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『テンシンシエン!』第42話

◆「リハビリ?」

2021年6月1日、火曜日
フューチャーコンサルティング二次面接。

10時45分・・・まだ早い。

 最近の”快進撃”について、就職支援センターの山泉さんへメールで報告したのだが、なぜか珍しく返事がない。いつもなら良い話には少し悔しそうな言い回しで、悪い話なら少し嬉しそうで皮肉めいた返事が来るのだが・・・なんでだろ?少し気になる。今週の金曜日がカウンセリングだから、特段、急いで返事をする必要が無いと考えたのだろうか・・・にしても、いつもなら面接の前には何らかのアドバイスが来る・・・そんなことを考えていたら約束の時間が近づいていた。

フューチャーコンサルティング・・・
 現在、コンサル領域の拡大中で、新規事業、特に『社会課題解決型』や『ヒューマンセントリック分野』の『ビジネスプロデュース』型コンサルティングを目指しているらしい。今回は、実際に事業会社で新事業開発やその立上げに従事し、かつデジタル領域に強い人材を探しているとのことだったが・・・ただ・・・私の力で集められる資料を見る限りでは、この会社の実態はよくわからなかった。

10時57分・・・頃良い時間だな。

 二次面接ウィークである今週、私の戦略と言うか方針は、

『パーソナ プロセス&テクノロジー』一択!

 そのため、他の会社の存在は、本命に合格するための練習台と言うか、ここ数カ月で日和ってしまった自分へのリハビリと言う位置づけ。そして初戦の相手であるフューチャーコンサルティングに対する私の面接スタイルは”空気の読めない奴”。遠慮せず何でも言う・・・私の中にある節度ある大人を開放し、6月4日の本命の日までに、メンタルを強くするための練習台になってもらおう。そんなふうに言い聞かせ、送られてきたアドレスをクリックする。

 Zoomが立ち上がる。
 ”オーディオで参加する”をクリックして、先方の承認待ち画面で待機。

 PC画面に映される時刻が、ちょうど11時になった瞬間、先方、つまりフューチャーコンサルティングとZoomがつながった。

「こんにちは、フューチャーコンサルティングの二次面接を担当する池端と申します。よろしくお願いいたします。」
「こんにちは、沢村と申します。本日はよろしくお願いいたします。」
「この後、沢村様が当社に採用となった場合、私が沢村様の上司となって、一緒に働くこととなります。よろしくお願いいたします。」

 見たところ30歳前後の青年。若いな・・・ま、上司が自分より若いというのも初めての経験で面白そう。見た感じは、今風のシュッとした感じで、できる感じ系男子。

「ええとですね。本日は、沢村様が私たちと一緒にお仕事ができるお人柄、つまり考え方や、思考のパターンなど、お仕事の進め方が私たちと違和感なく同調可能かという点に重きを置いて、お話を伺っていこうと思います。」
「はい・・・」

?!同じような人間を集めてようとしているのか?!
そんな考え方は珍しいというか・・・メリットがあるのかな?

「お話をお伺いするに際して、数点お願い事がございます。一点目、『結論ファースト』であること。まずイエスかノーかを言ってください。もしその回答に対して、私が疑問を持つようなら、その理由を尋ねます。できるだけコミュニケーションは合理的にやっていきたいと思っています。」
「はい。承知しました。」

コミュニケーションって合理的にやるものなのかな?

「二つ目、『論理的思考』でお願いいたします。ここで論理的思考について改めてお話しさせていただきますが、こういった理由で、こう考えるので、こう答えたという筋道が論理的であるということです。直感とか経験とかと言った”あやふや”なものではなく、結論のロジックが明確かつ客観性が保たれているものでお願いいたします。」
「はい・・・」

彼らの言う『結論ファースト』と『論理的思考』って矛盾してませんか?

まぁいいか、とりあえず聞いたままを受け入れよう。

「何かご質問はございませんか?」
「一点、確認させてください。考え方は論理的思考で、回答は結論ファーストでと言うことで良いですね?」
「はい。」
「わかりました。」
「それでは始めさせていただきましょうか。まず基本的なところで・・・


 前半は、Davisの井村さんから聞いていた通り、何か新しいことにチャレンジしているかという話と、私の考える社会課題解決型の新事業だった。事前に聞いていたので、これらの質問に対しては淀みなく答えることができ、テンポよく話が進んだ。しかし面接が後半に差し掛かってから少し雲行きが怪しくなってきた。

「では、もう少し具体的な事例について質問させていただきますね。実際に採用後に想定されるようなシチュエーションを考えてみましたので、ぜひ私たちと働いている状況を想像しながら回答してください。まずは一つ目です。当社の社長である桧垣が、沢村様に対して、『あるプロジェクトを半年以内に成功させてくれ!』と指示を出しました。沢村様はどう答えますか?即答の必要はございませんの、よく考えてくださいね。」
「はい・・・ただ、考えるまでもなく、今の質問だけでは、あまりにも情報が無さ過ぎて、お答えのしようがありません。ですから、この質問には回答できませんと言うのが私の回答になります。」
「えっ?・・・それでは・・・面接になり・・ません・・けど・・・。もう少しちゃんと考えてもらえませんか?」
「そのためにはもっと情報が必要かと。これでは質問として少々完成度が低いと感じますが・・・」
「(ㇺッ)・・・沢村様の回答は、”回答できません”で良いのですねっ?」
「はい。なにか変でしょうか?」
 何やら面白そうな雰囲気になってきた。

「いやっ・・・わかりました・・・それでは二問目です。ECサイトを運営しているのですが、注文時、商品を選択する際に、顧客のミスや誤答が多く、スムーズな取引が行えません。沢村さんならどうしますか?」
「ECサイトの画面修正や運営は、今回の求人で、私の仕事になり得るのでしょうか?」
「えっ?・・・そこですか?えっと、これはあくまでも想定質問ですので、その辺りは深く考えなくともよくてですね・・・」
「先ほど、”実際に採用後に想定されるようなシチュエーション”とおっしゃったように記憶してますので、その言葉をそのまま理解すると、将来的にはこういった仕事も行う必要があるのかと考えてしまいますが・・・」
「では。最初に説明した部分を撤回します!採用後に想定されるようなシチュエーションとは必ずしも当てはまりませんが、とさせてくださいっ!」
「はい、えっと、それではお答えしますね。まずは顧客のミスや誤答の中身、その原因を調査します。それから具体的な対策を立案していくと思います。」
「はい、ありがとうございます。それでは次の・・・


 結論ファーストと言っていた割には、言っている本人が、言うほどそうではなく、かつ論理的思考が垣間見える機会は皆無であった。少し残念な感じがしてしまい、こんな奴の下では働きたくないなと思ってしまった。

 結局、この後、宿題の話はなかった。きっと、この二次面接は不合格になるのだろう。カジュアル面談からいきなり二次面接へスキップした時、自分のことのように喜んでくれたDavisの田中さんには、少し申し訳ないことをしたと思った。


■第43話へつづく


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