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ジャニーズ事務所の記者会見問題をPR会社出身の立場で分析してみます

PRとは全く関係のない人たちとの会話でも、ジャニーズの記者会見の件は話題として持ち上がります。記者会見、PR会社、NGリストなどなど。多くの人にとって、聞いた事はあって概念は理解している言葉だけど、誰が何がどうすればよかったのか、正解がわからないといったところでしょうか。

あくまでも個人の意見で、先に私の結論を申し上げてしまうと、「ジャニーズ事務所は明かに変わった」ことを表現しなければならなかったのに、依然として圧力体質で、変わっていないことをプレゼンしてしまったようなものだと分析しています。なぜ、私がそう分析したのかを綴っていきます。


1.性犯罪が横行する環境下において、長年過ごしてきたことについて

性犯罪は簡単に解決できる問題ではありません。
立証が難しく、被害者が過去から今に至っても、病と認められる症状を抱えているケースがあるため、事実把握の難しさ、被害者配慮のための報道方法の難しさもありますし、被害者側が受けた傷の大きさは、その被害者の感じ方考え方などによって変わる部分もあり、また密室で行われたことについては、加害者が死亡しているという状況下でどう立証していくのか等の問題もあります。なので、過去の被害について、被害者数や被害の大きさなどを測ることは今となっては難しいのは間違いないでしょう。

この性被害は圧倒的に権力を持つ社長が加害者であることから、被害者側もこのヒエラルキーに従わざるを得ない、パワーハラスメントの要素も持つこともあったと言われています。

このような環境に小中学生から身を置いてきた何千人の中には、被害で苦しむ人、被害に遭ってもそれを糧にのし上がってきた人、被害を見て見ぬふりしてきた人、被害を何とも思わないでこれが当たり前だと思ってきた人、被害者から加害者になってしまった人、被害に何の関わりのなかった人など、色々な人がいると想像できます。

社長、役員になるタレントは、この状況下でどのように育ち、感じ、行動してきたのでしょうか?当然、私たちにそれを知る由もありませんが、だからこそ、「この性犯罪が蔓延る環境下にいた人たちが企業を牽引することは、これまでの問題を解決することはできない」と考えるべきです。

2.ジャニーズ事務所の過去に起こしてきた問題としてきてしまった事の大きさを、ジャニーズ事務所側、PR会社共に正しく把握していない

そして、この性犯罪だけでなく、それらを含めたジャニーズ事務所関連のネガティブな報道は取り上げず、メディアが忖度してきたこともまた、問題視されています。
「ジャニーズ事務所を辞めたタレントを使用しないようにメディアに圧力をかけていた」、「他事務所の男性アイドルに近いタレントを歌番組へ出演できないようにしてきた」など、ジャニーズ事務所とそれを取り巻いてきたメディアの関係性についても取り沙汰され、メディアの社内の検証を行っているニュースも報道されています。

性犯罪、パワーハラスメント、不都合なメディアへかける圧力・・・

このようなワードが具現化している企業体質を変えていくことを宣言するのであれば、メディアからのいかなる質問にも答えることは必須事項の一つだったはずで、NGリストの存在は、不都合なメディアへ依然として対応しない、圧をかけることへの表明のように見えました。

まず記者会見の時間を制限しないこと、誰からのどんな質問にも答えること、そして今でも苦しんでいる被害者もおり、かつ性犯罪というセンシティブな問題を生中継するメディアに対しては、事前にそのことを知らせておくべきだったと思います(放送するテレビ局側の選択になりますが、テレビでは不適切な発言をピー音で処理したり、完全な生放送ではなく数分遅らして放送することで放送倫理的に問題の箇所を放送回避したりするため)。

ただし、PR会社が、NGリストを用意するのは、ある種慣習のようなところがあり、「用意しない方が良い」と考える工程がそもそも抜けていたかもしれません。また何も考えていないからこそ、運営関係者がNGリストを隠さずに抱えて歩いている姿が、テレビカメラに収められているとも思えます。

また、NGリストに入っていた記者が挙手を強く主張したときに、ジャニーズ側の人員が少し笑いながらなだめた言葉に、顧問弁護士が拍手をしていましたが、笑うことも拍手することも前代未聞の性犯罪歴に関係する記者会見だという重大さを理解していれば、その行動が世間一般からずれていることもわかるはずです。

3.PR会社は、記者会見を運営するためだけの存在なのか?

