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矛盾する2つのマーケ戦略

最近、「未顧客理解(芹澤 連 著)」というマーケティングの本を読みました。顧客の大半は未顧客であり、未顧客へのアプローチには、従来のマーケティング理論が当てはまらないケースがあるという主張でした。それがこれまでの切り口と少し異なるもので、新鮮でもありました。

「未顧客理解」 なぜ買ってくれる人=顧客しか見ないのか(芹澤 連 著)

しかし、一方で自分自身、大きな混乱も感じました。
なぜなら、以下のような書籍(マーケターとして著名な元P&G 西口氏)では、顧客起点・N1分析(ロイヤル顧客の声を分析する)を重要視しており、ある意味、「未顧客理解」の主張とは正反対に聞こえたからです。

たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング(西口 一希 著)

企業の成長の壁を突破する改革 「顧客起点の経営」(西口 一希 著)


以下の図でいうと、西口氏の顧客起点では、そのサービスや商品の優良顧客から情報を得ることでマーケティングの戦略を立てます。
一方、芹澤氏の未顧客理解では、顧客ではない人へのアプローチを企てています。

顧客層

相違点

・出発点(ロイヤル顧客か未顧客か)が異なるという点
・前提として、未顧客理解では、商品の売上構成が未顧客のほうが上回る(一般的には2:8の法則で2割の優良顧客が80%の売上に貢献するという状況)
・顧客起点のほうは、見込み顧客をよりロイヤル顧客へ変化させることがゴール。未顧客理解のほうは、どちらかというと未顧客層からライトユーザーへ変化させることがゴール。
・未顧客理解では、STPによるセグメンテーションから入ることすら、当てはまらない場合があるという主張です。合わせて、ペルソナもカスタマージャーニーも未顧客ではなく既存の顧客を想定したものであるため、従来の考え方と異なっています。

共通点

ところが、共通点もあります。
・顧客起点のほうは、ロイヤル顧客に商品のヒアリングを行うことで、真実の価値や利用ケースを発見しようということ。未顧客理解も、顧客セグメンテーションという点は異なりますが、利用シーンを増やすことで、量(顧客数)を獲得しようとする点では同じです。(例えば、”昼間のランチ時のスイーツの文脈”と”仕事終わりの夜のスイーツ文脈”は違うということ。)
・この文脈や利用シーンによる顧客の課題解決(価値を商品ではなく、片付けたいジョブが買うかどうかを決める要因になるというもの)は、クリステンセン氏のジョブ理論でも同様なことが示されています。

まとめ

そんなわけで、異なる部分も共通した部分もあるがゆえにより混乱に陥りました。解釈としては、最初の切り口が異なるのですが、やはりロイヤル顧客だけに売るわけではなく、新しく顧客を増やそう(売上を拡大しよう)という観点では、どちらも未顧客層へアプローチすることになるので、同じところにたどり着くのかなと感じています。

また、ロイヤル顧客が売上の大半を占め、かつそれがそのサービスや商品にとって最適な状態(既存の優良顧客がクロスセル、アップセルすることで拡大が見込める、または市場に対して品質を維持できる規模が限界にきている)場合は、従来どおり顧客起点であるべきかと思います。しかし、ライトユーザーが多い状態を目指す(もしくは商品の特性上、ライトユーザーが売上の構成を占めるべき)場合は、未顧客理解のアプローチが参考になると思いました。

たしかに、ペルソナの例をとると、複数策定された人物像は顧客のデータや見込み顧客を想定したものになると思いますが、まだ見ぬ人物像も含まれているはずで、ただピックアップされずにデータ上、埋もれているものなのかもしれません。
カスタマージャーニーにおいては、(特に現状のカスタマージャーニーではなく理想のジャーニーにおいて)複数のジャーニーを想定しておくことは、ジョブ理論や文脈・利用シーンを増やすことと同方向とも捉えられます。

ということで、未顧客理解という発想が新鮮で混乱したという頭の整理でした。

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