バイオリンの妖精 * 後編 「いま」そして「これから」。
前編は、パリスさんを取り巻いていた「きっかけ」をご案内しましたが、後編は、「いま」活動していること、「これから」向かおうとしている所について、話しを伺います。
*リュテリア・トスカーナ(Liuteria Toscana)
パリスさんが所属している工房、リュテリア・トスカーナは、同名で学校もありますが、ここは学校ではないんですよね?
学校は隣町にあります。生徒が実習にくることがあり、そのときは、空いている台や、わたしが使っている台をシェアして、全員が作業できるだけのスペースが十分にあります。
この工房は確かに広いですね。
そうなんです。試し弾きができるショールーム、明るくて大きなキッチン、木材置き場、木を切る機械、作業台も数台あります。
リュテリア・トスカーナは リュテリア・トスカーナ・フェルナンド・フェローニ学校という弦楽器製作専門学校で教えている、 ファビオ・キアリ(Fabio Chiari)師匠とフランチェスコ・アルジエリ(Francesco Algieri)師匠の二人が、5年ほど前に設立した、製作と販売に特化した会社で、わたしのいる、この工房です。
この工房で働いている全員が、フリーランスです。それぞれが、ここでバイオリンを製作し、工房内にあるショールームに展示し、販売します。
販売価格の10%を、工房の利益とし運営しています。運営費は、いまは動けない状況ですが、世界の見本市や展示会に出店する費用としても賄われます。
クレモナの見本市に毎年出店していますが、わたしひとりでは、とても払えない金額です。それに、展示会ごとに、10挺ほどのバイオリンを自分で運ぶなんて、とても無理。
海外なら、さらに飛行機代や運送費もかかります。工房のメンバーが力を合わせることにより、不可能を可能にしてるんです。
それに、お客さんにとっても、一人の職人が作ったバイオリンだけじゃなく、数人の異なるバイオリンに触れることができるので、より選択肢が広がります。
数挺だけの場合、そのなかから選ばなくてはならず、本当に自分がそれが好きかどうか、半信半疑のときがあります。でも、ここには、常に40挺ほどを揃えています。
個性もそれぞれ違いますし、まだ製作を始めたばかりの若い製作者のものから、経験を積んだ師匠の製作したものまで、種類も豊富にあり、各々の予算に応じることができます。
いろいろな面から、気に入ったものを、とことん追求することができるのが、このショールームの利点です。
さらに、わたしたちは、あらゆる弦楽器の修復や、弦を変える作業もあるので、なにかしら、毎日することがあるんです。
* ウーマン・イン・リュテリエ (Women in Lutherie)
ウーマン・イン・リュテリエ(WOMEN IN LUTHERIE)は、女性の、女性のための、女性による活動を支援している団体です。
弦楽器製作者として活動している、もしくは、弦楽器製作者になりたい、世界の女性が繋がり、活動しているコミュニティです。
パリスさんは、いつから、この活動に参加したんですか?
21年2月からです。去年は、ビデオ会議をしたり、フェローシップを行いました。フェローシップとは、経験を積みたい女性製作者が、プロの女性製作者のもとへ習いに行くものです。
わたしのもとへは、2名が習いにきました。一人はアメリカ、一人は英国からです。2週間滞在し、わたしがレッスンをし、一緒に作業をしました。とっても楽しかったです。
こういう活動があるということは、この世界は男性社会ということですか?
その通りです。年配の男性が多い世界です。女性がバイオリン製作者になるのは、簡単なことではありません。
男性のバイオリン製作者は素晴らしくて、女性は片手間でやっているだけ。みたいな風潮があります。
でも、この世界には理解のある男性もたくさんいて、わたしはラッキー、本当に幸運です。わたしが所属しているリュテリア・トスカーナ工房の人たちは、「パリスという女性で、バイオリン製作者」とだけ見てくれる、大切な友人達です。
外に目を向けると、女性製作者は、本当にたくさんの問題を抱えています。
女性の、世界共通の問題はありますか?
