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[Short Story] 色は匂へど散りぬるを

ぼくは隣のお姉さんが好きだ。
まだ幼っかったときに、お姉さんに言ったんだ。

「ぼくは大人になったら、お姉さんにプロポーズをするよ」

お姉さんは笑って受け流していたが、ぼくは真剣だった。

***

しばらくすると彼女は、東京から来たという男と一緒にいた。
男にはすでに妻子があったが、どうどうと彼女を彼の隣の家に住まわせた。

ぼくはなんであんな男と一緒にいるのか、彼女に聞いた。

「あたしね、こどもができたの」

そうつぶやいて、彼女はそれきりぼくには近づかなくなった。

***

彼女の子供が大きくなり自立したころ、男の姿は見かけなくなった。
どうやらまた、ほかに女を作って出て行ったらしい。

ぼくも、すっかり大人になっていた。

一方お姉さんは昔と変わらず、むしろ一層魅力的になっていた。

ぼくは弥立ってお姉さんにプロポーズをし、睦びの日々は萌芽した。

どんな仕事をしているのか知らないが、彼女は稼ぎが良かった。

あるとき、彼女が見知らぬ男と絡み合っているのを見かけた。
その男にも腹が立ったが、お姉さんのことも分からなくなった。

ぼくは彼女を責めた。
腹立たしさを抑えられず、怒鳴ってしまった。

お姉さんは、そんなぼくを悲しそうな目で見つめ、そのまま何も言わなかった。

チュンッ!チュンッ!

明け方早くに、お姉さんが出ていく背中が見えた。
そして二度と戻ってこなかった。


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これはスズメの世界を想像して擬人化したお話。

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