【小説】牛島 零(9)

牛島

  翌日、手荷物検査があるため早めに家を出た。美咲からは夜に鬼電がきたが、怖くて出られなかった。牛島の件もあるが何かとすぐにキレることがある。

 学校につくと美咲が立っていた。

「おはようございます」

「なんで電話でなかったのよ」

「いや忙しかったんだ」

「夜に予定があるように思えないけど」

「映画を見てたんだよ。その時電源を切っているんだ」

「まあいいわ、早く準備して」

「うぃ」

昇降口に机が並べてあり、そこに並んで検問する。美咲の隣に立つと手際が良いため仕事をしなくてもよい。これが去年の後期に学んだ知見である。

「いやー混んでるねえ」

牛島が俺の前に立ってきた。俺はうなずいた。クラスのアイドルのご尊顔を直視することはできない。牛島が机に置いた開いたバッグを見る。

「何時くらいからいるの?」

僕は手を動かしながらタバコなどの危険物はないか探る。

「ん?いや、八、時だ、け、ど」

銃が入っている。全く僕が持っている銃と同じモデルだ。なんでだ。なんで牛島が銃を持っているんだ。

 僕は動揺して体のすべての毛穴から汗が出てきた。どうしてだ。

「ゆっくり、落ち着くんだ。ばれるばれないじゃあない。仕事を全うする美化委員会になりきれ」

根尾が後ろから語り掛けてきた。

「あとは簡単だ。マニュアルに身を任せろ」

「マニュアルなんかないよ」

「左の美咲を見るんだ。立派なマニュアルだろ」

「うん」

僕は根尾の言ったとおりにした。

「こ、れって、なにかな」

銃を牛島の前に出す。

「あーごめん。それ今日演劇部で使う小道具なんだ」

「そ、そうなんだ」

「本物だと思ったの?なんでだろうね」

牛島は俺を上目遣いで見てきた。

「牛島、もういいから早くいって」

美咲が牛島に早く立ち去るように注意した。牛島はまた後でと美咲に一言二言話していった。

 俺はあのずっしりとした重量の感覚がまだ手に残っている。あれは紛れもなく本物だ。僕の足や手は震えている。

「なんか今日変だよ。夜更かしのしすぎじゃない?」

「確かにそうかもな。でもお前も夜二時までイタ電しに来てたじゃないか」

「なーんだ電源切ってたんじゃなかったのか」

「着信履歴を見たんだよ」

「お、言い訳がうまくなったな」

「事実だし」

僕は少しリラックスした。どうするべきか。あれそういえば根尾はどこだ。さっきまで後ろにいたのに牛島追ったのかな。ちょっと不安がよぎる。


 委員会活動が終わり、美咲と一緒に教室へ戻る。担任が朝の会をしていた。早く座れと促してきた。うるさいなと思いながらも反抗はしない。そう僕は良い生徒なのだから。

 朝の会が終わると、牛島が僕の目の前に立ち話しかけてきた。

「放課後時間あるかな?」

僕は緊張しながらも返事をする。

「あいにく今日は友達と遊ぶんだ」

「あーそうなんだ」

いきなり牛島は小声になり

「もしかして美咲ちゃんと遊ぶの?」

と聞いてきた。

「美咲は今日部活だから違うよ」

「え、今日私部活オフだよ」

美咲が会話に入ってきた。

「じゃあさあ三人で遊びに行こうよ」

「いやだ」

「いやだ」

「え?二人は仲悪いの?」

「そういうわけではない」

「そういうわけではない」

「じゃあ行こうよ」

僕と美咲は目を見合わせ二人で嫌な顔をしながらも、しょうがないなと三人で出かけることにした。


 昼休みにどこに行くのかを決めようと思い、三人で教室の隅に会議場を作った。

「ボーリングがいい」

美咲はボウリングが良いらしい。

「駅前のカフェ」

牛島はパンケーキを食べたいらしい。

「ラブホ」

僕はSEXがしたい。

ここで確かめたかったのが、二人が僕のことをどう見ているのかだ。もし、遊びに行くことがここで白紙になったのなら僕に対して何もないということだ。こんな気持ち悪い奴と遊びに行くことは普通なら避ける。

白紙にならなかったら、僕が遊びに行くことに対して、二人が何かしらメリットになることがあるということだ。

「却下」

二人が僕の意見を完全に否定した。しかし、二人とも気持ち悪い奴を見る顔をしなかった。平然としていた。

「じゃあさボウリングに行った後、パンケーキ食べに行こうよ」

牛島が提案した。牛島の意見に対して美咲は賛成した。

「それじゃあ、五時間目終わったら一緒に行こうね」

明確になったな。こいつらは何かしらある。


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