セクハラです。小さな工房で、男性の師匠と二人きりになる環境が多すぎます。
そしてパワハラ。いまだに、バイオリン製作は女の仕事でないと考えている男性が多いです。工房に女性を入れたくない男性職人もたくさんいます。
男性の女性に対する考え方は、世代によって違ったりしますか?
世代というより、国や文化ですね。
女性があまり女性しすぎても敬遠されます。
例えば、わたしは、おしゃれをするのが好きで、ヒールの靴も履くし、赤い口紅もするし、マニキュアもします。ジュエリーを身につけて、髪の毛もまとめずに、ゆるく流しています。
そんな女性は、男性からは、「まったく女はこれだから」と、軽くみられて、キャリアが閉ざされてしまいます。
でも、仕事は仕事でちゃんとすればいいわけでしょう。おしゃれを楽しむことも、わたしの一部よ。
それに、噂話とか、陰口とか、おしゃべりが好きよね。バイオリンの世界以外の、どこでもそうだろうけど。それが普通なのは知ってる。悲しいけどね。
だから、女性だけのコミュニティを作ったの。
昔から変わらない男性世界に身を置くんじゃなくて、女性のための弦楽器製作の新しい世界を広げるんです。
今年の夏もフェローシップをするし、ほかにもアイデアがたくさんあるから、実現できるようにみんな力合わせて、前に進んでいくわ。
小さな子供を抱えてて、外出もできず、延々と家で作業をしてるから、孤独に苛まされる女性もいます。
わたしも、ロンドンに住んでいたときに、自宅で、音楽を流しながら、ずっとひとりで製作していたわ。だんだん、気が滅入ってくるのよ。外界と遮断して生活するのは、きついことよ。
遠隔であっても、コミュニテイの仲間とおしゃべりするだけで、どれだけ気持ちが楽になることか。
この工房では、製作中の楽器を使ってピンポンの動画をあげたりして、遊びながら息抜きしていて楽しそうですね。
そう(笑)。みんな仕事が本当に好きで、仕事をしているときは、集中しているけど、たまには、息抜きも大切。食べるときも、みんなと一緒。たまに、外にわいわいと全員で食べに行ったりもするの。
ここは、生きるのが楽なの。こんな環境にいれて、わたしは、本当に、本当に、幸運です。
*バイオリン工房とお客様
イタリアだけでも、バイオリン工房は、意外にもたくさんありますが、すべての工房が成り立つほどの顧客がいるのでしょうか?
この世界は、みんなライバル意識が高くて、つねに競争を強いられている感じ。クレモナは特にそう。オフィシャルには160工房になっているけど、登録していない製作者も含めると、もっと多いです。とても小さな街なのに。
わたしの親しい友人の何人かはクレモナに工房があるので、たまに、彼女らを訪ねに行くけど、クレモナで仕事をしようとは決して思わないわ。フィレンツェにも、バイオリン工房がたくさんあるのよ。
でも、わたしたちの市場は、全世界だから、バイオリンを弾く人と、作る人のバランスが取れているんです。
世界のオーケストラで弦楽器の奏者はたくさんいます。オーケストラに所属してなくても音楽家はたくさんいるし、修理や修復だってしなきゃいけない。だから、競合社会ではあるけど、そんなに激しい競争ではないです。
* バイオリンの製作にかかる時間は?
わたしは、1週間のうち7日間仕事します。いまはバイオリンの製作に集中していて、完成するまでに約2ヶ月かかります。
季節で、製作期間の長短は決まりますか?
