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ショートショート

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2021年6月の記事一覧

甘え【ショートショート】

甘え【ショートショート】

あの日僕は過ちを犯した。

あの頃僕は、日常に閉塞感を持っていた。
家族は優しく明るい。職場にも恵まれている。
それなのに僕は、代わり映えしない人生を心から楽しめなくなっていた。
正直に言うと、僕は何かのきっかけを探していたんだと思う。
自分が変わらないと何も変わらない。分かっているのに、とても浅はかなことをした。
誰かが僕の人生を変えてくれると思ったのだ。

僕は何年かぶりにあるSNSを開いた。

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ナツメグを持って【ショートショート】

ナツメグを持って【ショートショート】

ナツメグの致死量はスプーン2杯なんだって。
昔付き合った彼女が言っていた。
僕はスーツを着て、革靴を履いて出かけた。
そう、一番嫌いな格好だ。好きな服を終わりへの旅路に連れて行きたくなかったから。
僕はもう会社に行きたくないから、昨日で終わりにした。
昨日の帰り、みんな帰ったあとのオフィスで、デスクの上に退職届を置いてきた。
スマホは家に置いてきた。今頃会社からの電話が鳴っているかもしれない。いや

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purpose【ショートショート】

purpose【ショートショート】

私は会社への通勤途中にあるコンビニへ毎朝寄る。
目的は缶コーヒーだ。
これを買うために寄る。
これを買うことがルーティンになっているのだ。
ある朝、いつものように缶コーヒーの棚の前に立ち、何気なく手を伸ばすと、そこはカラになっていた。
私はレジへ向かい、店員に尋ねた。
「ああー、すいません、売り切れちゃったみたいっすねー」
私はその店員の態度と缶コーヒーを切らしていたのに苦言を呈して、苦々しい気分

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満員電車【ファンタジー ショートショート】

満員電車【ファンタジー ショートショート】

僕は知っている。
午前2時に妖怪列車が通るのを。

ある晩、僕は夜中、鳥の声で目を覚ました。
気になった僕は、パジャマのままこっそり家を抜け出して、それがどこから聞こえるのか探しに行った。
どうやらアヒルの声だった。
僕の家から道を一本挟んで向こうに、洋服の縫製をしている会社があった。
どうやらアヒルの声はそこの屋上からしているようだった。
なぁんだ、あそこでアヒルを飼ってるんだなあ、そう思って帰

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