見出し画像

全体を通して迂闊

この世はたくさんのBeforeAfterであふれています。

日々目にするSNSでもBeforeAfterはありとあらゆる場面に用いられ、まるでサナギが美しい蝶になるような変化として、Afterがいかに素晴らしい未来なのかをインプットされているように感じます。



化粧前/化粧後、ヘアカット前/ヘアカット後、ダイエット器具使用前/使用後、健康サプリ飲用前/飲用後。

今よりもっと美しく、今よりもっと健康に、人間の飽くなき欲望を刺激する情報たち。

例に漏れず、私も本日ここでBeforeAfterをお見せしたいと考えました。


Before

After 



膝から崩れ落ちるかと思った。

オーブンを開けてこれが目に飛び込んできた時の私は、たぶん腹話術人形ふくちゃんみたいな顔をしてたと思います。伝わってますか。


これが禁断の果実りんごか…と呟き、さぞアダムとイブも食べる前と食べた後では違う世界が広がっただろうと思いを馳せたけど、BeforeAfterってそういう事じゃない。

原因は明確でした。

170℃で50分とレシピには記載されていたのですが、最近予熱が甘い気がしたので60分に設定し、一旦50分の時点で中の様子をチェックするつもりがYouTubeに夢中になってしまい、しっかり60分焼成しまったのです。

これもぜんぶ『ひとりごとエプロン』のせい。

『北欧、暮らしの道具店』のドラマシリーズであるこの動画の1話と2話を、私はその日何度も繰り返し観ていました。

音楽と料理がテーマとなっているこのドラマは、ファン層の心理を深く捉え、見えない部分のキャラクター設定や背景設定が細部までよく考えられた作品だと感じます。

私はその存在を認知しながら特に気には留めていなかったのですが、どうやら1話はクラムボン、2話は七尾旅人といういずれも好きなアーティストの音楽がテーマ曲に選ばれているらしいという事で視聴したところ、主人公の小さな部屋で繰り広げられる日常レシピに魅了されてしまったのです。

『ひとりごとエプロン』を観て「今日の夜ごはんは2話で出てくる野菜の春巻きにするぞ」とひとりごちながらオーブンの扉をあけ、派手に焦げた【りんごのガトーインビジブル】と対面してふくちゃん顔になったという訳です。


ただ、“インビジブル”=“気づかれない”“目につかない”という意味においては、上部の焦げたりんごをぜんぶ剥がして素早く口の中に放り込み、まるで何事もなかったかのように失敗を隠蔽しましたので、ある種成功したと言えます。

ミッションインビジブルです。大丈夫焦ってない。焦げたけど。

ひとまず気持ちを落ち着かせるべくスーパーへ向かい、野菜の春巻きに必要な材料と、それに合わせたいメニューの材料を買って自宅に戻りました。

野菜の春巻き
野菜の中華スープ
柿と生ハムのサラダ
黒豆のクリームチーズ和え
酢蓮根
きんぴらごぼう
りんごのガトーインビジブル

食べる前から食べ過ぎる未来が見える。

野菜の春巻きは、ズッキーニ、人参、さつま芋、ピーマンをひたすら千切りにし、それを春巻きの皮で巻くだけの簡単レシピ。
シンプルゆえに何かキラッと光る魅力を感じずにはいられません。

さつま芋ってこんなに威圧的でしたか


とにかくひたすら無心で切ることに専念します。
バックミュージックはもちろんドラマと同じ、七尾旅人の『スロウ・スロウ・トレイン』。

スロウ・スロウ・カット
いつも包丁使いが遅いのです


春巻きの皮を広げたら、4種類の野菜をそれぞれ少しづつ乗せてくるくると巻いていきます。餃子の皮を包むのも春巻きの皮を巻くのも得意ではありませんので出来ればあまりやりたくないのですが、やり出すと単純作業が生み出すリズムがとても心地よく感じられます。

ちょうど9本巻き終わったところで皮が残り1枚となり、中に入れる野菜がさつま芋だけになってしまいましたので、冷蔵庫に残っていたりんごを一緒に巻きました。


ところでさつま芋とりんごのやつは
どれでしたか



揚げ物鍋で油を熱し、合計5本揚げて残りは冷凍です。
タレは醤油、コチュジャン、酢、すりゴマだと動画で紹介されていましたが少し甘さが欲しかったので甜麺醤も混ぜてみました。

命名:秋なのに春巻き ごはん炊き忘れ膳


びっくりした、ごはん炊いてない事に写真撮るまで気がついてなかった。


撮影を終えましたら春巻きが熱々のうちにいただきましょう。
まずはタレをつけずにそのままの味でパリパリッ。


口内火災。

あまりの熱さに驚き、慌てて柿のサラダを食べて口内を冷却してみたのですが、これが意外と効果的でしたので対処法としてはあながち間違えてないのかもしれません。

気を取り直し、冷たいタレをつけてパリパリッ。

口内歓喜。

舌が喜びにあふれてる。
肉も春雨も筍も入っていないのに、4種類の野菜だけで素晴らしい味の深みを感じられる春巻きは、食べ応えがありつつもサラリと食べられてしまう軽さも持ち合わせています。

デザートにはあの【りんごのガトーインビジブル】にいつもの通り粉糖を振りかけ、『粉砂糖をかければ大抵何とかなる』という仮説をまた検証しました。

まるで焦げた過去などなかったかのよう


りんごの甘酸っぱさと粉砂糖の優しい甘さが名コンビとなり、エンドレスで食べられそうです。


「もう一歩も動けない」

そんなひとりごとをつぶやいてしまうほど過食したその翌日、Afterの体重に驚いてふくちゃ震えたのは言うまでもありません。





出典:グループカンパニー ふくちゃんプロフィール


#日記  , #エッセイ , #料理 , #自炊 , #春巻き , #北欧、暮らしの道具店 , #りんごのガトーインビジブル , #七尾旅人

この記事が参加している募集

つくってみた

レシピでつくってみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?