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ショートショート

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#SF

公園通りのバー【ショートショート】

「こんなところにバーがあったかな」
会社帰りの公園通り。なかなか感じのいい店構えだ。入ってみることにした。
「いらっしゃいませ」
細身で少し神経質そうなバーテンダーが声をかけてくる。
カウンターに腰掛けた。
「お好みのものがあれば、お作りいたします」
「そうだな、今日みたいな春の気温に合うやつを一つ頼む」
「かしこまりました」
イメージはすんなり伝わったらしい。まだ寒いんじゃないか?と少し思ったが

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龍の棲む水槽(ショートショート ファンタジー)

近所の中華料理屋へ飲みに行った。
最近TVで、町中華で一杯やる番組を見て、自分もぜひやってみたいと思ったからだ。

酒を飲むから店まで歩いていった。たったの15分ほどの距離だが、途中小雨が降り出した。傘は持っていなかったので、急ぎ足で歩いた。
信号待ちのとき、2階にあるパスタ屋でもいいかなあという誘惑に負けそうになったが、幸か不幸か休みだったので、予定通り中華料理屋へ入る。
週刊誌やら古い少年漫画

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桜の咲く頃【ショートショート】

桜の咲く頃【ショートショート】

「こいつが咲く頃には思い出すのう」
おじいが庭のソメイヨシノを見ながらポツリと言った。
「お前に怖い話をしてやろうか」
「怖い話?いいよ、怖い話なんて」
「それが本当だと思えば怖い話で、おとぎ話だと思えば美しい話になる」
おじいは話をやめる気はなさそうだった。仕方なく僕は聞くことにした。

「むかしむかしのことだった。この村に、それはもう美しい娘がおってな」
「おじいもその人のこと好きだったの?」

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便利すぎる世の中【ショートショート】

午前7時半。ベッドに揺さぶられながら起床。オキテクダサイ。キショウノジカンデスヨ。オキテクダサイ。ベッドの枕元から流れるアナウンスを止める。
昨晩、疲れてそのまま寝てしまったので、風呂に入る。裸になって、部屋の隅の小部屋に入る。昔あった、部屋置きのシャワーのような大きさだ。パジャマは脱ぎ捨てておいても良い。自動洗濯機が拾い上げて洗っておいてくれるからだ。バスルームに入りボタンを押す。すると化学分解

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