【英語推し本】LEFT Neglected(Lisa Genova)/バリキャリワーママがある日突然高次脳障害を負ったら
”Still Alice(邦題「アリスのままで」)”著者の作品です。
Lisa Genovaはどの作品もはずれなく、最初の数ページでぐぐっと話に引き込まれ、話の展開もうまく、非常に面白いのでおすすめです。まだ邦訳されていない作品もぜひ知ってほしいです。
このPrologueから始まるLeft Neglectedの主人公サラは、世界トップクラスのコンサルティング会社の人事ヘッドという花形ポジションでバリバリ働くハーバードMBAホルダーかつ3人の母です。
その世界では当然の高い上昇意欲を持ち、実際にパフォーマンスを上げてポジションを得、長時間かつdemandingで重い仕事のプレッシャーの中、3人の子供の送り迎えや宿題やサッカーの試合や寝る前の絵本読み聞かせや、、、睡眠時間を削り、心身も削り、寸暇を惜しんで駆けずり回る日々。
もちろん稼ぎもあるのでナニーもいるし、ベンチャーに勤める夫とも育児負担を分け合っています。子供を学校に送るのは月・水は母、火・木は父、そして金曜はじゃんけんで。
ここまで読むだけで、あーそうそう、もうこれ以上抱えきれないよー、とワーママとしては息苦しくなるくらい共感します。
さて、その金曜のじゃんけんに何週ぶりに勝って今日はラッキーデー!と一人で出勤する自由を満喫していた矢先、運転中にメールをいじって瀕死の事故を起こします。
事故で脳の右側に損傷を受けた影響で左側の空間無視(Left Neglect)という神経疾患を患うのですが、この左側空間無視というのは左半身麻痺と違い、左という概念を失うという特殊なもの。左の世界がないので文章の左側が読めない、左の人が見えない、左手が見えない、左足が進まない、絵を描くと左が欠けた木や花を描く、というなかなかイメージしにくい世界ですが、当の本人はおかしいと思わないんですね。
リハビリも虚しく、治るか治らないかもわからず、そんな中、長男がADHDとわかり、また夫のベンチャーが傾きはじめ、保険のカバーも切れ(アメリカで保険が切れるというのは膨大な医療費出費を意味します)、家計維持のためにも仕事に復帰したいと焦るのですが、一人で服すら着られません。
長く疎遠だった母が手伝いに来てくれて(Left Neglectedというタイトルの伏線でもあります)、どうにか回っているのですがそれもいつまで続くかわかりません。
そんな中復帰してくれとの会社からのオファーに主人公が下す判断は・・・。
著者のLisa Genovaは、自身ハーバード卒の神経科学者で、実際に患者へのインタビューやリサーチも重ね、難病を扱う優れた小説を何作も出しています。
"Still Alice"では40代でアルツハイマーを発症した大学教授の人間としての尊厳が削がれて行く様と家族の関係性の変化を描きました。
"Inside O'Brien"ではハンチントン病という遺伝性の難病を発症した40代の警察官とその家族の苦悩とそこから生まれる希望を描きました。
それらと本書との違いは、遺伝的な宿命がなくとも、明日自分にも起こりうるという設定です。
忙しく過ごす生活の中で、何が本当に大事なことかをとても考えさせられます。
ちなみに、Lisa Genovaの本はどれも、巻末にDiscussion用の問いがたてられており、振り返りとしてもとてもよいです。
Lisa Genovaの他の作品はこちらにも書きました。
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