季節ではなく、木の種類です。木が固ければ、彫るのに時間がかかり、木片からバイオリンの形にするまでに1週間かかるものもあります。
一方、ニスを塗る作業は、季節によるところが大きいです。例えば、暑くて、湿気のあるときは、ニスが乾くまで48時間、もしくはそれ以上かかります。逆に、乾燥して寒いときは、早く乾きます。
塗料は、バイオリンにとって、とっても大切なので、乾燥するのをじっくり待ちます。
腕を痛めれば、もちろん、製作速度も落ちてしまいます。そんなときは、焦らずに、ゆっくり作業を進めるように心を落ち着かせるようにしています。
ある日、ふと、思いついて、自分自身にチャレンジしたことがありました。
それは、2週間でバイオリンを完成させるというものです。
どれだけ短期間で作れるのか、試してみたかったんです。朝晩関係なく、ずっと製作して、結果、12日間で完成しました。
製作中はものすごく集中していたので、作り終えた時は、なにもしたくなくて、ああ、休みたい、と心から思いました(笑)。
でも普段は、自分のペースで、落ち着いて作っています。急いだりあせって作っても、良いものは作れないですものね。適当では、決して作れません。つねに、良質の、良いものを作るように心がけて製作しています。
* バイオリンの音
わたしたちは、弦楽器に使う特定の木を購入しますが、とても高価ですし、見つけるのも簡単ではありません。しっかり乾燥させた最高品質のものが必要です。
木の厚みや丸みなどをみて、特定の音が鳴る木を探します。でも、木は自然ものです。作って初めて、どんな音がでるのか、分かるんです。だから、作り終えるまでは、どんな音がでるかわかりません。
「特定の音を鳴らすバイオリンを作れる」と言う製作者もいますが、不可能です。まったく同じモデルを作っても、木のあらゆる条件が異なれば、音も異なります。
木の乾燥具合、湿気状態、ニスの配合、ニスを塗る筆が前回と違ったり、いろいろな要素が音に結びつくのです。
これは、ナシの木で作っているものです。ピンクがかった色で、ほかの木と比べると柔らかめです。少しくすんだ深みのある、独特の音が鳴ります。
すでに過去にナシの木で製作しているので、だいたい、完成後にどんな音が出るのか、想像できます。でも、実際に完成してみると、想像とはまったく別の音が鳴ることもあります。
まるで魔法のようです。
完成したら、そのまま販売するのでしょうか?
完成したら、プロの音楽家に演奏してくれるように依頼します。完成したバイオリンを手にして、音楽家が演奏する瞬間までドキドキです。
各音階や色々な楽曲を、しばらく演奏してもらいます。音だけでなく、抱えたときにしっくり体に収まるか、弦を支える駒の位置は正しいか。ちゃんと音が鳴るか。すべての条件が揃わないと、音の鳴らない楽器を、販売することはできません。
もし、楽器に不具合が見つかったときは、どうするんでしょうか?
悲しいです。一度接合したものを、分解して、木の微調整をしたり、ニスを変えたりします。でも、不具合を修正して、完成にもっていくのは、簡単ではないです。
木の厚みが少しでも異なると、音も変わるのでしょうか?
製作者により、厚みの設定は異なりますが、わたしの場合は、例えば、4mm 3.5mm 2mm 3mm 2.6mm 2.8mm ..
これを基準に、木の厚みを決めます。木が柔らかいときには、すこし厚めにしておきます。
彫りおえたら、左右上下にひねったりして、木の状態をみて、木を叩いては、表面と裏面とで、同じ音がでるかを確認します。
* アニマ(魂柱こんちゅう)に関してはどうですか?
アニマのことを知りたい方は、こちらの「こころを奪われたアニマの存在」をご覧ください。
アニマは必要欠くべからず。音がいまいちだったり、バランスが取れていないときに、アニマを半ミリづらすだけで、まったく違う音色が出ます。
アニマが倒れたしまったときには、また嵌め直さなければなりません。これが、時間がかかるんです。
音楽家が音を変えたい時、ここにきて、演奏したら、アニマの位置をかえて、演奏したら、また位置を変える、この作業を延々と続けて、好みの音に近づけます。
接着することはできなんですよね?
できないのよ!
弦を変える場合に、楽器を支える張りが弱くなり、アニマが倒れることが頻繁にあります。その場合には、一からやり直さなければならず、駒側に置いたり、外側に置いたり、いろいろ試して、どこが正しい位置か探します。
アニマには『まさに、ここ!』という場所があるんです。必ずどこかにあるので、その場所を見つけなければなりません。
ただ1箇所のみなんですか?
そうです。その1箇所にアニマを置くと、完璧な音が鳴ります。ちょっとでもづれると、ちゃんとした音が出ません。
バロック時代にはありませんでした。あるのとないのとでは、音の広がりがぜんぜん違います。劇場で、アニマなしで演奏しても、観客席まで音が届きません。
* パリスさんのお客様はどのような方ですか?
