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流体力学の理想形態(完全流体)の物理を知ること -1-

流体とは物質の三態における「液体」「気体」を総称した表現です。これらは基本的に「連続体」と呼ばれる概念を持ち、各所の微視的構造に由来して密度や流速などの物理量を伴います。

流体の力学的性質(特性)を理解するために必要な学問を「流体力学」と言います。流体力学は固体力学と同じく「連続方程式」「運動方程式」「エネルギー方程式」という関係式が存在します。

流体は理想形態として完全流体(理想流体)や粘性流体、圧縮性流体(逆説として非圧縮性流体)が存在します。前回はこれらの概念を示しました。

今回は続編として「完全流体」に注目して、現実的な物理現象に則した話をしたいと思います。自分自身の勉強を兼ねているのですが、また再始動ということで、お付き合い頂けたら幸いです。


完全流体の定義付けについて

まずは「完全流体」の定義から。流体もまた「連続体」として扱うため、そこには変形と呼ばれる現象を伴います。

変形を結びつける物理量としては「ひずみ」「応力」があります。これらはテンソル量としては2階のテンソルと呼ばれており、物理的には垂直成分と接線成分に分けられます。

これはあくまで固体力学の話ですが、流体にも同様のことが言えます。つまり、流体にも接線成分に当たる力(抵抗力)が働きます。

出典:https://www.cybernet.co.jp/ansys/learning/glossary/suichokuouryoku/

この接線成分の抵抗を「粘性」と表現します。完全流体(理想流体)とは、この接線成分に相当する抵抗力が働かない場合を指します。ここで、圧力(これも2階のテンソルで表現可能)は次のように表されます。

$${p_{ij}=-p\delta_{ij}}$$

ここで、右辺にある2階のテンソルはクロネッカーのデルタと呼ばれており、対角成分だけが有値になるための操作です。すなわち、圧力(成分)はスカラー量(p)が垂直成分に反映される形です。

流体の応力に接線成分が入る場合は「粘性流体」として扱われます。流体力学で有名な「ナビエ・ストークス方程式」は粘性流体を前提とする運動方程式と言えます。

完全流体の運動の一般論

流体力学の基礎方程式として、主に「連続方程式」「運動方程式」「エネルギー方程式」が存在すると先ほど書きました。完全流体に置き換えた場合は、式はより簡略化されます。

また、状態方程式については完全流体(粘性項は無視)であり、同時に熱的影響が断熱状態である場合はエントロピーが一定と考えられます。

上記の運動方程式に注目して、ベクトル演算の公式を用いて整式化します。流れは上記の通りです。状態方程式に基づいて圧力関数を導出し、外力は保存力としてポテンシャル(量)を導入すると、運動方程式は次のように書き換えられます。

$${\frac{\partial \bm{u}}{\partial t}=-\textrm{grad}(P+\frac{1}{2}q^2+\Omega) +\bm{u}\times{\textrm{rot}\bm{u}}}$$

ここで、当該現象は定常状態であると看做して、渦度(流速ベクトルに回転処理を施した物理量)を導入します。

$${w=\textrm{rot}\bm{u}}$$

そこから、最終的に流線と渦線に沿う形で積分することで、勾配処理の中身を取り出します。

$${P+\frac{1}{2}q^2+\Omega=const.}$$

これは「ベルヌーイの定理」と呼ばれる式です。例えば、1本の流線または渦線を仮定して、ここを通過する全ての流線または渦線で曲面を作ります。同曲面上の全ての地点において、上記の式の左辺の値は一定になることが分かります。

ベルヌーイの定理の実用例

ベルヌーイの定理は左辺の1項目は流体の単位質量当たりの圧力関数(ポテンシャルエネルギー)、2項目は運動エネルギー、3項目は外力のポテンシャルエネルギーに相当します。このことから、ベルヌーイの定理は3種類のエネルギー保存則を表していると考えられます。

非圧縮流は保存力を重力と仮定した場合の「トリチェリーの定理」を示します。

トリチェリーの定理はベルヌーイの定理から求められる基本的な物理現象です。同じく、エネルギー保存則を利用して「よどみ点」と呼ばれる、流速が局所的にゼロになる地点を知ること、よどみ点の圧力を求める「ピトー管」の話もあります。

圧縮流については状態方程式が複雑になります。完全流体における圧力は次のように表されます。

$${p={\rho}^{\gamma}\textrm{exp}(\frac{S-S_0}{c_v})}$$

ここで、密度の指数に当たる定数は定圧比熱と定積比熱の比率です。次に、完全流体における音速は次のように表されます。

$${a=\sqrt{\frac{{\gamma}p}\rho}=\sqrt{{\gamma}RT}}$$

ここで、Rは完全気体の気体定数です。よどみ点における音速を用いて流線上での流体の速度を導出しています。特に、流速がゼロの真空状態では次のようになります。

$${q_m=\sqrt{\frac{2}{\gamma-1}}a_s=\sqrt{\frac{2}{\gamma-1}\frac{p_s}{{\rho}_s}}=\sqrt{\frac{2{\gamma}R}{\gamma-1}T_s}}$$

ここで、添字(s)が付いている値はよどみ点における物理量を指します。

おわりに

今回からは、完全流体に注目して物理現象を数式も交えながら見ていくことにします。引き続きよろしくお願いします。

今回は完全流体におけるひとつの法則としてベルヌーイの定理を紹介しました。次回は完全流体に対する渦の諸定理について話を進めます。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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