アサヨム

大好きな作家や、深く愛する作品を推してます!人生で迷ったり、つまづいたとき、遅効性でし…

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大好きな作家や、深く愛する作品を推してます!人生で迷ったり、つまづいたとき、遅効性でしっかり長~く効きますよ。 偏愛は須賀敦子、カズオイシグロ、柴崎友香、宮本輝、森田真生、サンテグジュペリ、モンゴメリ、Lisa Genova、Jhumpa Lahiri、大阪もの。

最近の記事

[推し本]赤毛のアンシリーズ(モンゴメリ)全8巻/何歳で読んでも、何度読んでも発見がある

松本侑子さん訳の赤毛のアンシリーズ全8巻、ようやく読了です。 とにかく松本侑子さんの執念とも言える現地取材も重ねた訳註がすごくて、モンゴメリの文学性の高さや時代背景がより理解できる一大叙事詩です。 孤児院から手違いでマシューとマリラの元に引き取られたアン、勉学に励み教師になり、ギルバートと結婚して子供たちにも恵まれ、でもアンならではの夢みがちで詩的な面も失わず、多くの女性の人生のバイブルになってきたことでしょう。 19世紀終わりの美しいプリンスエドワード島での牧歌的な村の

    • [推し本]別れを告げない(ハン・ガン)/たゆたう読書体験に身を任せてみる

      なんだかオルハン・パムク「雪」みがあると読み進め、沼のように引き込まれました。 韓国南端の済州島で起きたタブー的な史実をベースに、夢か現か、暗闇の中でろうそくを灯すようにゆらぎながら、掴めそうで掴めないものを見え隠れさせます。 雪や鳥が独特の世界観で効果的に使われます。 語っている主人公たちは生の世界にいるのか、すでに死の世界にいるのか判然とせず、深海にたゆたうような読書体験となるでしょう。 時代に翻弄された人々がいて、その生き残りの残滓を背負って今があります。長らくなか

      • [推し本]ようこそヒュナム洞書店へ(ファン・ボルム)/人生には「休み」と書店が必要だ

        韓国の競争社会や女性への役割負担・昇進差別を背景に、人生をリセットして書店を開いた中年女性の物語。2024年本屋大賞翻訳小説部門第一位。 韓国発では「82年生まれ、キムジヨン」「失われた賃金を求めて」にも繰り返し書かれているのが、日本とも重なりあう女性の生きづらい社会構造や因習です。 「ようこそヒュナム洞書店へ」でも女性の生きづらさに加え、男性への学歴至上・大企業至上主義のプレッシャーもきついこと、町の書店の黒字化が難しい事情など、人物名が韓国名でなければ日本社会の話とみま

        • [推し本]あらゆることは今起こる(柴崎友香)/励ましの歌コーラス隊in脳、かぁ!

          試し読みはこちらから。 珍しく、小説ではなく著者自身の経験談です。 数年前にADHDと診断を受け、子供の頃からずっと地味に困っていたこと、周りからわかりにくい脳内多動、すぐ眠くなる、片付けられない、マルチタスクできない、過去も現在も未来も等価で捉える、など当事者としての世界の把握の仕方や感じ方がわかりやすく書かれていてとても興味深いです。 誰でも多かれ少なかれ、あるある、と思い当たることもあるでしょうし、なるほど不思議な感覚なのね、と思うこともあるでしょう。 一方で、AD

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        • [推し本]別れを告げない(ハン・ガン)/たゆたう読書体験に身を任せてみる

        • [推し本]ようこそヒュナム洞書店へ(ファン・ボルム)/人生には「休み」と書店が必要だ

        • [推し本]あらゆることは今起こる(柴崎友香)/励ましの歌コーラス隊in脳、かぁ!

