメダ銀河までの距離は250万光年もあるので、横方向の動きはとても小さいんじゃないでしょうか?」

「そうなんだ。だから接線速度を測るのは難しい。なぜなら、ある期間にわたってその天体を観測して、横方向の移動量を測定しなければならないんだ(図4)。」

図4 アンドロメダ銀河の三次元速度の測定。(上)分光観測から視線速度を測定。(下)天球面の様子。アンドロメダ銀河の一部をモニター観測し、星の横方向の移動を調べる。アンドロメダ銀河より遠方の銀河はほとんど動かないので、それらを位置の基準として使う。なお、図ではアンドロメダ銀河が大きく移動しているように描いているが、実際の移動量は非常に小さい。なお、アンドロメダ銀河は250万光年の距離にあるので、私たちが現在見ているアンドロメダ銀河は250万年前の姿である。星も銀河もそうだが、私たちが見ているのは、すべて過去の姿である。 https://ja.wikipedia.org/wiki/ハッブル宇宙望遠鏡#/media/ファイル:Hubble_01.jpg

「どうするんですか?」

「ハッブル宇宙望遠鏡に頼むしかない(図5)。」

図5 ハッブル宇宙望遠鏡。NASAの運用する宇宙望遠鏡のひとつで、口径2.4メートルの反射望遠鏡。1990年に打ち上げられ、4半世紀以上にわたって宇宙の精密観測を行ってきている。後継機であるジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡も2021年に打ち上げられ、活躍し出したが、ハッブル宇宙望遠鏡の運用は続けられている。 NASA - http://spaceflight.nasa.gov/gallery/images/shuttle/sts-125/html/s125e011835.html[1]

アンドロメダ銀河の運動を暴く

輝明は説明を続ける。

「ハッブル宇宙望遠鏡は口径2.4メートルの反射望遠鏡だ。口径だけなら地上の大型天文台に及ばない。しかし、ハッブル宇宙望遠鏡は大気圏外を飛んでいる。そのため、大気の影響を受けないので、非常にシャープな画像を得ることができる。」

「ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した写真はどれも美しくて感動します。」

優子は目を輝かせながら言った。

「その実力が買われて、アンドロメダ銀河の天球面に沿う接線方向の運動を調べるのにハッブル宇宙望遠鏡が使われたんだ。なんと、七年間のモニター観測を行った。おかげで、アンドロメダ銀河の接線速度がわかったんだ(図6)。」

図6 ハッブル宇宙望遠鏡によるアンドロメダ銀河のモニター観測。右のパネルに示された狭い天域を約七年間観測した。遠方の銀河はほとんど動かないので位置の基準点として使える。それらの動かない銀河に対してアンドロメダ銀河の中の星がどういう動きをしているか調査したのである。その結果が左のパネルに示されている。矢印の方向と長さはアンドロメダ銀河の背景に見える遠方の銀河に対する相対位置の変化である。 Credit:NASA, ESA, and A. Feild and R. van der Marel (STScI) https://stsci-opo.org/STScI-01EVT47H4DXMGB1D3HMCMGGRBG.pdf

輝明はハッブル宇宙望遠鏡によるアンドロメダ銀河の観測について説明を続ける。

「接線速度は天球面に沿う方向の速度だ。それを測るには天体の「固有運動」を調べればいい。」

たとえば、ある晩、星空を撮影する。1年後にもう一度、同じ方向の星空を撮影する。1年前の画像と比較してみると、遠い星は同じ位置に写っているが、近くにある星は遠い星に比べて少しだけ動いていることに気づく。この動きが固有運動だ。ずれ動いた角度をθ、その天体までの距離を d とすると、実際に動いた距離はtan θ× d。1年間にこの距離を動いたので、「固有運動」の速度はtan θ× d / 年として求められる。」

「なるほどです。」

優子は感心して聞いていた。

「ハッブル宇宙望遠鏡でアンドロメダ銀河にある星の「固有運動」を測ったところ、わずか0.00002秒角の精度で測定することができた。」

「ピンと来ませんが、すごい測定精度なんですね?」

「僕たち人間の目が分解できる角度は1秒角ぐらいしかない。1秒角というのは3600分の1度だから、結構分解しているんだけど、そのぐらいの精度ではアンドロメダ銀河の接線速度の測定は無理なんだ。」

 なんだか、輝明は鼻高々という感じで話を続ける。

「やっぱり、接線速度もあった。東向きと南向きの速度は秒速100キロメートルを超える。視線速度は測定済みなので、アンドロメダ銀河の三次元運動の様子がわかった(図7)。」

