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糸杉に響く、とんからり。若き機織り職人の物語 - n.3

Ozio Piccolo Studio Tessile

シモーネのトレードマークである、大きな耳ピアス。腕にあるタトゥー。高校を中退して、アウサイダー的な生き方をしてきて、いまがあるシモーネ。

履歴書だけで判断したら、彼の本来の姿とはまったく異なるイメージを想像するかもしれません。履歴書の代わりに、彼の織った生地に触れれば、彼の繊細な感受性を感じ取れるかもしれません。

アトリエに置かれている、ひとつひとつのオブジェや、イタリア中から探したアンティック家具も、彼の感性を表しているようです。カノジョは、舞台関係の仕事をしているようで、アーティスティックなカップルです。

1回目は、シモーネが機織り師として、Ozioというネーミングで活動することになった経緯を伺い、2回目は、自作の機織り機や、機織り師として布にかける想いなどを伺いました。

最終回の3回目は、彼の内面へと迫っていきます。職人が置かれている立場を、温厚なシモーネがいつになく熱く語った質問から始めましょう。

職人になることを怖いと思いませんでしたか?

環境が変わることには、慣れています。家を出た17歳のときから、明日がどうなるか分からない生活を送っていたので、怖いという感情はありませんでした。

ただ、機織り職人である僕だけでなく、「職人」と呼ばれるすべての人たちの置かれている環境が、酷すぎます。イタリアは職人の国とも言われ、手でモノづくりをする職人文化が息づいています。

人間は、道具を持ち始めたときから、手を使い、ものを作ってきました。それがいまでも脈々と続いています。人としての根っこの部分です。

それなのに職人の商品を「メイド・イン・イタリー」と掲げて販売しても、職人にはなんの恩恵もない、経済的な支援なんて一切ない。一方、大企業はいろいろな支援を受けられる。

イタリアには、ひとり、ふたり、三人といった、とても小さな会社がたくさんある国で、それぞれが素晴らしいものを作っているのに、誰も何も助けてくれない。

コロナ下のときには、大企業が中小企業とコラボレーションしたこともあったけど、そこじゃないんだ。僕のような職人がたくさんいるのに、助成金もなかった。これが、僕が直面している一番大きな問題です。

もっと評価されてもいいはずなのに。

ヨーロッパ全体で見ると、少しづつ変わってきてはいます。長い歴史のある、World Craft Council Europe(ヨーロッパ規模の職人促進機関)も力を入れています。でも理想からは、ほど遠いように感じます。

国などの機関に頼らずに活動してくれる、パトロンのような存在が必要かもしれませんね。

そうかもしれません。そのひとつが、コルシーニ家がオーガナイズする、フィレンツェで秋に開催される、Artigianato e Palazzoです。2年に1度開催されるHome Faberも素晴らしい展示会でした。

「メイド・イン・イタリー」「メイド・イン・ヨーロッパ」を牽引するのは、職人の技術かもしれません。どこでも同じようなモノが溢れたら、工場生産との競争に立つこともできないでしょう。

競争にさえなりません。職人の技術は、競争世界とは別世界のものであるべきなんです。

職人に注文をするということは、工場生産とは違うものを求めるのが当然だからです。

僕たち職人のつくるものが良いものだから、経済的に支援して欲しいと言っているのではありません。規模に見合った税額にして欲しい。

もうひとつの大きな問題は、僕がすごく言いたいことなんだけど、もしそれが、将来は自分の道じゃなくても、若い子達が試しに職人として活動をする機会を与えてもいいと思うんだ。

それなのに、起業するにあたって、付加価値税登録番号を取得するのに、お金がかかる。ほかのヨーロッパの国と比べると、イタリアはものすごく高いんだ。商工会議所に登録するのにもお金がかかる。それぞれにかかるお金は少額でも、合計すると結構な額になってしまう。起業するということは、販売を始めようとしている段階だから、固定のお客さんもいない。