          [推し本屋]荻窪Titleのフレンチトースト

          東京のJR中央線荻窪駅から歩いて12-3分ほどの青梅街道沿いに、つまり行こうと思わないと行かない程度にはまあまあ距離があるところに、Titleという本屋さんがある。 店主の辻山さんはNHKラジオ深夜便で月に一度、本の紹介で出演されていて、紹介される本のセレクトもいつも楽しみだ。 先日、柴崎友香さんの新刊「あらゆることは今起こる」を買いにTitleへ。 他の書店では取り寄せないといけなかったが、Titleなら絶対置いているはず、と行くと、はたしてあった。 逆に、今どの書店でも

          [推し本屋]荻窪Titleのフレンチトースト

          [推し本]あいたくてききたくて旅にでる(小野和子)/推すなんておこがましい、ただ受け渡していきたい

          瀬尾夏美さんの「声の地層」「二重のまち/交代地のうた」、いとうせいこうさんの「東北モノローグ」に出てくる小野和子さんという方は、どうやらこの流れの源流だと思っていたところに、この本を手にする機会に恵まれました。 余計な装飾を排してモノクロながらセンスのある表紙をめくると、冒頭の「はじめに」で編集者の清水チナツさんがこう書いています。 読後に改めてこの「はじめに」を読んで深く深く肯首するのです。ああ、大事なものを受け取ってしまった、と。 高度成長期に差し掛かる前後から、民

          [推し本]あいたくてききたくて旅にでる(小野和子)/推すなんておこがましい、ただ受け渡していきたい

          [推し本]東北モノローグ(いとうせいこう)/ポリフォニーの聞き記録の迫力

          先月ご縁あって瀬尾夏美さんと宮城の被災地を訪れることがあったので、ちょうど刊行されたばかりの東北モノローグも予習的に読みました。 「東北モノローグ」では聞き書きに徹していて、インタビュアーであるいとうせいこうさんの声は一切消し、人々の語りを前面に出しているところはアレクシェーヴィチ的です。モノローグといってもほっておいてひとりでに出てくる声ではなく、聞かれなければ出てこない声の方が多いでしょう。それらを価値観や解釈を交えず記録することの意味は大きいと思います。そして語り手の

          [推し本]東北モノローグ(いとうせいこう)/ポリフォニーの聞き記録の迫力

          [推し本]二重のまち/交代地のうた(瀬尾夏美)/物語があるから生きていける

          瀬尾夏美さんについてはたまたま「声の地層」で知り、なんだかすごいもの読んじゃった!、となりました。 それをきっかけに、瀬尾さん主催の東北スタディツアーにも一緒に参加させていただき、実際に震災13年後の陸前高田を見て、聞いて、知ることができました。 この「二重のまち/交代地のうた」は、津波で大きな被害を受けた陸前高田が復興のために土地を嵩上げする経過をずっと眺めてきた瀬尾さんならではの新しい民話と言えるでしょう。 津波で町が根こそぎ流され、そこにあった風景もコミュニティのつな

          [推し本]二重のまち/交代地のうた(瀬尾夏美)/物語があるから生きていける

          [推し本]スピノザの診察室(夏川草介)/読むクスリ。和菓子ネタにクスリ。

          今は京都の町医者、しかし元々大学病院で教授職を嘱望されうる消化器内科で内視鏡手術のプロ、雄町先生が訪問診療先で出会う患者や看取りを通じて、医療とは、を問う作品です。 雄町先生は末期のガン患者には、がんばらなくても良い、ただ、あまり(逝き)急いでもいけないと言います。 病気が治ることが幸福だと言う考え方では病気が治らない人は不幸なままなのかと。たとえ病が治らなくても人は幸せに過ごすことができるはずだ。そのために医者である自分ができる事は何かと考え続けます。 大学病院の時には、

          [推し本]スピノザの診察室(夏川草介)/読むクスリ。和菓子ネタにクスリ。

          [推し本]水車小屋のネネ(津村記久子)/ネネのような存在であれたら。

          読み終えるのが惜しくなり、読み終えてからも余韻を引きずり、久々に物語の世界に持って行かれて帰ってこれなくなりそうな没入感にはまりました。 とある郊外の町に2人で暮らすことになった姉妹の40年にわたる物語。 18歳と8歳という、はたから見ると訳ありすぎる姉妹に関わる町の人々は、姉妹を気にかけながらも、程良い距離感でそれぞれができる範囲で助け合い、成長するにつれて姉妹もまた誰かに手を差し伸べます。 悪意をもって騙したり陥れるような人はいない。あるとすれば弱い人。そしてたいてい

          [推し本]水車小屋のネネ(津村記久子)/ネネのような存在であれたら。

          [推し本]言語の本質(今井むつみ・秋田喜実)/ただただ凄い衝撃!

