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銀河のお話し(4) ハッブル、分類から銀河の進化を夢見る


ストーリーの説明です

銀河のハッブル分類、再び

神田神保町にある高校。ある日の放課後、またまた天文部の部会が開かれた。どうもみんな、銀河が好きなようだ。部長の星影輝明も銀河が大好きだ。今回の部会でも、輝明が話を始めた。
「銀河のハッブル分類については、もう話をした。銀河の形を大まかに分類しただけなんだけど、前にも話したように、100年経っても銀河の研究に使われている。」
輝明はそう前置きして、見慣れたハッブル分類の図をスライドで示した(図1)。

図1 ハッブルによる銀河の形態分類。分類の概念は1926年の論文で議論されたが、この図は『The Realm of the Nebulae』(エドウイン・ハッブル、エール大学出版、1936年)で公表された。 https://astro-dic.jp/hubbles-tuning-fork-diagram/

なんのために分類するのか?

輝明は天文部員たちに質問をした。
「銀河の形ってなんだろう?」
 また、元気な優子が答える。
「銀河の中で星がどのように分布しているかを見ているんじゃないでしょうか?」
「そのとおりだね。銀河の形は銀河の中で、星々がどのように分布しているかで決まる。問題はなぜそのように分布しているかだ。それがわかれば、その銀河の成り立ちがわかる。」
優子が声をあげた。
「そうか、分類することが目的じゃないんですね?」
「そうだよ。結局、銀河の起源を知りたいがために、銀河の形態分類をするんだ。
生物がそのいい例だ。動物でも植物でも分類され、名前が付いている。しかし、名前を付けることが目的ではない。犬と猫は何が違うのか? ヒトは猿やチンパンジーと何が違うのか? まさに「種の起源」を知りたいんだね。「銀河の起源」ハッブルはこれを知りたかったんだ。」

Sc型は大きい?

優子はハッブルの天文学者としての気概を見たように感じた。やはり、研究する人は、より基本的な問題を解き明かそうとしているのだなと思った。輝明はさらに話を進めていく。
「ハッブルは形態分類(図1)から何を読み取ったと思う?」
「さっきから、少し気になっていることがあるんですけど」
「なんだい、優子?」
「左に見える銀河は小さくて、右側に行くほど大きく描かれているように見えます。これは何か意味があるんでしょうか?」
「鋭いね! 右側に行くほど大きく描かれているのは、実際にそうだったからなんだ。」
「Sc銀河はずいぶん大きく描かれているけど、本当に大きいんですね。」
「そのとおり。ハッブルは10等級より明るい銀河を形態分類に使った。つまり、天の川銀河に比較的近い銀河ばかりが選ばれる。もちろん、個数は少ないのでその影響が出る。まさに、その影響でSc銀河に大きなものが多かったんだ。たまたまそうなっていただけなんだけど、ハッブルは分類の図に銀河の大きさを反映させたんだ。」
「銀河の個数を増やすとどうなんですか?」
「うん、分類の系列と銀河の大きさには明瞭な相関はないようだ。渦巻銀河に限っていえば、Sa型の方がSc型に比べて、逆に大きい傾向がある。いずれにしてもハッブルの分類図を見るときは、銀河の大きさは無視していい。」

ハッブルの夢

ハッブルは銀河の誕生と進化の解明に向けて銀河の形態を分類したわけだが、実は今話題になった銀河サンプルの選択効果がきっかけになって、ハッブルはあるストーリーを思いついたようである。輝明はその話題を紹介することにした。

「ハッブル分類の図で、左から右にいくにつれて銀河が大きくなる。実際にはこうなっていないんだけど、この傾向に触発されて、ハッブルは銀河の誕生と進化についてひとつのシナリオを考えてみた。」

輝明はその説明をしたスライドを映し出した(図2)。

図2 ハッブルが考えた銀河の形成と進化のシナリオ。
https://astro-dic.jp/hubbles-tuning-fork-diagram/

「この図に示したように、ハッブルのアイデアをまとめると次のようになる。銀河は生まれた時はみんな球状の形をしていた。その後、角運動量の効果で、だんだん扁平化していく。そして、そのうち円盤構造ができて、円盤には渦巻や棒状構造が生まれたということだ。まさに、分類の図で左から右へと進化するシナリオになっている。」
「そう聞くと、なんだか、ありそうなシナリオですね。これは正しいんですか?」
「いや、残念ながらダメなんだ。」
優子は少しがっかりした。
「銀河の形は星の分布を反映している。ということは、銀河の形を変えるには、銀河の中で星の分布を大きく変える必要がある。実は、これが大変なんだ。」

夢破れて、銀河あり

ここで、輝明はみんなに質問した。
「銀河の中で、星の分布を大きく変えるには、どうしたらいいと思う?」
誰も答えを思いつかない。その様子を見て、輝明が説明を始めた。
「星々が銀河の中で遭遇し、重力相互作用で軌道を大きく変えていく必要がある。ところが、銀河の中の星の個数密度は非常に低い。太平洋にスイカが2個浮かんでいる程度なんだ。」
「うわあ、スカスカなんですね。天の川を見ると滑らかに見えるから、もっと星がびっしりあるかと思っていました。」
「この程度の個数密度で星々の遭遇を考えると、形を変えるにはざっと10の21乗年以上はかかる。宇宙の年齢は100億年、つまり10の10乗年程度なので、無理なんだ。」
「ということは、楕円銀河は楕円銀河として、そして渦巻銀河は渦巻銀河として、それぞれ独立して誕生し、進化してきたのでしょうか?」
「それが最もシンプルなアイデアになるんだけど、どうもそれも違うんだ。」
「?」
「第三話の「銀河の影絵」を思い出してごらん。」
そうだった。ダークマター・ハローで「銀河の影絵」が仮にできるとしたら、楕円銀河と渦巻銀河は区別できない。両方ともハローの形はほぼ球形なので、影絵は円に見える。では、何が銀河の進化と性質を決めるのか?
銀河の進化は思ったより難しそうだ。

優子は唇をキッと噛み締めた。

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