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流体力学の理想形態(完全流体)の物理を知ること -2-

流体力学で理想状態のひとつに見做される「完全流体」について。連続体と仮定した場合に、流体の接線応力(抵抗力)を無視したものとして、完全流体の定義が成されます。

流体圧力を2階のテンソルで表記した場合に、圧力のスカラー量(p)とクロネッカーのデルタ(行列的な対角成分を有値にする処理)と合わせて、次のように表現されます。

$${p_{ij}=-p\delta_{ij}}$$

今回の連載では、完全流体としての物理的な特性を中心に見ていきます。

前回は完全流体に対する基礎方程式(エネルギー保存則)を提示して、そこを起点にしてベルヌーイの定理の話を展開しました。

今回はベルヌーイの定理(エネルギー保存則)に代わり、渦の諸定理(角運動量保存則)について、完全流体として成立する形を見ていきます。

完全流体の循環定理と渦定理

完全流体においては、流体内部の各点(質点)に対する角運動量についても、エネルギー保存則と同様に成立します。角運動量を議論するとき、流体は循環を起点に議論します。

前に整理した「渦」にまつわる定義などの話を以下に再掲します。

ここで、循環とは流体内部(流れ)に閉曲線を設けて、閉曲線上の速度の接線成分を足し合わせた(積分した)ものとして扱います。

渦の諸定理として「ケルビンの循環定理」「ヘルムホルツの渦定理」を最初に挙げます。

ケルビンの循環定理とは、保存力場を前提とした完全流体の運動としては、流体とともに動く任意の閉曲線に沿う循環は時間的に不変であることを示します。いわゆる、循環の保存則ということです。

ヘルムホルツの渦定理とは、保存力場を前提とした完全流体の運動としては、任意の単一の渦管は常に保存されて、その強度は時間的に不変です。

以上のことから、完全流体としては「循環」の変動が無いことを示しており、先に述べた角運動量保存則に則ることを意味します。

ラグランジェの渦定理

ある時刻で渦なしと規定される流体は、その後においても常に渦なしの状態と考えられます。

$${w=\textrm{rot}\bm{u}=\bm{0}}$$

渦なしという状況では、速度(ベクトル)は速度ポテンシャル(スカラー関数)を用いて次のように表されます。

$${\bm{u}=\textrm{grad}\phi}$$

この場合のベルヌーイの定理は区別して「一般化されたベルヌーイの定理」と呼ばれています(別名で圧力方程式と呼ばれています)。

$${\frac{\partial \phi}{\partial t}+P+\frac{1}{2}q^2+\Omega=f(t)}$$

逆に渦度が有値であるならば、その後は常に有値と言えます。すなわち、保存力場においては渦が突然に発生することも消滅することもありません。これを「ラグランジェの渦定理」と言います。

例えば、完全流体の流れが無限上流で一様流であるならば、渦度もゼロであると考えられます。ラグランジェの渦定理に従えば、下流においても渦度はゼロであると言えるのです。

このことから、ラグランジェの渦定理は「渦の不生不滅の定理」とも呼ばれています。以上の定理は完全流体において成立するものであり、粘性を考慮した際は厳密には成り立ちません。

粘性流体においては、一様流の先にある物体(障害物)の背後で渦が発生しながらも、下流では渦が消滅することがあります。これは、粘性の影響度が小さい場合は粘性が物体近傍に限られた事象として扱われて、その他の領域は完全流体と見做されることが理由として考えられます。

おわりに

今回は完全流体において成立する「渦」に関する諸定理について、3種類の定理を挙げました。これらは完全流体で成立するものであり、エネルギーと合わせて一種の保存則として成り立ちます。

次回は水の波(現象)について話を進めます。基本的にこれらは非圧縮性流体として扱われます。水の波はその代表例と言えそうです。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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