図7 天の川銀河に対するアンドロメダ銀河の三次元速度。

宿命

「いよいよですね。」

 優子は怖いもの見たさという感じだ。

「アンドロメダ銀河までの距離、そして三次元運動の様子。これらの値を使って、アンドロメダ銀河と天の川銀河の運命を精密に調べることができる。その結果、二つの銀河の運命が明らかになった。」

 輝明も少し興奮気味だ。

「まず、二つの銀河は40億年後に最初の衝突を経験する(図7)。さっき、優子は視線速度だけを頼りに、30億年後に衝突すると言ったけど、非常にいい線をいっていた。実際には接線速度があったので、少しカーブしてアンドロメダ銀河は近づいてくるので、10億年余計に時間がかかるということだ。」

 優子は自分の計算がそれなりに意味のあるものだとわかって嬉しくなった。

「アンドロメダ銀河と天の川銀河の合体には「さんかく座」の方向に見えるM33も巻き込まれることがわかった(図8)。」

図8 アンドロメダ銀河と天の川銀河は40億年後に衝突する。その際、「さんかく座」の方向にある渦巻銀河M33も巻き込まれる。M33はアンドロメダ銀河のやや右上に見えている。 https://science.nasa.gov/missions/hubble/nasas-hubble-shows-milky-way-is-destined-for-head-on-collision/

「最初の衝突が近づいてくる頃、秋の夜空にはアンドロメダ銀河が悠然と輝いて見えるだろう。今から37.5億年後、つまり最初の衝突の2.5億年前の状況だ(図9)」。まるで、別の天の川がそこにあるようだ。アンドロメダ銀河を眺めるのに双眼鏡も望遠鏡も必要ない。ただ、夜空を見上げればそこにあるっていう感じだね。」

「この夜空、見てみたいです。」

 優子はうっとりとしてスライドを見つめた。

図9 今から37.5億年後の夜空に見えるアンドロメダ銀河(左)と天の川(右)。 https://science.nasa.gov/missions/hubble/nasas-hubble-shows-milky-way-is-destined-for-head-on-collision/

「たしかに、すごい夜空だ。天の川の光で影ができるというけど、アンドロメダ銀河も加われば、夜道もよく見えそうだね。」

「じゃあ、アンドロメダ銀河と天の川銀河の合体までのフルストーリーを見てみよう(図10)。二つの銀河の最初の衝突は40億年後に起こる。しかし、そのときの衝突で二つの銀河はひとつにはならない。一旦、すり抜けてしまうんだ。そして、50億年後に2回目の衝突が起こるけど、このときもすり抜ける。最終的に合体するのは今から60億年後。3回目の衝突のときだ。」

図10 アンドロメダ銀河と天の川銀河が衝突・合体していく様子。現在(1段目左)から70億年後(4段目右)まで示してある。 https://science.nasa.gov/missions/hubble/nasas-hubble-shows-milky-way-is-destined-for-head-on-collision/

「うわあ、銀河同士の合体って、大変なんですね。」

「そうだね、3回の衝突を経て、ようやく一個の銀河に形を変えるんだから大変だ。」

「ところで、1回目と2回目の衝突のときは、銀河がすり抜けるという話でした。これはどういうことなんですか?」

「たしかに、形あるものがすり抜けるというのは変な感じがすると思う。ところが、銀河というのは星の大集団としての形はあるものの、中身はスカスカなんだ。」

「そうでした。定例部会の銀河のお話のときでした。太平洋にスイカが二個。そういうことですね?」

「うん、そうだ。そのため、銀河同士が衝突しても、二つの銀河の中にある星同士がぶつかることはない。つまり、すり抜けるんだ。」

「なんだか不思議ですね。」

 そこで、輝明は面白い話をし出した。

「おむすびを二個用意する。おむすび同士をぶつけると、おむすびはグチャっと潰れる。」

「はい。もったいないですが・・・・」

「おむすびを構成しているのはたくさんの米粒だね。この米粒がとても小さくて、密度もスカスカで低いような状況を考えてみてほしい。すると、今度はおむすび同士をぶつけても、すり抜けてしまうだろう。」

「なるほど、そういうことですか。」

「ということで、銀河は食べてもお腹いっぱいにはならない。」

「スカスカならしょうがないですね。」

天の川が消える日

「アンドロメダ銀河と天の川銀河は3回目の衝突で一つの巨大な銀河に姿を変えていく。これらの衝突の過程で、二つの銀河の円盤は壊れ、球のような形の銀河になる。ハッブルの銀河分類でいうと楕円銀河だ。