音楽学校の生徒さんが多いです。トスカーナ州には、フィレンツェ、フィエーゾレ、ルッカ、シエナなどに音楽学校があります。イタリア全土からも来られますし、いまは、イタリアに限りません。
北イタリア出身の大柄の女性のヴィオラ奏者は、42サイズの大きいヴィオラを注文されました。かと思えば、小柄の女性でも、大きなヴィオラを好んだりします。なので、体型などよりも、それぞれの好みに寄るところが大きいです。
既製のものでなく、注文に応じて製作することも普通にあります。スタンダードなモデルでは大きすぎるので、少し小さくして欲しいという場合には、彼女の体にフィットするように、全体的に小さめなモデルを作ります。
インターネットを通して、販売することができるようになり、市場が拡大しました。いまでは、中国、韓国、日本、アメリカにもお客様がいます。海外の場合には、個人だけでなく、自国に販売店を持つ業者の方も、大事なお客様です
* コロナの前と今とでは、世界との関わりが変わりましたか?
コロナ前は、ネットで注文後に、この工房で直接にお渡ししていました。でも、いまはイタリアにくることが難しいし、帰れなくなる可能性もあるので、国際宅急便で発送しています。
コロナになって、e-commerce(eコマース)は急速に成長しました。ここリュテリア・トスカーナでも、通販ページがあり、売り上げを伸ばしています。
高価なものなので、以前はネット注文するのを躊躇されてた方も、いまの状況に対応せざるを得なくなり、ネットで購入される率が高くなりました。
一度も手に触れたことがなく、鳴らしたこともないのに、購入することは、わたしにとって勇気が必要ですが、そうじゃない人もいて、抵抗なく購入する方が増えています。毎日投稿するインスタグラムも、販売に大きく貢献しています。
ロックダウン中は、そんな状況もあり、ネットでの販売が伸びていましたが、ロックダウンが終わったあとはどうなるのか、心配でした。だけど、ロックダウンが明けた1週間後には、工房にたくさんの人がきてくれたんです。
そのようなリクエストが結構ありました。ずっと家に閉じこもっていた反動かもしれません。
* お客様へお渡しする時、どんな気持ちですか?
売れたときは、単純に嬉しいんですが、数日後に、わたしのバイオリンがないことに気がつくんです。
悲しくなります。
いろいろと思いを馳せてしまいます。
数週間前は、フィレンツェの音楽学校の生徒さんが、わたしのバイオリンを買っていきました。
とても嬉しかったです。
なぜなら、弦を変えるときなど、わたしのもとへ持ってくるので、そのときに、バイオリンの状態を確認することができるからです。
* メッセージを残してから、バイオリンの表と裏を接合するんですか?
そうです。バイオリンを接合したあと、f孔から覗けば奥の方が見えるじゃない? でも、死角になるところに書けば、見えないの。
なにかの問題が起きて(そうならないことを祈るけど)、だれかが、楽器の板を開ければメッセージは読まれるけど、そうじゃなければ、ずっと隠されたまま。なにを書いているかは秘密。
わたしが製作したという証として、わたしの焼印も入れます。それに、ちょっとだけ、わたしの血痕も残っているわね。
道具は、砥石で研いで常に切れるようにしているの。切れ味を確かめるために、腕の部分をなぞるんだけど、お陰で、左腕の手首から肘のあたりまで、いつもつるつる。
あまりにも切れ味がいいから、フっと間違えて指を切っても、痛みよりも先に、板についた血で気がつくの。急いで板を助けて、それから自分の指。あとからジンジンと痛みがくるのよ。
* ずっと仕事をしている印象ですが、余暇は何をしますか?
