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『水戸黄門のお年寄りの交通安全』公式配信~時代劇と現実世界がクロスした交通安全ビデオ!

 秋の全国交通安全運動に合わせての配信。CSの東映チャンネルでも放送されるが、ネットとも連動させるとは粋な計らいである。

 とある城下町にやってきた水戸の御老公一行は、そこで茂平という老人が荷車に跳ねられる現場を目撃。老人は幸いにも一命を取り止めるが、光国らはその際に一瞬荷が崩れ、中身がご禁制の品だったのを見逃さなかった。光圀は荷主の問屋を探ろうとする。案の定、その裏には町奉行も絡んだ闇取引があった。
 ……その撮影の合間に光圀・助さん・角さんはスタジオを出て街を散策する。するとやってきたのは警官姿のお銀と八兵衛。二人揃って交通安全映画に出ているという。お年寄りだからこそ起こりうる事案や危険な状況を紹介し、交通安全の基本を学んでいこう。

 あらすじだけ見ると「何だそれは?」と思うだろうが、本当にそういう作品なのだ。ただし映画やドラマではなくれっきとした「教育映像」。学校などの教育機関で様々な教材や人権教育の際にしばしば上映される、あの手の映像作品の一つだ。余談だが母校ではそれを「映画」ではなくなぜか「スライド」と呼んでおり、子供の頃は「ああいう映画を”スライド”と呼ぶのか」と勝手に思い込んでいた。スライドって一コマずつ流すモノではなかろうか?……実にどうでもいい話だが。

 さて、大人になっても教育映像を観る機会は当然存在する。とりわけ教習所や自動車免許更新時には、交通安全の啓発ビデオを間違いなく鑑賞するからだ(※自分もつい最近観ました)。そして本作『水戸黄門のお年寄りの交通安全』はその題名通り、高齢者向けの交通安全ビデオである。製作は東映。そもそも東映は古くから交通安全を始めとした様々な教育映画も手掛けており、実績やノウハウも完璧。まさにこの会社だからこそ作れた教育映像である。

 作品の存在は昔から知っていたため「交通安全と水戸黄門をどう絡めるんだ?」と長らく疑問に思っていたが、まず普通に時代劇が始まったと思いきや、そこからまさかの黄門様一行が撮影所を出て街にやってくる流れだったのには驚いた。さらには時代劇のドラマパートと現実に起こりうる交通事故の事案を絡めて紹介していくシンクロっぷり。時代劇と現実世界が交互に描かれ、なおかつ交通安全をも啓蒙していく異色作だ。

 しかし「異色作」と書いたものの、物語のメインは時代劇の方にあり、きちんと「水戸黄門」のパターンを踏襲して作られているのには好感が持てる。だがその時代劇の真面目さから一転、現実世界における交通安全の話になると、黄門様と助さん・角さんだけが衣装はそのままに現代日本へやって来て、お銀や八兵衛と共に「これだけの危険が潜んでいるのだな」と啓蒙活動。このギャップがたまらない。交通安全ビデオを観始めたはずなのに、御老公一行が「なぜお年寄りはつい危険な行動を取ってしまうのか」と街中のカフェで一休みしながら語り合うシーンが出てくるなど誰が想像できようか。このビデオでしか観られない実にレアな絵面だ。

 だがこれを笑ってはいけない。語っている内容は至って大真面目であり、むしろ高齢者がどんどん増えつつある今(2022年)だからこそ改めて考えてほしい案件だ。自らの身体の衰えや考え方の変化(※高齢者ほどせっかちになりやすい)をどれだけ自覚し、かつ普段からそれを意識して行動出来ているか? この作品では歩行者側の視点で触れているものの、昨今起きている事件や状況からすれば運転手側もそこを自覚せねばなるまい。不変のテーマであろう。

 そんなテーマを時代劇という娯楽に仕立て上げ、驚きの絵面を描きながらもしっかり真面目に取り組んだ一本。鑑賞の機会も少ないだろうから、これは観られるうちにぜひ観てほしい。
 しかし「笑ってはいけない」と書いたが、さすがに最後の「お疲れ様でした~」のところは吹いた。いくら撮影所だからってそのオチはズルいよ!

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