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【創作】星空の下で【スナップショット】


 
 
静かだ
 
本当に
 
すごくきれいだ
夜空にこれほど星があるなんて
 
本当に星って瞬くんだね
ちかちかときれいに一つ一つが
煌めいている
都会では見られない風景
 
本当にそうだ
声を失うっていうのは
こういうことなんだな
 
私たち二人
星空の下で
湖に舟を浮かべて
星を見ている
 
まわりには誰もいない
真夏のじっとりした空気だけ
 
物音ひとつしない
星空だけが私たちを包む
宇宙の中で私たち二人だけ
 
僕は歌の歌詞にあるような
銀河の中の出会いの恋だとか
星空の下で手をとろうだとか
陳腐な言葉だと思っていた
でも、世界には
こんな圧倒的な光景があって
そんな言葉しか
出てこなくなる瞬間があるんだ
今初めて
分かった気がする
ありきたりでロマンチックな言葉は
理由があってこの世に生まれる
この世に崇高で圧倒的な存在は
確かにあるんだ
 
私も初めて分かった
人間が星座を作った意味が
暗い闇の中に
これほど多くの光があったら
それを繋ぎ合わせて
私だけの物語が作れそう
そうやって世界中に神話が出来た
私たちは今
そんな神話の光に包まれている
君と私
二人きりで
 
二人だけで

ずっとこのまま二人だけで
この夜空に包まれていられたらいいのに
ほら、見て
星が湖に映っている
光がひとつひとつこぼれ落ちて
水の底に消えていくみたい
空の星には手が届かないけど
あの光は手を伸ばせば届きそう
 
危ないよ
無理したら
舟がひっくり返るよ
 
もう少しで届きそうなのに
 
それは錯覚だよ
 
錯覚でも
このまま光を追いかけて
二人で冷たい水の底に落ちていけたら
きっと幸せなまま
この世界は綺麗だと思えたまま
消えていけるのに
 
大丈夫
つかまっていて
多分僕たちはいつかそうやって
この世を出ていくんだろう
でも、今は
下を向いて
水の中に還るより
空を見上げて
もう少しだけ
この星の美しさを
二人で味わおうよ

うん、そうする
ああ、目を閉じたら
まぶたの裏に星が瞬いていた
私の中に光が入ってくるみたい
一緒に横になって空を見ない?
口を開ければ
星を飲み干せそう
わたしの手を握って
離さないでいて

ああ、ここにいるよ
背中に舟の浮力を感じて
本当に浮かんでいるみたいだ

宇宙の中に

そう

私たちはどうしてずっと
浮かんだままいられないんだろう
どうして私たちは苦しんで
沈んでいくんだろう
 
きっと僕らは光じゃないから
僕らは重力の中で年老いていく
でもその代わり
こうやって手を繋いだ暖かさも
君の声の響きも感じることができる
 
君の手の柔らかさも
息の暖かさも
 
そう
夜空の星は僕らそのものじゃなくて
僕らの理想の
反映みたいなものなんだろう
空の理想と死の水底の間で
僕は君と生きられる
 
君と一緒にいられる
そんな世界に浮かんでいられることが
私の幸せ
 
僕も幸せだ

あっ、流れ星が
見えた?
 
見えたよ
一瞬で消えてしまった
何かを思う時間もなく
消えてしまったね

ええ
私たちの人生のように









(終)


※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。

※過去の「スナップショット」置き場



今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。


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