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[推し本]飛ぶ教室・死んだ山田と教室/中高生の読書感想文にもぜひ

「飛ぶ教室」(エーリヒ・ケストナー)

新潮社文庫の今年のプレミアムカバーが可愛いのと、それほど分厚くないので、名作と言われる本を一冊読んだ、という自信を得られるでしょう。

ギムナジウム(いわば小中高一貫の男子校)で寮生活をしている5人の男子仲間の友情、義侠心、勇気、そしてかつて生徒だった理解あるベク先生(道理さんという愛称で呼ばれる)のクリスマス祝い前後の数日を巡る物語です。

学校でのクリスマス祝いの出し物の劇タイトルが「飛ぶ教室」、でもそれがどのような話かは詳しくは書かれません。ただ、みんなで劇を作り上げる過程は文化祭などの経験とも共通するでしょう。
「勇気」がテーマで、先生も、生徒が仲間を助けるためにした決闘は許し、一方である生徒がいじめられているのを止めなかった周りの者たちには同等に罰ー「すべての乱暴狼藉は、はたらいたものだけでなく、止めなかったものにも責任がある。」の書き取り5回ーを与えます。そんな中で生徒たちは成長していきます。

そしてこれが1933年のナチス台頭期に書かれた意味を改めて思います。
ケストナーは、多くの知識人が亡命しても自身がゲシュタポに捕まってもドイツに残り、かといって権力に阿らず、祖国をじっと観察し、その破滅を見届けようとしたのです。

それにしても洋の東西を問わず、男子がやることって!ライバル校と決闘したり、勇気を示すために高いところから飛び降りてケガしたり、ことごとくガキンチョ!でも当人たちは大真面目です。
”おかん”目線からすると、こらっと言いたくなることばかり(笑)。
それと、男子校での生徒と先生は何か特別な連帯感というか絆があるようですね。

「死んだ山田と教室」(金子玲介)

ということで、学園ものつながりでもう一冊は「死んだ山田と教室」です。ケストナーと並べるのはどうなの、と思われるかもしれませんが、結構共通するものがあるように思いました。

晩白柚、でしたっけ、剥いてもふんわりしたワタがすごく分厚くて食べる実が中の方に小さくある果物、ありますよね。

となりの山田くん的なとぼけたロゴの表紙をめくると、のっけから死んでいる山田、しかしなぜか2年E組教室のスピーカーに転生して声だけ復活し、クラスメイトとしゃべりまくります。
あちこちで吹き出してしまう面白さで、電車では読めないでしょう。元農業高校の啓栄大附属穂木高って、限りなく慶應志木校で著者の母校ぽいですね。

男子高校生の日常の98%はバカ話と潤滑油のような下ネタとエンドレスなノリツッコミで成り立ち、その一瞬一瞬の再現性ない貴重さに本人たちはまだ気づいておらず、くだらなさと必死さとキラキラがミラクルのように両立し、つまりひっくるめてそれが青春!という感じです。

そしてこの98%はいわば人間関係におけるワタであり、残り2%を守り、隠すためのものかもしれません。どれだけ能天気に見えても、どれだけの友人間でもなかなか触れられない深部にティーンの複雑さや破滅さや虚無が潜んでいます。

死んだ山田の生き方(というか死に方)を巡る奇想天外なプロットの最後は、おおーそうくるかー、となる一冊です。
あ、割とお下品な言葉が出てきますが、この本を読書感想文に選んだことを認める教師は結構信頼できそうです。

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