天文学者のひとり言

天文学者です。 キーワードは銀河、銀河中心核(超大質量ブラックホール)、ダークマター、…

天文学者のひとり言

天文学者です。 キーワードは銀河、銀河中心核(超大質量ブラックホール)、ダークマター、宇宙論です。 銀河の誕生と進化、そして超大質量ブラックホールの誕生と進化。 宇宙史の中でこれらの出来事がどのように起こったのか調べています。 趣味は読書と園芸です。

最近の記事

「宮沢賢治の宇宙」(43) 天気輪の柱の謎に挑む

天気輪の柱宮沢賢治の童話 『銀河鉄道の夜』にはいろいろな謎があるが、その中でも“天気輪の柱”は最大級の謎とされる。そもそも実在するものなのかどうかも分かっていない。実際、原子朗の『定本 宮澤賢治語彙辞典』を紐解いてみると、まずこう書かれている。 おそらくは賢治の造語。賢治の描写が具体性を欠くため諸説ある。 (496頁) そして、もう一言。 天気輪の柱の設定は実に巧妙で、この童話の要の役割を果たしている。 (497頁) まさに、その通り。銀河ステーションへの橋渡しをして

    • バルコニアン(5) 新たなルーフ・バルコニー庭園へ

      バルコニアンに降りかかった試練前回の noteでは「バルコニアンに降りかかる試練」ということで、マンションの大規模改修のために、ルーフ・バルコニーの庭を一旦リセットする話をしました。 バルコニAは和風庭園にしたかったので、大理石の飛び石や玉砂利、レンガを敷き詰めて庭をレイアウトしました。「枯山水」とまではいかなくとも、それなりの雰囲気は出るものです。 植物はバルコニーなので鉢植えを並べることになります。ツツジやモミジを主体に、ざっと100鉢。園芸店に行くと、ついつい買って

      • バルコニアン(4) バルコニアンに降りかかる試練

        「枯山水」は、さておいて前回までの noteでは「ルーフ・バルコニーでどんな園芸を楽しむか」を考えるヒントを紹介しました。その際、春を迎えて美しさを増してきた日本庭園の紹介も行いました。 庭園を散歩しながら思うことは、「無理せず楽しむ」ことが大切なんだろうということです。「枯山水」はもとより、粋な和風庭園を園芸素人の私が簡単に作れるようなものではありません。 「千里の道も一歩から」これを座右の言葉として、少しずつバルコニー園芸をやってみるぐらいがちょうどいい感じです。実際

        • 天文俳句 (17)正岡子規に学ぶ天文俳句

          俳句といえば子規正岡子規(1867-1902)はわずか34歳で命を閉じたが、現代の俳句と短歌を生み出した偉大な俳人・歌人である。 「子規は天文俳句をどの程度詠んだのだろうか?」 そんな疑問を持ったとき、一冊の本に出会った。俳人、夏井いつきによる『子規365日』(朝日文庫、2019年)という本だ(図1)。よい機会なので、子規の俳句を調べてみることにした。 子規の天文俳句子規の天文俳句を表1にまとめた。ここで天文俳句とは天文関係の用語(実際には月と星)が含まれている俳句のこ

        「宮沢賢治の宇宙」(43) 天気輪の柱の謎に挑む

          銀河系のお話し(13) 懐かしい教科書に書いてあったこと

          『銀河系』問題今回も、いつもの文章でこの note を始めたい。 天の川銀河のことを、なぜ「銀河系」というのか? この問題について考えてきたが、いまだに答えは見つかっていない。 思った以上に難問で困っている。 懐かしい教科書を見つけた大学のオフィスの本棚を整理していたら、懐かしい本を見つけた。恒星社が昭和41年に出した『新天文学講座 第8巻 銀河系と宇宙』だ。全部で15巻。次のような構成になっていた。 第1巻 星座 第2巻 太陽系 第3巻 太陽 第4巻 地球と月 第5

          銀河系のお話し(13) 懐かしい教科書に書いてあったこと

          「宮沢賢治の宇宙」(42) 『謎ニモマケズ』って、なんだ?