僕はラッキーなひとりだと思います。それに、僕が目指したいところに、ちゃんと向かっているという感触があります。

でも、職人として起業したい僕の友人たちが、会計士に相談して、起業のために必要な経費を聞くと、あきらめてしまいます。

すごく、すごく残念です。いろいろな分野の職人がいて、それぞれの知識や技術を活かして、コラボレーションできれば、職人の世界も活気づくだろうに。

例えば、僕の場合では、機織り機を作るのに、相談できる人たちがいて、それぞれの分野で的確なアドバイスをくれるんだ。それがどんなに貴重なことか。

コロナ以降、手でモノをつくるという文化が、少しづつ見直されているように思います。

少しはその傾向にあると思います。ここ3年ほどで、ヨーロッパレベルでの活動がが生まれてきています。

ヨーロッパのなかでもフランスが群を抜いて秀でています。理由のひとつに、オーガナイザーが1つだけというのがあります。一方、イタリアは、フィレンツェだけでも、3つの機関が同時に動いていて、それぞれが、ばらばらに動いているので統制が取れません。

この話題は尽きませんね。。次の質問に移りましょうか。

シモーネさんは、Artigianato e Palazzo(職人と邸宅)という展示会で、35歳以下の職人が無料で出展できる狭き門「Blog&Craft 2021」に選ばれ、今年の展示会では『もっとも美しくディスプレイした出展者』に選ばれました。

第二回で案内したOMA (旧フィレンツェ銀行を母体とする、職人の活動を促進する機関) のコンコールでは、最高賞を受賞しています。

ミケランジェロ財団という非営利団体が母体となり活動している、Homo Faber(ホモ・ファーベル)。ヨーロッパを起点に世界の卓越した職人達を紹介する活動をしており、シモーネさんもその一人に選ばれています。

たくさんの賞を受賞していますが、 どう感じていますか?

受賞したことは、とても嬉しく、やっていてよかったと思います。いままで受賞した経歴から、僕の向かっている方向が間違っていないことを感じます。

ひとりで活動していると、これでいいのかと、道が分からなくなることがあり、そんなときに「大丈夫。」と背中を押される気分です。

すべて自然の素材を使い、プラスチックは一切使わないという僕の決意のもとで提出した、OMAへの作品が受賞したことは、評価を得たということで、僕の方向はこれでよかったんだと、確信が持てました。

同じことが Artigianato e Palazzoにも言えます。もっとも美しくディスプレイした出展者へ与えられる『ジョルジャーナ・コルシーニ賞』を頂きましたが、僕にとって、とても大切なことでした。

出展するにあたり、商品のみならず、ディスプレイに使う道具も、とても考えました。そのひとつが、この木製のハンガーです。

参照:Instagram Ozio Piccolo Studio Tessile

誰かに作ってもらったんですか?

いえ。僕が作りました。木を扱うのが好きなんです。

オリーブの木ですか?

クルミの木です。すっごく固いの!もし僕が家具職人だったら、ほかの木を選んでいましたね。本当にすごく硬くて、苦労しました。

枝葉を取り除いて、ヤスリをかけるのに、まるまる1週間かかりました。

でも、完成したら、僕が欲しいと思っていたものに仕上がって満足です。

大型店でもスーパーでもハンガーはどこでも買えるし、ハンガーを使おうと思ったら、ほんとの人は買いに行くでしょう。

でも、作ったものは、そこに置くだけで、まったく印象が変わります。

ストールを床にそのまま置くのと、木目の美しいテーブルに置くのとでは、美しさが変わるでしょう。

参照:Instagram Ozio Piccolo Studio Tessile

シモーネさんの、そういった感受性はもともとあったものなのでしょうか。

たぶん。でも美的感覚は磨かれると思う。僕がいままで歩んできた過程で、美しいものに対する計りというか基準というか、そういうものが存在することが分かりました。正しい方法であれば、磨くことができます。

それは、感受性とも言い換えられるでしょうか?

そうです。感受性は、創造するときに、とても重要です。

シモーネさんにとって「作る&創る」こととは?