工房の裏に小さな野菜畑があるんです。イギリスに住んでいたときは、大きな菜園があったけど、ここのは、すごく小さいの。
夏は、収穫したサラダでランチをします。肩を痛めていた、ここ3ヶ月間は放置してたから、今週になり、雑草を取り除く作業を始めました。
料理も好き。アートも好きで、絵を描きます。あとはリサーチ。ここ2年ほど、ずっと続けています。初冬から肩を痛めて楽器の製作が十分にできなかったときは、リサーチに没頭していたので、たくさんの収穫を得ることができました。
パリスさんがリサーチしているのは、ミンストレルというもので、中世ヨーロッパにおいて宮廷に仕えた職業芸人達の事を指します(Wikipediaより)。彼らの抱えている中世時代の楽器がどんなで、どういう音を鳴らしていたのかを、研究しています。
円柱に残る、こんなにもカラフルな彫刻。こちらのHPをみると、ほかにも、いろいろあるようです。(また、行きたいところが増えました!)
* ミンストレルの研究
データベースにアクセスしたり、専門書を読んだり、専門家に質問したり、これらのリサーチをもとに、イギリスで使われていた中世の楽器の復元を試みたいんです。
たくさんの情報を得ることができたので、いったんイギリスに戻り大学で専門に学び学士号を取るのも、いいかな。とも、考えています。
イギリスには、中世の楽器を研究している専門家がたくさんいて、ダラム大学や、ケンブリッジ大学などに、専門科目があるんです。
フィレンツェに住みながら、オンラインで勉強して学士号が取れるのならいいけど、どうだろう。わからないわ。わたしは、ここ(フィレンツェ)にいたいの。
学士号を取るには、4~5年かかることもあります。わたしがリサーチしているのは、中世の楽器でも1200年代のものです。もともとはヨーロッパからきたものですが、中世時代にイギリスで製作された楽器に焦点を絞っています。
セントメアリー教会には、小さな音楽家が楽器をもっている彫刻が残されていて、この彫刻を見るために、世界中から訪れます。
小さい頃から、何度も訪れてました。ここから、わたしのリサーチは生まれたんです。ちょっと探ってみようと、最初は軽い気持ちだったんですが、たちまち魅了されて、だんだん深みにはまり、気がついたら、真剣に研究するようになっていたんです。
どんな音が鳴るんでしょう?
わかりません。
中世の楽器を復元する職人もいますが、当時の音を鳴らしているのかは、わかりません。5台の中世の楽器がそのままの形で残されていて、大英博物館に保管されています。ポーランドにも3~4台あります。
ただ、これらの楽器は、木片の状態で残されているので、鳴らすことは不可能です。
* 1日のルーチンを教えてください。
朝は起きたら30分間のヨガをします。そのあとに朝食。仕事、ランチ、菜園の手入れ、ランチの後片付け、仕事、夕飯。寝る前に読書か映画。就寝。
ヨガは16歳のときからしているので、いまはひとりでやっています。背中がガチガチになるので、ヨガをするとほぐれます。
ということは、ずっと工房の敷地内にいるんですね?
そうです。毎日、ずっとここにいます(笑)
* 趣味はなんですか?
アートはとても好きなので、展示会に行ったり、コンサートにはよく行きます。中世時代の絵画を見たり、ウフィツィ美術館や教会にも、よく行きます。
本を読むのも好き。畑仕事も好き。田舎や山を歩くのも好き。ただ、パートナーは、歩くより海辺でのんびりするのが好きなので、ちょっと残念。
* いまの仕事をしていなかったら、なにになっていましたか?
農業(笑)絶対、農業をやってました!
小さな農園に、ヤギ、ウシ、ニワトリなどを飼って、ブロッコリーやらジャガイモを作って暮らしていたと思います。
* 時空を旅できるとしたら、過去と未来のどちらに行きますか?
過去!中世時代!ミンストレル(笑)
わたしがいままで読んだ彼らの歴史が、本当かどうか確かめたい!
実際に彼らが演奏する音を聞いみたいし、どんな風に暮らしていたのか知りたい。でも短期間だけ。だって、あの時代に長くいるのって、危険そうだもの。
未来には行きたくないわ。まだコロナがあるかもしれないし。そうじゃないことを願うわ!
* イタリア語がとても流暢ですが、どのように学んだのでしょう。
朝から晩まで、この工房でイタリア人と一緒に仕事をしているうちに、覚えました。でも最初は理解するのが難しかったですよ。
イタリア人と終日一緒にいるのが、大きいし、覚えなければ生活できないので、否が応でも覚えます。
* イギリスが恋しくなることはありますか?
