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世界一周2か国目:ベトナム美術(2022年7月14日~7月28日)

前記事1か国目のタイ美術に続き、本記事はベトナム美術についてです。


ベトナム美術の「型」

ベトナム語は最初漢字を使っていました。この石碑は9世紀まで中国の支配領域だった場所に築かれたベトナム2番目の王朝タンロン遺跡にあるもの。タンロンはベトナムの首都ハノイの旧称。

 どの文化圏の美術も、まずは文字情報的な役割があったりして表現に型があり、大抵の場合初期段階では固さの目立つ絵画や彫刻などの表現になります。一種の文字情報に近い形式的な表現です。

タイ・カンボジア・ベトナム3か国それぞれの美術成立過程

 1か国目に訪れたタイでは、タイとクメール2種類のそういった古典的な美術を見ました。この2種類においては、タイの華麗に対しカンボジアの重厚感と比較されます。
 それはタイが漆喰装飾、カンボジアが砂岩への彫刻という素材の違いから来る表現の固さ、またクメール美術をタイが引き継いで発展させたためだとタイでは結論付けて考えていました。

煉瓦を積み重ねた土台を覆う漆喰装飾@タイのスコータイ
砂岩への浮彫@タイのクメール遺跡プラサット・ピマーイ


カンボジア→タイへの流れ

 クメール美術を発展させたのがスコータイでありそれに続くアユタヤ。となると、カンボジア→タイの順に固い表現から柔らかい表現になるのも理解できます。
 またカンボジアは砂岩に直接彫りを入れているため固さはあって当然、タイは可塑性のある漆喰に浮彫を施してるから柔らかい表現も比較的容易だと捉えていましたが、ベトナム美術を見ているとそれに別のベクトルも加わってきました。

中国→ベトナムへの流れ

タンロン遺跡内にあるキン・ティエン宮殿の階段
タンロン遺跡内にあるキン・ティエン宮殿の階段

 石に直接彫りを入れてるのになんて柔らかな表現。ベトナムでは、石彫が非常にしなやかなのです。単に素材の違いから来る表現の固さはここにはありません。その背景には、やはり中国4000年の歴史、技術の積み重ねを感じます。それらをベトナムが引き継いでベトナム流に昇華させたためだと思われます。

 7世紀から9世紀まで中国の支配領域だった場所に築かれたベトナム第2の王朝、タンロン。中国は世界的にも最古の文明の1つであり、7世紀から9世紀に至るまでに既に長い歴史の積み重ねがあります。カンボジアのアンコールワットよりさらに数世紀以上遡りますが、既に形式的な表現の時期を脱し柔らかな表現となっていたのです。

複数の文化を吸収してきた歴史

コロニアル建築や漢字のベトナム語

コロニアル建築
コロニアル建築
漢字で書かれた寺院と左下にあるベトナム語の看板

 中国やフランスの支配下だったこともあり、ベトナムの端々に各種文化が入り混じっているのが感じられます。街を歩くとコロニアル建築が見られ、古い寺院はどれも漢字が使われています。
 昔はベトナム語も漢字を使っていました。発音も中国語に似ています。フランス統治時代からアルファベットを導入し、現在の書体となりました。単語一つ一つ、文字一つ一つに意味が無くなった時期とも言えます。

 ハノイの古い寺院を巡っていると漢字で書かれているところばかりで、当初は中国圏内だったときのものかと思っていましたが、漢字を使ってた時代のベトナムがつくった寺院でした。今はもうほとんどのベトナム人が漢字を読めなければ意味もわからないとのことです。

複数の文化が混在するからこそのベトナム文化

 ただ、2022年時点で80代前後の世代のベトナム人はフランス語話者が多く、60代前後の世代はロシア語話者も多いようです。
 中国やフランスの植民地、そしてベトナム戦争時のアメリカやソ連の影響など、当時は負の時代だったかもしれません。しかし今のベトナムを見てみると、それぞれの遺産がいい形で共鳴し、文化的な豊かさやしたたかさを持っている国に見えます。

ベトナム美術最高傑作

カイディン帝廟内部
カイディン帝廟内部

 ベトナムで1番来たかった場所、フエのカイディン帝廟。ベトナム最初の王朝がニンビンのホアルー、次がハノイのタンロン、ラストがここフエのグエン王朝で、その最後の王がカイディン帝です。

 ハノイのタンロン遺跡では、中国の彫刻技術を吸収してそれをベトナム流に昇華させたしなやかな石彫の浮彫が見られました。ここカイディン帝廟では、時代を経て中国だけでなくフランスの影響も受けた後なので、全体的な構成はフランス的な要素が多く見られます。でもモチーフは中国的でフランスで流行ったシノワズリっぽくもあり、でもやっぱり優しい色使いとか細部のしなやかさに諸文化を吸収したベトナムを感じます。

 そのベトナムの美意識が最も洗練された時期に最後の王が税率を引き上げて国民の反感を買ってまで創り上げたここはベトナム美術最高傑作だと思います。

美術的枠組みの再構築

 ベトナム美術を見るまでは、素材の違いから来る表現の違いに焦点を当ててタイとカンボジアの美術を比較していました。
 旅中に限らず、そういった「〇〇だから〇〇なんだ」と自分の中で理解してきた枠組みを壊すのは少し勇気のいることであったりします。でも世界的には王様の権力や宗教的な信仰心などの前にそんな常識は通用しません。常識では考えにくいことを実現させるのがそういうものの力です。

まだまだ見たことのない知らないタイプの美術がたくさんあるはず。それらを自分の目で見て回るために旅に出たのです。未知なる美術を見て吸収して、また枠組みを壊してを繰り返し、地球上のあらゆる美術文化を美味しく味わいたいと思います。

絵日記3作目

 自分で描いてみたら、その美術の特徴について具体的によくわかることもあります。今回描いたのは、ベトナム各地で見た龍や不死鳥などの装飾の数々。不死鳥は女王を象徴し、竜は皇帝の権力を象徴します。
 龍は水の神や、雨乞い≒豊穣の神などとしてベトナム以外でも信仰されています。たしかにそういう力を手中にしたらイコール皇帝の権力の大きさに繋がりますね。
 そしてベトナムで初めてdragon shaped cloudという表記を目にしました。龍のような雲。そういうことかと衝撃を受けました。



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