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【エッセイ】夜、歩く

 同僚と飲みに出掛けた。
 酔わない程度にひとしきり飲み食いをして、家路につく。
 代行で同僚の家まで帰り、そこから自宅まで歩いた。
 同僚は代行の車の中で「本当にうちから歩くの?」と言った。私は「もちろん」と答えた。
 自宅までは徒歩2~3分。歩くのに何の苦もない。運動不足の身にとっては少しでも歩いておきたいところだ。
 車を降りたあと、同僚はともに歩き出した。
「いや、帰りなよ」
「送る」
「いいよ、だってダッシュしたら30秒だよ」
 ありがたく好意を辞して、路地を歩く。
 暗がりを自分の足音を聞きながら進む。空気はぬるいが少しだけ肌寒くて、カーディガンを羽織る。
 淡々と、でもゆっくりと歩いた。人も車も通らない。深夜は家々の窓の明かりもまばらだ。空を見上げてみる。星がある。静かだ。
 いい気分だった。
 いま、穏やかな気持ちだ、と気づいた。
 夜気は味方だ。邪魔するものも、気兼ねするものもなにもない。解放されたみたいだ。なにから? そんなのは知らない。
 すぐに家に着いた。アパートの住人たちはまだ起きているらしい。ドアのすき間からそっと自分の部屋に滑り込む。ねぐらに帰る動物の気持ちだ。
 丸くなって眠りにつく。
 こんな優しい夜なら、歩くのも悪くない、と思いながら。

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