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【英語推し本】Still Alice(邦題アリスのままで)(Lisa Genova)/アルツハイマーはいつか治癒できるのか

映画「アリスのままで」の原作です。映画も、若年性アルツハイマーを患った大学教授役のジュリアン・ムーアの演技が真に迫り、おすすめです。

ハーバードで言語学を教える教授のアリスは、まだ50歳という若さで若年性アルツハイマーを発症します。
最初は、多忙な日々の中で年相応のちょっとした物忘れ、と思っていたことが積み重なり、自覚だけでなく家族や周囲の目からもただの物忘れではないことが明らかになってきます。
たった2年でどんどん症状が進んでいく様子が、”当事者アリスの視点で”描かれています。
自身も学生として、そして教授として何十年と過ごしたハーバードの構内で迷子になる、人の名前がわからなくなる、自分の家でトイレがどこかわからず失禁してしまう、など、物事のとらえ方がずれてきたり、辻褄が合わなくなってくるいわゆる”まだら”の過程は、知的職業の最高峰にいたことをまだ覚えているアリスにとっては許容しがたい苦悩を与え、何とかして抗おうとします。

映画にはないエピソードとして、原作では(以下ネタバレ)、アリスが教室に入って席で教授を待っているがなかなか来ない、大学のルールでは20分経っても教授が来ないと授業はなしになる、きっかり20分経ってとなりのクラスメイトに「もう今日の授業はなしよね」とさっさと教室を出てしまう、、、昔の学生時代の話かと思わせておいて、後で「教授(=アリス)は学生の横に座ったまま授業をせず突然教室を出ていった」と学生からクレームを受けることになる、という衝撃の展開があったり(こういう構成がLisa Genovaはとてもうまい)、アルツハイマー症状を自覚しだしてからも学会で発表者に学術的な観点から完璧な論点批評をして、ほらまだ自分は大丈夫と思っているが、再度手を挙げて全く同じ論点批評を繰り返し周囲を当惑させるというエピソードがあり、徐々に病気が進行していく様がリアルに胸に刺さります。

原題のStill Aliceはstill aliveに掛けているわけですが、家族との記憶も失っていろいろなことが自分で出来なくなって、それでもアリスなのだ、というメッセージになっています。

ところで、この本は2003年~2005年が舞台ですが、アルツハイマー治療薬としてエーザイのAriceptが出てきます。
その後現実の世界では、エーザイ社とバイオジェン社が研究を続けたアデュカヌマブがアメリカのFDAに承認されたと2021年6月に発表されました。
ただし、その後臨床結果に疑問も呈され、日本やヨーロッパでは承認されていません。
この製薬会社の創薬の過程をドラマティックに書いた下山進さんの「アルツハイマー征服」も非常に面白いです。Still Aliceのモデルになった、アルツハイマーになったアルツハイマー研究者も紹介されています。なお冒頭からのプロットはハンチントン病という家族性遺伝病をテーマを追うLisa Genovaの”INSIDE THE O’BRIENS”が確実に反映されていて、下山さんもLisa Genovaにインスピレーションを得ていると思っています。

Lisa Genovaの他の作品はこちらにも書きました。


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