          論考の深さに衝撃!!を受けました。これは、言語習得だけにとどまらず、メタで人類を理解することにつながるのでは! 前半の、“ジュージュー”“ぐつぐつ”といったオノマトペとは、から始まり、後半で、ヒトの進化を見据えるこんな広大な水平にたどり着くとは!! 幼児が言語をどう習得するか、というのは、誰しもが自分では覚えていなくても経験していることであり、あるいは身近に幼児がいれば楽しく観察することでしょう。しかし深くそのメカニズムまで考えることはないのでは。 でも、改めて考えると、

          [推し本]言語の本質(今井むつみ・秋田喜実)/ただただ凄い衝撃!

          [推し本]この夏の星を見る(辻村深月)/あの数年は何だったのだろう

          コロナに青春を直撃された中高生のモヤモヤ、もどかしさ、悔しさ、みんなで我慢我慢、と押さえ込まれたエネルギー、、、。 さすが「かがみの狐城」辻村さんならではのティーンの感情の掬い方で、誰を責めても仕方がない状況が切なく、しかし自分たちの手で未来が開かれていく姿に、一筋の光が浮かび上がってきます。 登場人物たちが星の観測をするために空を見上げ、遥か彼方の悠久の宇宙に想いを馳せる時、誰にも邪魔されない自由と解放感があるのがいい。そう、あの時は誰もが、気兼ねなく息をすることも難しかっ

          [推し本]この夏の星を見る(辻村深月)/あの数年は何だったのだろう

          [推し本]矛盾と創造(小坂井敏晶)/問うべき問いを模索し続ける

          これまでの「答えのない世界を生きる」や虚構シリーズでは、ガツンと常識を覆す読書体験をしました。 前作「格差という虚構」では、格差は確実にあり原理的になくならないものの、最終章で未来は開けているとあるのが希望でもあり、ただし一種の賭けのようにも思えた点、小坂井さん自身が深く突き詰め直してさらに問うべき問いから思索と論点を洗い直しています。 過去の自著を批判的に振り返って、一旦は解決したと思っていたことのさらに奥底にある問題にたどりつくという粘り強さはどこから来るのか。 本

          [推し本]矛盾と創造(小坂井敏晶)/問うべき問いを模索し続ける

          [推し本]歴史人口学で見た日本(速水融)/人口学ってスリリング!

          2019年に亡くなられた速水融さんは、コロナ禍を予言していたような100年前のスペイン風邪について著作を遺されて話題になりましたが、まだ読んでないのでまずはこれから、、、と思ったらこれが超超面白い!!! 戦後、経済学者の卵としてヨーロッパで遊学したくだりは、なんとも青くて、何でも見てやろう精神全開で、でも会いたかった教授にも会えずズッコケ話の連続で、とてもチャーミングです。 しかしこの時に、後の歴史人口学に繋がる出会いがあり、その後の速水さんの方向性が決まります。 江戸時

          [推し本]歴史人口学で見た日本(速水融)/人口学ってスリリング!

          [推し本]声の地層(瀬尾夏美)/日本のアレクシェーヴィチ

          魂を浄化してくれるような本で、普段使わない(ようにしている)感情の奥底の奥底を揺さぶられてしまいました。 震災やコロナの時代を小さな小さな立場から描いた、柴崎友香の「続きと始まり」とも共鳴しあいます。 1988年生まれの瀬尾さんを媒介として出てくる言葉の一つ一つは押し付けでもなく、美談だけでもなく、悲しくても希望が埋もれていたり、弱いながらも芯があり、民話的な朴訥さとともにじーんと読み手に沁み入ります。 聞かれることがなければ言葉にならなかったことを掬い上げ、耳を傾ける瀬尾

          [推し本]声の地層(瀬尾夏美)/日本のアレクシェーヴィチ

          [推し本]成瀬は信じた道をいく(宮島三奈)/成瀬あかり史から目が離せない

          前作「成瀬は天下をとりにいく」のあと、発売日を心待ちにしていた続編です。 一作目が面白かっただけに、続編がもしつまらなくなってたら残念だわ、、、という一抹の不安など吹っ飛ばされ、あまりの面白さに一晩で読んでしまいました。 自称、大津の主婦の宮島さん、こんな才能をもってこれまでどこで何していたの、とめちゃ気になります。 益々ダイナミックに飄々と逸話を積み上げる成瀬、 愛想もなく我が道を行く成瀬、 自分の有り余る能力を誰かのために、そして大津をアピールするために役立たせたいと行

          [推し本]成瀬は信じた道をいく(宮島三奈)/成瀬あかり史から目が離せない