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【欧州ひとり旅】テンポアダージョ、光のザンクト・マンク教会

 これまで訪れた教会の中で、おそらくわたしは、ここを一番気に入っています。ザンクト・マンク教会。南ドイツの小さな街でこのような場所に出会えたことを、これから先、わたしはずっと覚えていたい。だからいま書いているこの旅日記は、いつもより少し丁寧で、詩的であるかもしれません。しかしそれでも良いでしょう。わたしにとって旅日記というものは、その時の「衝動」や「感動」によって、文体や文量が変わるような、そういう気まぐれなものなのです。

 こんなにも自身の呼吸の音を鮮明に感じたのは、いつぶりでしょうか。ひとり旅の道中の、つかの間の安らぎ。誰もいない教会に、ひとりポツンと朝日を浴びて。聴こえるのは、朝を知らせる小鳥のさえずりと、近くを流れる、レヒ川の水音だけです。これらの音とわたしの呼吸の音とが混じって、ひとつの子守唄が作られていくのを感じます。4小節、5小節、テンポアダージョくらいの、4拍子。時折休符を挟み、また10小節、11小節。

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 南ドイツの小さな街フュッセンの旧市街を抜けた先にあるこの教会は、観光地としてはあまり知られていません。たしかに、ケルン大聖堂の持つ威厳やヴィース教会が備える壮麗さはないかもしれません。事実、わたしもここを訪れるまで、この教会のことをまるで知りませんでしたから。しかし、教会のあちこちにほどよく差し込む光たち、上品で歴史ある装飾品の数々、そしてこの静寂に包まれた空間。わたしはキリスト教信者ではありませんが、それでもこの教会には、心惹かれるものがありました。

 あまりの気持ち良さに、少しウトウトしかけたその時、まるでアラームのように、教会の鐘が鳴りました。ゴーン、ゴーン。

「そっか、もうこんな時間か」

 わたしは旅人。心を身体を休めたら、さあ、旅に出かけましょう。この鐘は、そんな旅立ちの合図。送り出してくれる鐘の音は、この教会を訪れてからずっと奏でられている子守唄の、フィナーレ。

ありあのひとり旅日記より抜粋

in Füssen, Germany Oct.2023
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