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私のキッチン

前回のnote「父のキッチン」に書いた母の圧迫骨折。

帰省して痛感したのが、いつも自分のためだけに料理を楽しんでいる私は、食事シーンにおいて途方もなく無力な存在だったという事だ。

実家に滞在している間、母の介助や洗濯、掃除などのサポートをしながらも料理だけは主導して一切作らなかった。

塩分量を全体の0.6〜0.8%に抑える計算で全て父が作ってくれていたが、私はとてもじゃないが塩分コントロールしながら料理を美味しく作れる気がしなかったし、そもそもそんな気分になれなかった。

NO SALT  NO LIFE

塩分に頼らずして料理するってどういう事?

いや、本音を言えばめんどくさ、の一言に尽きる。

実家に3泊程してからひとまず自宅に戻り、その日の夕飯を作ろうとキッチンに立ってみたが何も作れなかった。

父がいちばんサポートして欲しかったはずの料理を作らなかった後悔や、食事制限をしなければならない家族に美味しい料理を振る舞う事すらできない一方で、これまで自分のためだけに料理を楽しんできた後ろめたさなど、感情はさまざまだ。

どうやら私のメンタルが粉砕骨折を起こしたらしい。

料理を作るプロの人であれば、きっと塩分を控えても食材の美味しさを活かしたり、組み合わせを工夫したり、食感を楽しめるような調理方法などで、美味しいものを魔法のように作り出せるのだろうな。

梅雨入りよろしく湿っぽい後悔で自分を満たしながら、スマホで減塩レシピを検索してみるものの、あまり美味しそうなものが見当たらない。

母が好きだったものは何だろうか、父が食べてみたいと言ってたものは何だろうか。

何より減塩しても美味しくなりそうなものは何だろうか。

一つ一つ情報と状況を整理し紐解いていくと、方向性が見えてくる。

数日後には梅雨明けよろしくカラッと前向きな気持ちで、4種類の料理を作って冷凍保存し、クール宅急便で実家に送ると決めた。

今年の梅雨明けは異常に早かったが、私の梅雨明けも負けてなかった。

まずは仕上がりの塩分量が測れるように、信頼と実績のタニタ製計測スプーンを購入する。

【使い切り約2000回】とあるが
できればそんなに使いたくはない

1品目は「タンドリーチキン」だ。

思い出せ、我が家がインドカレー店と化したあの日々を。
今では私の強みの1つとなった、スパイスブレンドテクニックを。

塩分量を減らしてもスパイスの風味を効かせれば美味しいはずだとネット検索してみたところ、素敵なレシピが見つかった。

何より鶏肉消費率の高い実家にピッタリな気がするし、タンドリーチキンなんて洒落た食べ物を知らない2人に食べてもらうのもいいだろう。

パプリカパウダー、クミンパウダー、コリアンダーパウダー、ガラムマサラ、ターメリック、カスリメティ。

何も怖くない。
ナマステ、スベテ、家にある。

洒落た食べ物をジップロックに洒落た感じで入れる


2品目は「鶏団子スープ」だ。

これまで黙っていたが、私は分量が完璧に頭に入っているほどの鶏団子マイスターである。塩も当然入れるのだが、ここはドラスティックに減らしてしまい、スープは「減塩中華スープの素」を使って0.6%程度にコントロールすれば良い。

食べる際には解凍して、母の大好物である春雨を入れて味わってもらうイメージだ。

塩分計スプーンがこっちを見て何か語りかけている
「塩分ミッションクリア」


3品目は「カボチャのスープ」にした。

塩はほんの少しでいい、かぼちゃと玉ねぎの甘みをメインに味わってもらおう。

以前実家で、ほぼ緑色のカボチャスープが出てきた。母に聞くと皮をむくのがめんどくさかったとの事だが、それを聞いて私は白目をむいた。

皮ごと使うのもアリらしいが、あの緑色具合はむしろ皮しか入ってなかったのではないかと今だに疑っている。

今回私は皮をむいた


4品目「トマト煮込みハンバーグ」でフィナーレ。
トマト好きな父のためのメニューだ。

私はハンバーグを焼くのが、恐らく西日本で1〜2位を争うほど下手だ。全国では多分5位ぐらいだ。

ジューシーに焼けた事など一度もない。
肉汁がじゅわっと出てきた事など一度もない。
生焼けだった事は一度や二度ではない。

ならば、煮込んでしまえばいいじゃないかという結論に至った。

ハンバーグに入れるパン粉には塩分が入っているので、『米粉フレーク』という代用品を購入した。こういう商品に触れる度に、開発者の方には頭が下がる。

ハンバーグは軽く焼いて煮込んじまえばこっちのもんだ


もはや両親の為と言いつつ、自分のメンタル粉砕骨折の治療目的ではあるが、お互いWin-Winになるならそれでもいいじゃないか。

私はすっかり満足して、かわいい我が子を段ボールに詰め、クール宅急便で送り出した。

美味しく食べられて来いよ


後日、父からお礼のLINEがきた。

沢山のお手間入り料理有難う。
さっそく計画的によばれます。
食事準備楽になりありがたいでだす。
(原文ママ)

よかったでだす。

ご利用は計画的に。

父らしいコメントだ。

聞いたところ、タンドリーチキンがNo.1に美味しかったらしい。

もはやあのインド人店長は私の恩人である。


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