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コルシーニ邸庭園と職人展示 * 前編

「あ!」と言葉を発している間に、9月は駆け抜け、明日はもう10月。

9月は、訪れたいところが目白押しで、仕事の傍ら、フィレンツェのいろいろなイベントに足を運び、ミラノやローマへも行ってきました。折に触れて案内していきます。

そのひとつが『コルシーニ家主催の職人展示』。去年に引き続き今年も訪れました。

フィレンツェといえばメディチ家が連想されますが、コルシーニ家もなかなかすごいことをしています。そのひとつが、ローマで外せない観光スポット「トレビの泉」。実はフィレンツェ出身のコルシーニ家が造らせたものです。

ご興味のある方は、去年の展示会の様子をご覧ください。

コルシーニ家と庭園

メディチ家の末裔は現在も存在するものの、本家本元は1700年後期に断絶します。一方、コルシーニ家は現在も健在です。1100年代中期頃にネーリ・コルシーニがフィレンツェに移り住みます。コルシーニ家がフィレンツェに名を残した最初の人物です。

1300年代になるとフィレンツェが商業の国として栄え、それに伴い、コルシーニ家は羊毛業と絹織物業で財を成し、銀行を設立。その後、ローマ法王を出し、ゆるぎない地位を築き、現在に至ります。

参照:https://villacorsini.com/
コルシーニ家の家系図

コルシーニ家の邸宅はフィレンツェ中心街や郊外に何軒かありますが、職人展示が開催されるのは、中心街にあることを忘れてしまうような、プラート邸宅の大きな緑の庭園です。

もともとはアッチャイオーリ家所有で、1591年にベルナルド・ブオンタレンティに依頼して建てさせたもの。ブオンタレンティはメディチ家のお抱え芸術家で、晩餐会が催されるときは、エンターテナーとしても活躍します。

なぜメディチ家所属のブオンタレンティに依頼できたかというと、アッチャイオーリ家の子息とメディチ家のお嬢様が結婚し、強い絆が結ばれたからです。

ブオンタレンティは、水道工事をし噴水を作り、オレンジの木を植え、明かり取りの大きな窓をデザインし、田舎で暮らしているような豊かな庭園と邸宅を造ります。現在も、その一部は姿を変えずにいます。

1995年から始まり、今年で28回目を迎える展示会では、どんな新しい出会いが待っているでしょう。

ブオンタレンティの開廊

受付を済ませて入ると、庭園正面にあるブオンタレンティの開廊が、青い板で覆われています。

テーマは「抱き合う(L'Abbraccio)」

ルネッサンス時代の邸宅の空間と、現代のアートが「抱き合う(L'Abbraccio)」インタレーションは、建築デザイナー、コジモ・ボンチャーニ氏がデザインし、サンパトリニャーノという職人協同組合の若き職人達が作ります。

サンパトリニャーノ協同組合は、アルコール、ドラッグ、ギャンブルなどの依存症や、自分の道を見つけられずに苦しむ若い子たちが共同で生活し、手に職をつけ、自立することを助ける組合です。

使われた板は、廃材を利用しています。

開廊のなかから庭園を見た景色

長さの異なる板は、あるものは右に寄り、あるものは左に寄っています。みんなが同じじゃなくてもいい、それが個性というもの。

一枚だけなら、ただの板切れかもしれない。けれどモザイクのように組み合わせれば、ひとつの作品が完成します。

開廊の周辺に置いてある出店ブース

板の長さも配置もバラバラなのは、十人十色の個性を、単色の青色は、心をひとつにして目標に向かっていく姿を表しています。

ここに集まる職人達のように、みんなで協力しあえば、ひとりの力では成し得ないことでも、大きなことが達成できる。というメッセージが込められています。

休憩所にはベンチとしても登場

イタリア革なめし組合

毎年、ブオンタレンティの開廊には、展示会の主役となる職人が選ばれます。今年の主役は、植物からのみ染色するイタリア革なめし組合(Consorzio Vera Pelle Italiana Conciata al Vegtale)。

イタリアと名が付いていますが、正確にはフィレンツェからピサにかけての一帯で活動している組合です。現在は20社が登録しています。昔と変わらず、植物から抽出した自然のタンニンに、その土地の澄んだ水を合わせたものに漬けます。

フィレンツェでは、1282年になめし革組合が創立され、1534年に革組合に統合されます。革は、フィレンツェとともに生きてきた伝統産業です。

人の手で作業するので、組合の商品に付く保証書には、手のひらを広げたハンドプリンティングが印刷されており、組合の社章になっています。

参照:https://www.pellealvegetale.it/

歴史や伝統を重んじ、昔ながらの製法で生産を続けることは、とても重要で大切なことです。昔からの革製品には、ベルト、カバン、服飾、靴、ブーツ、小物などがあります。

でも、それでは存続することだけに重点を置いてしまいがちです。そこで組合では、新しい革の可能性を探るべく、数年前から若手デザイナーのコンクールを開いています。

どれも、革の自然の風合いを活かした、粋のある作品に仕上がっています。デザイナーは不慣れな革を素材とし、革なめし職人は既成に捉われない豊かな発想のデザインを具象化するために、お互いの力を合わせて、ひとつの作品が完成しています。