国というより、家族が恋しくなります。コロナ中は、行動制限されていたので、会いたくてもイギリスへ帰れないもどかしさは、かなりありました。
* 紅茶とコーヒーではどちが好きですか?
カフェ(エスプレッソ・コーヒー)。イギリスにいた頃から、紅茶はそんなに好きじゃなくて、手元にはいつもモカ(エスプレッソマシーン)がありました。母さんは、紅茶派ですね。
* 職人である。とは、どういうことですか?
うーん。難しいですね。
学んで、経験を積み、動機を保ち、伝統を踏襲すること。それらぜんぶを合わせたものだと思います。伝統を守り受け継ぎ、それを実現させるための技術をもっていること。
自分のなかにある、忍耐、情熱も必要です。なかでも、やっぱり伝統が一番重要。そうじゃなければ、量産で安価な商品だけになっちゃうでしょう?
* 職人の世界は、狭い世界のように見えますが、もう少し世界を広げた方が良いと思いますか?
いまは、そこまで狭くはないかな。インターネットを通じて、世界の製作者と繋がれるし、レッスンも受講できます。
それに、わたしたちのように、女性だけのコミュニティを作って活動することもできます。新しい技術も生まれてますし、X線を使って昔の楽器を科学的に研究することも可能です。
時代が進歩するなかで、忘れてはならない大切なことは、伝統に敬意を払い守り続けることです。伝統がなくなってしまえば、たくさんのことを失ってしまいます。
* いま一番行きたい場所は?
オスマン帝国とキリスト教が交錯しているルーマニアに行きたいです。当時のまま残されている修道院へも訪れてみたいです。
食文化に触れたり、音楽にも興味があるし、木が好きだから、有名な森にも行ってみたい。可能なら、今年訪れてみたいです。
* フィレンツェで特に好きな場所は?
サンタトリニタ教会とプロカッチ。プロセッコ(発泡ワイン)が好きなの。この2箇所は近所だしね。サンタトリニタ教会で絵を堪能したあとに、ちょっと歩いてプロカッチでプロセッコを楽しむのが好き。
いまはトランヴィア(路面電車)に乗れば、すぐに中心街へ行けるので、すごく便利になったの。夕飯のあと、中心街へ散歩に行ったり、ジェラートを食べに行ったり、友達に会うために、気軽に出かけるようになったわ。
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パリスさんが子供の頃は、自然のなかで育ち、遊びと称して家族で創作を楽しんでいたと、話されていましたが、それが、いまのアーテイスティックでシンプルな生き方に繋がっているのではないでしょうか。
テレビを置いてなかったということなので、テレビを見「ながら」時間もなかったことでしょうし、夜の団欒の時間も、さぞ会話が弾んだことだろうと推測します。
好きなものは、菜園。弦楽器製作をしていなければ、農業。という返答も、いかにも、パリスさんらしい。
パリスさんの製作する弦楽器は、きっと、彼女のように、のびのびと、明るい音を奏でることでしょう。
わたしのなかでは、ウィメン・イン・リュテリエの活動が、とても心に残りました。
女性の弦楽器製作者で、いろいろ悩んでいる方がいましたら、ウィメン・イン・リュテリエという活動があることを、話してみてください。フェイスブックのコニュニティを通し、日々活動をしています。
「職人であるとは、伝統を守り受け継ぎ、それを実現させるための技術をもっていること。」
日々の作業を地道に行うことで、少しづつ過去という道が作られ、自身の技術も磨かれる。
一朝一夕では決して為し得ないことを知り、実践していく、「誇り、情熱、そして忍耐」。前編で案内したパリスさん語録の言葉、そのものです。
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イタリアの未知の世界を覗き込み、心の片隅に残るような感動をシェアできたら嬉しいです。インタビューを通しての、モノづくりをしている職人さんの応援を、これからも続けていきます。
長いこと、バイオリンにまつわる話しにお付き合いくださり、ありがとうございました!
** バイオリン・シリーズ **
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