          あれ?『雨ニモマケズ』じゃない!都内の書店を散歩していたら、一冊の本に目が止まった。文庫本コーナーの端に積んであった本だ。タイトルは『謎ニモマケズ』(図1)。 『雨ニモマケズ』じゃない? 「いったい、なんだ? この本は?」思わず手に取った。作者は鳴神響一。知らない名前だ。しかし、タイトルと帯の宣伝文句が気に入り、迷わず買い求めた。 家に帰り、読み始めたら止まらない。2時間ぐらいで一気読みしてしまった。ここ数年、賢治の作品を読み、賢治という稀有な天才に触れてきた。そのおかげ

          「宮沢賢治の宇宙」(42) 『謎ニモマケズ』って、なんだ?

          「宮沢賢治の宇宙」(41) 「天気輪の柱」はどこにある?

          賢治の残した謎の言葉「天気輪の柱」宮沢賢治の作品には謎の言葉が多い。童話『銀河鉄道の夜』に出てくる「天気輪の柱」もそのひとつだ。原子朗の『定本 宮澤賢治語彙辞典』(筑摩書房、2013年)を紐解くと、その難解さがよく分かる。 天気輪 おそらくは賢治の造語。賢治の描写が具体性を欠くため諸説がある。 このあと、2頁にわたって諸説の紹介がある。あまりにたくさんの解釈があって驚く。ここでは、第一歩として、「天気輪の柱」がどこにあるのか考えてみよう。「天気輪の柱」の候補については、次

          「宮沢賢治の宇宙」(41) 「天気輪の柱」はどこにある?

          バルコニアン(3) 日本庭園で園芸の勉強を

          「小石川後楽園」に学ぶ前回の note「バルコニアン(2) ルーフ・バルコニーで園芸を」では、日本庭園の紹介をしました。 https://note.com/astro_dialog/n/n15e56f866c29 ルーフ・バルコニーで、紹介したような日本庭園を実現することは不可能です。なにしろ、神社や寺院、公園の日本庭園ではプロの庭師の方々が設計、手入れをしています。私のような園芸の素人が真似をできるはずもありません。ただ、いろいろな庭園を見て、参考にすることは意義があり

          バルコニアン(3) 日本庭園で園芸の勉強を

          「宮沢賢治の宇宙」(40) 清少納言よ、あなたも「流れるもの」は嫌いなのか?

          流れ星が嫌いな宮沢賢治以前のnoteで宮沢賢治は流れ星が嫌いだという話をした。 「宮沢賢治の宇宙」(28) 夜空を滑る流れ星は嫌いですか?https://note.com/astro_dialog/n/ncb75c4fe3e59 なにしろ、賢治は作品の中で「流れ星」という言葉をたった一回しか使っていない。しかも、文語詩「大菩薩峠の歌」の初期形に出てくるだけなのだ。下書稿(二)を見てみよう。 廿日月 かざす刀は音無しの 無明の虚空の流れ星       その竜之介(『【新】

          「宮沢賢治の宇宙」(40) 清少納言よ、あなたも「流れるもの」は嫌いなのか?

          バルコニアン(2) ルーフ・バルコニーで園芸を

          いろいろな楽しみ方マンションの6階の角住戸。広さ50平米のルーフ・バルコニーがある。このバルコニーでどのように園芸を楽しむか? いろいろ方法はありそうだ。 まず、和風か洋風か? 和風なら「枯山水」という手もある。洋風ならベルサイユ宮殿の庭のように、植木を対称的に配置して楽しむことになる。 あとは、花を楽しむか、緑があればよしとするか? 花ならば、季節をうまく利用することになる。春は梅、桜、こぶし。夏なら、ひまわり。秋は萩だろうか。センスが問われそうだ。 やはり、和の雰囲

