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クチナシの殺人

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{糸を引く}原案小説『クチナシの殺人』
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#小説

クチナシの殺人 第1幕

クチナシの殺人 第1幕

序幕

 閉めきった窓の外から夕陽の差し込むアトリエにひとり佇み、女は吐息を零す。薄らとアイシャドウに彩られた切れ長の目を細めながら、夕陽が山並みの向こう側へと沈んでいくのを、女は何の感慨もなく眺めていた。そして、ちらりと視線を手前に向ければ、そこにはつい先程まで景色を華やかに飾っていた花々が摘み取られ、壁や地面を這う蔦の緑だけが取り残された裏庭が淋しげに横たわっていた。
 女は詰まらない物を視界

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クチナシの殺人 第2幕

クチナシの殺人 第2幕

第2幕

 天清瞳子が殺害された事件発生から1週間が経とうとしていた。
 検死官主任の九十九が鑑識に回した被害者の胃の内容物と血液検査の調査結果では、睡眠薬と筋弛緩剤の成分が検出された。おそらく、被害者は睡眠薬で眠らされた後、目が覚めてから動けないよう筋弛緩剤を投与されたと推測される。
 現場に残されていた絵については、鑑識官の調査の結果、天清瞳子のアトリエにあった絵具と成分が一致したこと、また、

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クチナシの殺人 第3幕

クチナシの殺人 第3幕

第3幕

 翌日は雨が降っていた。オフィスの窓の外、どんよりと厚い雲に覆われた曇り空を背負いながら、刑事1課の面々は昨日に引き続きそれぞれ捜査を進め、ミーティングを行っていた。
「常盤みどり、66歳。10年前の艶島由綺のかかりつけ医で、当時は久地那大学病院心療内科担当医として勤務。5年前に退職し、現在は久地那市郊外在住。住所は南の端末に送信済み」
 小西の報告を聞いた南が端末を確認する。
「オーケ

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クチナシの殺人 第4幕

クチナシの殺人 第4幕

第4幕

 天清瞳子が殺害されてから10日、花見堂周が殺害されてから3日が経過した日の午前7時45分。久地那警察署前。
 愛車を駐車場に停め、出勤用の鞄を提げた小西が署に向かっていると、背後から耳慣れたパンプスの足音が近付いてきた。
「おっはよーう小西」
 ぽんと後ろから小西の肩を叩いて声をかけたのは南だった。微かに煙草の匂いが漂うのはいつものことである。
「おはよう南。早いね」
 小西が挨拶を返

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クチナシの殺人 終幕

クチナシの殺人 終幕

終幕

 以下、染浦絃の自殺現場に残されていた、一連の事件に関する手記の内容である。



 実母──艶島由綺は、芸術一辺倒の人だったらしい。
 らしい、というのはつまり、私は実母の人となりをそれほど詳しく知らないからだ。
 けれど、私はやはり艶島由綺の血を引く娘であった。
 1人の現代美術作家として、艶島由綺という人間を尊敬していた。
 学校での美術の成績は良かったし、幼少期の頃から養親に連れ

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