「創る」は満足することで、「作る」は、生活のための仕事ではなく、好きな作業です。

いろいろな要素を考えて機織り機に向かいますが、最初は気に入っていたのに、進めていくうち、気に入らなくなることがあります。そのときは、続けても苦しいだけなので辞めてしまいます。

織っているときの「気持ちの良い感覚」を大切にしたいんです。

そしてまた新しいデザインを考えて、織り始めます。


シモーネさんは、アーティストですか? 職人ですか? それとも両方ですか?

アーティストではないですね。

生地を織るだけでなく、バッグの形を考えたり、インテリアのためにデザインしたりするので、自分を表現するとしたら、職人デザイーかな。

機織りの世界は広いので、一枚の素晴らしい作品を織りで表現する機織り師もいます。彼らはアーティストです。

僕は、日常使いするものの、形やデザインを考えるのが好きです。

時空を旅できるとしたら、過去と未来、どちらに行きますか?

絶対に過去。中世からルネッサンスにかけての時代。

フィレンツェの近くに住んでいることもあり、工房の黄金期でもある、ルネッサンス時代にものすごく惹かれます。

歴史上の有名人と 一緒にディナーを楽しむなら誰でしょう?

これも同じ時期ですね。
そうだなぁ、レオナルドダヴィンチかな。

発明家、建築家、画家、彫刻家、さまざまな分野で活躍していたレオナルドを前にしたら、自分が小さな存在に感じることでしょう。

僕も、機織り師というカテゴリーに縛られることなく、家具を修復をしたり、木工品を作ったりと、ほかの分野での知識や技術にも長けていたいです。

いまの世界は、カテゴリーが細分化しすぎていると感じます。家具を扱うことができれば、織物にもその技術は反映されます。ひとつの分野だけでなく、あらゆる分野の素材や技術を知ることが、結果的に、自分の仕事にも役立つんです。

最近最も心を動かされたことはなんですか?

仕事の評価を受けたことです。すごく嬉しいし、すごく幸せです。

高校を中退してしまい、賞というものにまったく縁がなかったし、アートの分野もぜんぜんダメでした。なにかに優れていることもなかった僕なのに、こうやって評価を頂いて本当に嬉しいです。

自分を表現するための技術と仕事が見つかり、少しづつ、自分のしていることに満足し始めまたところです。

今後取り組んで行きたいことはありますか?

インテリアやファッションの世界に、すごく興味があり、ゆくゆくは、この分野の生地もいろいろ織ってみたいです。建築家とのコラボレーションもしてみたいです。たくさんのアイデアがあるので、実現していきたいです。

フィレンツェでシモーネさんと会えるのはどこでしょう。

定期的なものでは、フィレンツェのサントスピリト広場で開かれる、オーガニックの青空市場に出展しています。

毎月、第3日曜日。9時〜19時に開催しています。雨天決行です。

小さな会社がオーガニックで作ったものを販売するマーケットです。

シモーネさんのHP


ストールを1枚購入しています。夏織の、コットンとリネンで織られたものです。今年は暖冬なので大活躍です。シモーネさんが、ひと織りひと織り織り込んだ生地は、目でほっこり、肌でぬくもりを感じ、心の満足を日々楽しんでいます。職人さんの作ったものに囲まれるのって、幸せです。

彼の動向は目が離せないので、これからも追って行く予定です。「エルザ」ストールは絶対に見せて欲しい。また別の機会にご案内したいと思います。そして、機織りは、美しい音を立てながら糸を織り込む作業なので、動画を編集したら投稿します。

こちらは、彼のHPに掲載されている動画です。

日本の文化にとても関心を示しているシモーネさん。生地や染色関係の方が、この投稿を見て下さっていて、見学させて頂けるようなら、ぜひご連絡ください。2023年には日本へ行きたいと言っていたので、紹介させて頂けたら嬉しいです。
連絡先:yoko.ig@gmail.com

最後までお読みくださり、ありがとうございました!

イタリアは、あと数時間で新年になります。
2023年もよろしくお願いします!


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