          バルコニアン(2) ルーフ・バルコニーで園芸を

          バルコニアン(1) マンションで園芸

          ルーフ・バルコニーで園芸を私は天文学者をやっている。しかし、園芸にも凝っている。 天文学を研究する人は天文学者と呼ばれる。では、園芸を趣味にしている人はなんと呼ばれるのだろうか? 庭を美しく管理する人は庭師と呼ばれる。それにならって、園芸師か? あまり聞いたことがない。そもそも庭師は庭園管理を職業としている方々のことだ。趣味で園芸をやっている人を園芸師と呼ぶのはいささか問題がありそうだ。 じつは、我が家には庭がない。マンションに住んでいるためだ。 「なあんだ、ベランダ園芸

          バルコニアン(1) マンションで園芸

          天文俳句 (16)プラネタリウムで考えた

          天文関係者が考えた星の歳時記note「天文俳句」(9)では、天文学者が考えた「星の歳時記」を紹介した。次の3冊だ。 https://note.com/astro_dialog/n/n1ecb582b9704 [1] 『星の歳時記』石田五郎、ちくま文庫、1991年 [2] 『天文歳時記』海部宣男、角川選書、2008年 [3] 『宇宙吟遊 光と言葉 星めぐり歳時記』海部宣男、じゃこめてぃ出版、2009年 天体写真家が考えた星の歳時記また、note「天文俳句」(15)では天体写

          天文俳句 (16)プラネタリウムで考えた

          天文俳句 (15)天体写真家が考えた「星の歳時記」

          天文学者が考えた星の歳時記note「天文俳句」(9)では、天文学者が考えた「星の歳時記」を紹介した。次の3冊だ。 https://note.com/astro_dialog/n/n1ecb582b9704 [1] 『星の歳時記』石田五郎、ちくま文庫、1991年 [2] 『天文歳時記』海部宣男、角川選書、2008年 [3] 『宇宙吟遊 光と言葉 星めぐり歳時記』海部宣男、じゃこめてぃ出版、2009年 天体写真家が考えた星の歳時記書斎の本棚を眺めていたら、もう一冊興味深い本が

          天文俳句 (15)天体写真家が考えた「星の歳時記」

          一期一会の本に出会う(16) ヘルマン・ボンディの『宇宙論』

          オルバースのパラドックスの解決法以前のnoteでオルバースのパラドックスの解決法について解説した。 「一期一会の本に出会う」(1)『夜空はなぜくらい』by エドワード・ハリソンhttps://note.com/astro_dialog/n/n74ec5fa3dc93 「一期一会の本に出会う」(2)オルバースのパラドックスの徹底解明『夜空はなぜくらい』by エドワード・ハリソンに学ぶhttps://note.com/astro_dialog/n/n37a8fb2e4e23

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          宮沢賢治の宇宙(39) 賢治は鳥の遷移に量子論を見た?

          『ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記』の“星雲”と“ばけ物律”宮沢賢治の童話『ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記』には面白い文章がある。 その時教室にパッと電燈がつきました。もう夕方だったのです。博士が向うで叫んでいます。「しからば何が故に夕方緑色が判然とするか。けだしこれはプウルウキインイイの現象によるのである。プウルウキインイイとはこう書く。」博士はみみずのような横文字を一ぺんに三百ばかり書きました。ネネムも一生けん命書きました。それから博士は俄かに手を大きくひろげて「

          宮沢賢治の宇宙(39) 賢治は鳥の遷移に量子論を見た?

          宮沢賢治の宇宙(38) ジョバンニの切符を手に入れた!

          どこでも勝手に歩ける通行券ジョバンニたちは銀河鉄道に乗って天の川を旅する。宮沢賢治の名作童話『銀河鉄道の夜』での話だ。列車に乗るには乗車券が必要だ。特急なら特急券も買わなければならない。持たずに乗れば、無賃乗車の罪になる。 ジョバンニは銀河ステーションで銀河鉄道に乗り込んだが、そのとき切符を買った覚えはない。大丈夫なのだろうか? 案の定、途中絵で車掌が切符の検察にやってきた。焦るジョバンニは上着のポケットを探してみる。買った記憶がないのに、なんと切符らしきものが出てきた。

          宮沢賢治の宇宙(38) ジョバンニの切符を手に入れた!