個々はバラバラだけど、バラバラの個性を掛け合わせれば、なにかを生み出すことができる。

青いモザイク風板ばりのインスタレーションが発するメッセージのようです。

家族のレシピ公開

季節は秋。土着品種や希少種の、りんご類やぶどうの展示。絵に描いたように色が鮮やかで美しい。自然の美しさには、神々しさが宿っているようです。

今年も「家族のレシピ (Ricetta di Famiglia)」に参加してきました。毎年テーマに合わせてゲストをお招きし、家族のレシピが紹介されます。そのレシピをフィレンツェ支部のル・コルドン・ブルー調理学校が調理し、参加者全員が試食するというものです。

進行役を務めるのは、去年に引き続き、食ジャーナリストのアンナマリア・トッサーニさん。今年もエレガントなお姿で登場です。

サーカスのような赤と白の紅白テントには、30席くらいの簡易椅子が用意されており、各々が好きなところに座り参加します。

簡易テントと簡易椅子のなかにあり「私は別物ですよ。」とでも無言で主張しているような、立派なステンレス製のキッチン。

そして今年もフォルナセッティの「Tema e Variazioni」シリーズのお皿でお食事が提供されます。アンナマリアさんの、このお皿の持ち方。指先までピンと伸ばして、お皿を美しく見せています。

今年のテーマは、ミステリー小説。作家は全員がトスカーナ出身。わたしが参加したときは、女性作家パトリツィア・デビック・ファン・デル・ヌート(Patrizia Debicke Van Der Noot)さんがゲストでした。

姓がイタリアっぽくないので、発音が不確かですが、フィレンツェ生まれです。パトリツィアさんが最近執筆された本は「L'Eredita' medicea」。メディチ家の相続。という和名になるでしょうか。

1537年1月6日にロレンザッチョと呼ばれたメディチ家のロレンツォが、従兄弟に殺されるという、史実に基づいたミステリー小説。その場で購入し、サインを入れて頂きました。

彼女の生い立ちから、どうしてミステリー小説家になったのか。歴史上の事実に基づいて書くために、どれだけの文献を調べるに及んだかなどを、お話しされ、家族のレシピへと話題は移ります。

パトリツィアさんの家族のレシピはトルテッリ。パスタを打って四角に切ったら、そこに具材を詰めて、ソースをからめた料理です。

傍らでは、ル・コルドン・ブルーのシェフがトルテッリを作っています。トルテッリ、意外に大きい。

質疑応答のあとに、参加者からひとり代表がえらばれ、シェフと一緒にトルテッリ作り。選ばれた女性は女優として活躍されている方らしく、まさに適任。

そうこうしているうちに、ル・コルドン・ブルーの青いエプロンをつけたスタッフが、お料理を運んできました。

トルテッリには、鶏の胸肉をブロードで煮込んでほぐしたものが詰めてありました。パルミジャーノチーズをフライパンで焼きカリカリに仕上げたら砕いて、トルテッリの上に散らし、さらに、バルサミコ酢を垂らして、味にアクセントをつけています。

芥子のような黄色のソースは、サフランソースで、サフランを生クリームに漬け込んだもの。

テーブルなしの膝の上で、参加者は、お皿を落とさぬよう、壊さぬように慎重に扱いながらも、美味しく頂きました。

わたしの隣には、コルシーニ家のプリンチペ(当主)。後ろにはプリンチペッサ(奥様)。お二人は、別々に入ってきて、空いている席に座り、作家の話しに耳を傾けていました。

コルシーニ家の家紋の入った木製ベンチ

アンナマリアさんが、プリンチペへ「最近読まれたミステリー小説はありますか?」と尋ねると、「ほらほら、料理が運ばれてきたから、早く食べましょうよ。」と話題をさらりとかわされ、なごやかな雰囲気のなか、ひとつ屋根の下で、試食されていました。

麦わら帽子をかぶり、アイボリーのスーツにボルドー色のネクタイをしめ、自転車で庭園を走り、展示会の様子を見て回っていましたが、隣に座られたときに、麦わら帽子の縁がボロボロなのに気がつきました。

フィレンツェには、公爵、侯爵、伯爵、プリンチペと、爵位を持つ方々が存在しますが、良質のものを身に纏われているのは当然としても、年季の入ったものを使っている姿をお見かけします。

古くなったものは大切に修復や修理をして、使い続ける。歴史という時の中に身を置き続けた一族が持つ、品格というものを感じるエピソードです。

次回は、職人展示の後半で、本編にはいります。今年はどんな職人と出会いがあるでしょうか。

長文になってしまいました。
最後まで読んで頂きまして
ありがとうございます!!

次回もコルシーニ邸の庭園で
お会いしましょう。


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