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創作など

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企画ものに参加してみたものなど
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#曲からチャレンジ

Triangle 【曲からチャレンジ】⑥最終日

8月6日に寄せて。

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ボランティアで事務を手伝っている女子大学生が、ディスプレイ上のExcelを見ながら須田に声をかけた。
「須田先生、このひと…」

須田は読んでいた資料から目をはなし、彼女に近づいてExcelを覗きこむ。

「この、毎月寄付してくれる女のひと、今月はいつもより多いですね。いいことでもあったんですかね?」
須田は寄付者リストの中のその名前をちらりと見て、言った。

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短い髪 【曲からチャレンジ】⑤

さえちゃんが亡くなった。
急変してからあっという間だった。

さえちゃんの担当だった若い看護師の憔悴は見ていられないほどだった。
泣き叫ぶご両親の後ろで、目に涙をいっぱい溜めて黙礼をしていた。マスクの下ではきっと血が出るほど唇を噛みしめていたに違いない。

お見送りが終わったあと彼女に声をかけた。
彼女は焦点の定まらない目でこう言った。
「師長。私のせいなんです。私がもっと気をつけていれば。もっと

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前に!【曲からチャレンジ】④

回診カートを押してナースステーションに戻ろうとしたとき、師長に話しかけられた。
「最近楽しそうね。いいことでもあった?」

「えっ? いえいえ、なにもないですよ!」
私はあわてて否定した。あわてすぎたかしら。
「さえちゃんの調子がいいから嬉しくて」
これは本当。

「そうね。もう少し落ち着いたら一時帰宅ができそうなんですってね」
師長もにこやかにそう話す。
この師長はアラフィフだけどすごく綺麗なひ

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Fine, Peace!【曲からチャレンジ】③

ピリカさま主催の【曲からチャレンジ】企画に、自主的SMAP縛りで伴走させていただいています。

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「おう!あれからどうだ?」
「あっ先輩。この前はご馳走さまっした。あれからってなんすか?」
「マッチングアプリで会ったとかいう彼女だよ」
「彼女じゃないっすよ。あれからLINEこないし。先輩こそ大丈夫でしたか?健康診断とか奥さんとか」
「ああ、会社にもヨメさんにも怒られたよ」
「まじっすか

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STAY 【曲からチャレンジ】②

おれのヨメは怖い。
ヨメなんて呼称を人前で言ってしまったら多分しばらく口もきいてくれないくらい、怖い。

後輩が仕事やプライベートのことで悩んでいたら、先輩としてほっておけないじゃないか。健康診断なんかあとまわしだ。
それを朝っらぱらから「社会人失格だ」だの「昭和のサラリーマンか」だの、ぐちぐちとうるさいことこの上ない。
二日酔いの頭がますます痛くなった。
反論する気力もなく、おれは家を出た。

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エンジェルはーと 【曲からチャレンジ】①

ピリカさま主催の【曲からチャレンジ】に伴走させていただきます。よろしくお願いします。

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またケンカしてしまった。
言いたいことをうまく伝えるって、どうしたらできるんだろう。

結婚してそろそろ1年。
なにもかもが新鮮でなにもかもが嬉しくてなにもかもが楽しかった頃は、もう過ぎてしまった。
それでも、同じ家に帰ることが当たり前になったこの生活が愛おしい。大事にしたい。

「朝の出勤前はケ

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