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「薄明」 青山勇樹

 「薄明」という詩を紹介します。

からんと晴れたぼくの胸のひろがりに
そびえるひとつの梢がある
その先にはいつからか
ちいさくあおざめた矢印があって

風が

きまって吹いているので
方角はいつも行方知れずだ
どこかで翼のはばたく気配がして
ふりむけば
黒く装ったあなたが
横顔をみせて歩いてゆこうとする

ひとつのおおきな想いが
真夜中の空を渡っていったのは
たしか夏の終わりのことだったろう
あれからずいぶんときがたって
ひとがうたをくりかえしうたって
鳥たちが遠くへいってしまって
たくさんの星が流れて
それでも顔をあげてみると
日焼けした肌をあちこちに貼りつけたまま
まだ空は
新しい陽を見つけることができない

朝でもなくまして夜でもなく
ひろがりは
ただこうして晴れわたるばかりで
どこで生まれてどこへ去るのだろう
風だけがいつも
あなたの髪の香りのふりをしている
矢印といえば
いつもその行方を追いかけて
からからとかわいた夢をみているばかりだ

風が

ではなくぼくの腕がすらりと伸びて
その髪をすくおうとするけれども

つきぬけた腕の果てには
いつまでも立ちつくすひろがりが
やがて訪れる次の風を待ちわびて
黙ったまま矢印を見つめつづける

あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届きますように。光と戯れる言葉のきらめきがあふれますように。