 70億年後には、合体の痕跡もあらかた消えてしまう。そのため、夜空を眺めると、ただぼうっと星々が輝いて見るだけになってしまう(図11)。アンドロメダ銀河も消えるが、実は天の川銀河も消える。僕たちの故郷である天の川が消える日がやってくる。」

さすがの輝明も少し感傷的になっているようだ。

図11 今から70億年後に見える夜空。天の川は消え、退屈な夜空になっている。「70億年経って、これですか?」と言いたくなる。 https://science.nasa.gov/missions/hubble/nasas-hubble-shows-milky-way-is-destined-for-head-on-collision/

「少し寂しいね。今から70億年後には私たちは楕円銀河の住人になっている。オリオン星雲などの美しい星雲もすべて消えている。夜空を望遠鏡で詳しく眺めても、年老いた暗い星々があるだけだ。なんとも退屈な夜空になってしまう。」

太陽系も消えた世界

輝明は淡々と話を続ける。

「70億年後には太陽は既に死んでいる。太陽の外層のガスは周囲に撒き散らされ、中心部は重力で縮んでいき、白色矮星と呼ばれるコンパクトな残骸が残っている。白色矮星の光は弱いので、地球は残っていたとしても氷の世界になっているだろう。もちろん、人類が生き延びていることはない。」

太陽は消える。地球も消える。ということは、人類も消える。ただ、優子は人類が滅びる日は、なんだか近いような気がしていた。

「太陽の残骸が仮にあったとすれば、合体した銀河のどの辺りにいるのだろうか? やや気になるところだ。そこで、合体の過程で太陽の位置がどのように変化していくかを見てみよう。合体でできた楕円銀河の端の方にいることがわかる(図12)。いずれにしても、見える夜空は退屈なものだ(図11とほぼ同じ)。」

図12 (左)現在の天の川銀河の様子。(右)アンドロメダ銀河と合体したあとの姿。合体の過程で太陽の位置がどのように変化するか示されている(点線)。矢印の位置は百億年後の太陽の位置(白色矮星として存在している)。なお、現在の天の川銀河では、太陽は銀河の中心から約3万光年離れた場所にいる(左上の小さな図)。アンドロメダ銀河と天の川銀河が合体すると、お互いの銀河が持っていた軌道角運動量(軌道運動に伴う角運動量)を取り込むことになるので、合体でできた銀河は外側に広がり、大きくなる。 https://science.nasa.gov/missions/hubble/nasas-hubble-shows-milky-way-is-destined-for-head-on-collision/

優子はスライドに映し出された天の川銀河の末路を見て呆然とした。

「まさか、そんなことになるなんて・・・。」

天文部員の優子としては、悲しくなってしまう。

今まで、美しい星空にどれだけ癒されてきたことか・・・・

そんな優子を見て、輝明は励ますように力強く言った。

「少なくともこれだけは言える。天体観望をするなら今のうちだ!」
さすが、天文部の部長! 優子は輝明の切り替えの速さに脱帽した。

<<< 今までの話題 >>>

第一話 神保町の天文部で銀河を語るhttps://note.com/astro_dialog/n/n7a6bf416b0bc

第二話 アンドロメダ銀河の秘密https://note.com/astro_dialog/n/n0911e1dbc2c5

第三話 銀河の影絵
https://note.com/astro_dialog/n/n7bf4e732668f

第四話 ハッブル、分類から銀河の進化を夢見るhttps://note.com/astro_dialog/n/n4dd9eae3c301

第五話 ハッブル、楕円銀河を見破れずhttps://note.com/astro_dialog/n/n924b27e78edc

第六話 細長い楕円銀河があったhttps://note.com/astro_dialog/n/n03cb94050283

第七話 楕円銀河の形を決めるものhttps://note.com/astro_dialog/n/n7ceb4109fcf6

第八話 ハッブルはS0銀河を見ていたhttps://note.com/astro_dialog/n/nf628f93f1f3e

第九話 S0銀河の解明に向けてhttps://note.com/astro_dialog/n/n95d644f68c52

第十話 S0銀河の正体がわかったhttps://note.com/astro_dialog/n/n069c91c031df

第十一話 ソンブレロ殺しhttps://note.com/astro_dialog/n/n5047eb2d53b7

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