このPR会社は、ジャニーズ事務所のこれまでの在り方、今後についてといった長期的なコンサルティングパートナーとしてではなく、記者会見を運営するだけの会社なのか。その契約の内容は分かりません。

私はPR会社で働いていたので、契約に至るまでの工程を理解しており、それがどのPR会社であってもさほど違いないと思います。仕事の範囲を決め、それに誰が何時間かかるか工数を出し、見積書を作る、アクション自体はそれほど難しくないことなのですが、仕事の範囲を決めることは様々な面での考慮が必要です。

前述の通り、ジャニーズ、そしてPR会社の両方が問題を理解していなかったことから考えられるのは、この記者会見という場だけを遂行する契約だったのかと瞬間的に思いました、だから問題については、主な部分だけしか把握しておらず(全調査をしたら膨大な時間がかかり、膨大な費用も発生します)、もしかしたらジャニーズ側からの浅い見解を説明されているだけかもしれません。

ジャニーズにとって不都合なメディアを封じてきたからこそ、単に検索エンジンで検索しても事実把握は氷山の一角程度しかできないかもしれません。それゆえPR会社が事態の大きさをどこまで把握し、受け止めていたのかはわからないのですが、問題の核心に触れず、危機管理記者会見を紋切り型テンプレート(NGリストを作成、総会屋もどきを雇うなど)で無事にこなせばいいと、考えていた(=契約していた)のだろうと、個人的には推察しています。そしてジャニーズ側も問題の大きさを理解できないからこそ、細かく説明できなかったのかなと考えています。

4.PR会社の能力不足と、ジャニーズ事務所の経営力不足

色々と所感、分析を書いてきましたが、この記者会見はどこのPR会社が運営しても泥船で批判されるような結果だったような気がしています。そのくらい難易度が高い仕事だと私個人は考えています。ただ難易度が高いことを、このPR会社が理解しているのか、どう考えているのかは正直なところわかりません。

実はPR業界には、他の業界から来る人も多く、よく見かけるのは広告代理店、メディア(記者や制作もしくは営業)、コンサルティング会社、そして省庁などの役所から来る人もいます。決して広報関係者、PRのプロばかりでありません。

一部の仕事で、ロビーイングをする人を採用する場合に、省庁出身者を採用するのはよくあることですし、そもそもクライアントが似ているという理由で広告代理店から来る人たちも多くいます。業界の構造上、大抵PR会社のPR担当者より給料が高く、その前職ベースの給料で入社すると、大抵上の役職に就くことになります。つまり、PRをよくわかっていないけど、一部重なることがあることから、PR会社で上の役職に就くことは珍しくないのです。特に外資系では、英語力優先で採用活動することも珍しくありません。

PRをよくわかっていない上層部が仕事をとってきたけど、概要と売上額の大きさしか理解しておらず、仕事を本当の意味で理解できていないので、チームをリードすることもできない、というケースを残念ながら私も多々目にしてきました。

つまり、PRは一見誰でもできそうなところな仕事に見えるところが罠であります。

「失敗から学ぶ」「経験から学ぶ」ということは世間では一般的ですが、記者会見における運営会社(このPR会社)の失敗は、今後新たな仕事の引き合いが入りにくい状況を作ってしまったことは説明するまでもありません。経験から学ぶことは大切ですが、経験からしか学べないタイプの人は、毎回変わる状況の中でうまく対応できないし、そもそも何かの経験した後には取り返しのつかない状況になっていることもあるので、性格や思考で採用をスクリーニングすることは本来とても重要だと個人的には思います。

それから、「氏名NGリスト」という文字を見て一体何?って思った方もいらっしゃるんじゃないでしょうか?指名ではなく氏名?単純な誤字?日本語ができない?それとも隠語?その割には隠せていないし。そしてNGは指さないのではなく後半で指すという意味?・・・・とにかく言葉を使うセンスがない担当者だなと思ってしまいました。

そしてこのリストをLINEで共有?会場近くで出力?クライシス(危機管理)コミュニケーションの専門家ですよね?と思わず突っ込んでしまいそうになりました。

この記者会見は、非常に難しい仕事で、他のPR会社が請け負ってもそれなりに批判されたと考えていますが、やはりこのPR会社の能力が諸々と不足していた感が否めません。

一方、ジャニーズ事務所側がリストの作成は指示していない、と主張していますが、「会が円滑に進むようにしてほしい」「NG記者を指さないのはダメですよ」など要求を伝えるのであれば、それに対するPR会社側の対応策(行動)が対になっているべきです。おそらくそのようなことに双方のコミュニケーションや理解が足りていなかったように思います。

また具体的な策について、話はなされていないけれど、ジャニーズ事務所側が「良きに計らって欲しい」という意味合いが強かったのなら、「うまくやるようにと伝えたから、うまくやれ。そして何かあったら責任は取れよ」というパワーハラスメント体質が健在のようにも思えます。つまり、「リストの作成は依頼・指示していない、会を円滑に進めるように指示をした」との説明は、ジャニーズ事務所にとって決して弁明ではなく、むしろ首を絞める行為につながる可能性が高いと思われます。

5.最後に

ジャニーズ事務所は今後補償のためだけの会社になっていくのかと思いますが、多くの被害者がいる中で個人的に知りたいことを書くのは非常に憚られますのでやめておきます。

ただ日本は性犯罪に対して対応が遅れている、他国と比べて甘いなどと言われているのを脱却するきっかけとなることで、少し報われる人もいるのではないのでしょうか?


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