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宮沢賢治の宇宙(65) パシフィックの謎
ランカシャー、コネティカット州、そしてパシフィック
『銀河鉄道の夜』の第9節、“ジョバンニの切符”のところで、突然、耳慣れない地名が出てくる。ランカシャイヤ、コンネクテカット州(『【新】校本宮沢賢治全集』第11巻、筑摩書房、1996年、151頁)、そしてパシフィックである(同、154頁)。
じつは、この話の前にタイタニック号の悲劇(1914年4月14日に沈没し、千数百人の尊い命が奪われた)と思われる記述がある。タイタニック号の悲劇が起こったのは北大西洋である。このことを考慮すると、パシフィックではなく、アトランティックのはずだ。
どうしてだろう? なんとなく気になって、とりあえず、これらの地域を図示してみた。すると図1のようになった。
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銀河鉄道の旅を地球に投影したのか?
銀河鉄道の旅を地球に投影したら、英国のランカシャー、米国のコネティカット州、そしてパシフィック(太平洋)へ至る道のりになるということだろうか? 確かに、銀河鉄道はこれから南十字に向かう。そのためには、「みなみじゅうじ座」が見える南半球に行かなければならない。
南半球で落ち着いて南十字を眺めることができるのは、南アメリカかオーストラリア、あるいはアフリカの南だ。図1を見る限り、賢治はオーストラリアに行くことを考えていたのかもしれない。
ただ、出発地は花巻なので、もう少しストレートなルートでもよさそうに思う。何しろ、オーストラリアは日本から訪れるとき、単に南下すれば着くからだ。時差もないので大変楽である。
なぜパシフィックなのか?
ところで、なぜアトランティックではなくパシフィックなのか? 先ほど述べたように、タイタニック号の悲劇が起こったのは北大西洋である。パシフィックではなく、アトランティックのはずだ。
この問題を深く論じた本に出会うことができた。『宮沢賢治 デクノボーの叡智』(今福龍太、新潮選書、2019年)である。“「パシフィック」の謎”の項を読まれたい(40-46頁)。
そこでは三つの可能性が議論されている(表1)。私のアイデアとは異なるので、これで4つの可能性が出てきたことになる。もちろん、賢治がうっかり間違えた可能性もゼロではない。しかし、やはり意識的に入れ替えた可能性の方が高いように思われる。
ささやかな謎かもしれないが、こうして議論が紡がれることはとてもよいことのように思う。それが賢治作品の持つ魔力だからだ。
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