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ブルーベリーパイ (ショート)

冬になった。

「ほっ」と吐いた息を、注意深く観察する。
朝、息は白い。
陽の光を縫うようにして、漂いながらそこにある。
それは、自分から吐き出されただなんて思えないほど、白く透き通っていた。

マイ・ブルーベリー・ナイツ。

いつか見た映画を思い出す。あれは冬の映画だったのだろうか。
好きな俳優と、歌の上手いシンガーが、なんだかいい具合にそこに“居る”映画だった。

ブルーベリー・パイ。
チーズケーキ?

私が好きなものを選ぶ。
映画の断片を思い出しながら、白い息が見えなくなるあたたかいカフェで紅茶を飲む。

紅茶を飲みながら、窓のある席で静かに息を吐いた。
見えた。暖かさがもたらした白い影。
朝一番に吐いた息よりも柔らかい。
だけど、凛とした強さはない。

「どちらがいいのだろうね」

強すぎても、柔らかすぎてもだめだったから。
「あなたはキレイなタイプの人だ」と言った彼は、『可愛いタイプ』を好きな人だった。
私は毎日、自分の吐く息を観察する。
白く透明でありたい。
柔らかく、それでいて凛としてそこに居る。

目を閉じて、カフェのテーブルの木目に、人差し指をゆっくりと滑らせていく。
その自然な凹凸を指先で感じとる。
ひとつ、ひとつ。私自身の問題を乗り越えていくように、小さな起伏を指先で越えていく。
深く吸った息を吐き出すと、体の中が少しだけ透明になった気がした。

旅もいい。家に戻るのもいい。

私はあなたに自由を与えられたのだから。
感謝して進めばいい。
マイ・ブルーベリー・ナイツを思い出して、あなたのことはもう、思い出さない。



[完]


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