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私の妄想たち

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虚構と現実のはざま。
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#短編

[Short Story] 父と電車に乗って海へ

[Short Story] 父と電車に乗って海へ

父と電車に乗って海へ向かっている。
                 
海につくと父はどこかに行ってしまうが、帰りの電車は同じ車両に乗っている。
                 
父はいつも無言だった。
                 
                 
                 
そんな夢をみるようになったのは、父が亡くなってからだ。

あるとき、父は私に言った。

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[Short Story] 花の口づけ

[Short Story] 花の口づけ

太ももの内側の敏感な部分に、口づけをされた。

その皮膚のあたりが、赤く腫れている。

彼女は、私が油断して開いた足の間に近づき、口でそこをそっと吸い上げた。

そして、そのまま去っていった。
何も言わずに。

私は今、悩ましく残った赤い跡に悶え、もどかしさを覚えている。

そう、彼女は蚊。
11月になっても、まだいるのだ。

キンカンは刺激が強すぎるので、パーフェクトポーションのアウトドアバーム

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[Short Story] 色は匂へど散りぬるを

[Short Story] 色は匂へど散りぬるを

ぼくは隣のお姉さんが好きだ。
まだ幼っかったときに、お姉さんに言ったんだ。

「ぼくは大人になったら、お姉さんにプロポーズをするよ」

お姉さんは笑って受け流していたが、ぼくは真剣だった。

***

しばらくすると彼女は、東京から来たという男と一緒にいた。
男にはすでに妻子があったが、どうどうと彼女を彼の隣の家に住まわせた。

ぼくはなんであんな男と一緒にいるのか、彼女に聞いた。

「あたしね、

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[Short Story] 待ち人来ず

[Short Story] 待ち人来ず

私は毎晩待っている。

部屋の片隅でじっと。

今夜もあの人は来ないかもしれない。

でもやっぱり待ってしまう。

ため息が糸を揺らす。

やっと誰かが来たみたい。

胸がちくちくする。

けれど、今夜訪れたのは待ち人ではなかった。

もう、耐えられない。

その晩からは毎日違う人が訪れ、私はそのすべてを受け入れた。

でもやっぱりあの人は来ない。

胸のちくちくは増すばかり。

そして今夜は誰も

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