エッセイ | 神田すずらん通り(PASSAGE BY ALL REVIEWS)
土曜日のこと。人間ドックを終え、その足で神保町へ向かった。
🐾🐾🐾
10時前に神保町に到着。
健診後なのでとにかく腹ぺこ。まずはなにか食べたい。
「神田すずらん通り商店街」に入ってすぐのベーカリーカフェで朝食をとる。
大きなベリーがのったデニッシュと珈琲。
スーツケースを引いて歩いている人を度々見かける。
海外からの観光客も多そう、という印象の神保町。
目的のお店は12時OPENなので、それまで街をふらふら歩く。
文房具を扱う「文房堂」に長居してから街を一周。
またお腹がすいて、喫茶店へ。
朝ごはんが少なすぎたみたい。
ホットドッグとクラムチャウダーをいただいた。
🐾🐾🐾
12時を過ぎたのでPASSAGEに戻り、素敵な本棚を眺める。
私が探している棚は3階。
「3階へはエレベーターで」の文字を見つけて、何故か隣のビルのエレベーターに乗り込もうとした自分にびっくり。
隣は小学館のビルだった。
吉穂さんの想いの詰まった本を実際に手に取り、感動。
文庫ってこんなに可愛かったかしら?と思ってしまった。
noteで吉穂さんご自身が紹介されているのを見て、勝手に単行本の大きさをイメージしてしまっていたのかも。
実際は手のひらサイズの可愛い本たちだった。(一般的な文庫本サイズのことを言ってます)
目移りする品揃えの中から、今回私は「駐妻記」を選んだ。
だいぶ昔、西荻窪を散策した時に、カフェに入る前にふらっと立ち寄った古本屋で見つけた、「トイレのない旅」という海外旅のエッセイがすごく面白かったのを思い出した。
「駐妻記」は数ページ読んだだけで、もうわくわくする。
以前noteでは、みらっちさんが投稿されたエジプトの旅行記も楽しく読ませていただいた。
吉穂(みらっち)さんの旅エッセイはとても読みやすい。そして楽しい。
その時の心情が細かく表現されているから、大いに共感してしまう。
旅って、楽しいけど疲れるし、ちょっと神経質になったり。
「駐妻記」は旅というより、そこで暮らした記録なのだから、大変だったことももちろん書かれている。
タイの暮らしの興味深い部分と、そこで暮らして、そこで感じたことを詳細に記してくれている本書は、私に昔の記憶を思い起こさせる。
私は小学生の頃に父の海外転勤について行った経験がある。
外国の田舎で、周りに日本人はいない。
誰一人、言葉の通じない現地校に入り、無言で過ごした日々だった。
家族の歴史を総括すると、そのころが重要な時期で、家族関係が歪んでしまった起点となっている。
それを認めざるを得なくなったのは、私の場合は大人になってからだけど、孤立した家族だけの空間で起きたことは、正直私の記憶に残っていない。
確かにその場で経験したはずの記憶が、すっぽり抜け落ちている。家族の闇の部分だけが思い出せない。10歳だった。
家族の中で私だけ、楽しい記憶しか残っていないのはどういうことだろう。
私は学校から帰ると地下室に降りて、現地で購入した日本語訳のないキアヌ・リーブス主演の「スピード」という映画を毎日観た。毎日。
言葉は話せなかったけど、友達の家に泊まりにも行った。
車で国境を越えたり、旅行もした。
大きな大きなアイスクリームを食べた。
多分、家族内の問題が露呈しなければ、私は楽しかった記憶だけ抱えてお気楽な人生を生きた。
だけど時期がきて、それぞれの記憶をもう一度掘り起こす作業が必要になった。
この場合の記憶ってなんなのだろう。
それぞれの「主観」の入り交じる不透明なもの。
何も信じられないのに、なにか結論を急ぐような状態に陥って、結果私は、今は自分の心を守るために家族から逃げている。
あれ、なぜかこんな話に。
話が脱線どころか闇の中に入ってしまった……。
🐾🐾🐾
「駐妻記」では、タイの文化はもちろん、駐妻の生態を学べる。
こう言うと、茶化しているように思われるかもしれないけれど、あえてそういう視点を入れて書いてくださっている(と思っている)のだから、面白く受け取らないと勿体ない。
くすくす笑いながら読んだ。前半は。
とはいえ海外で暮らすのは大変なことで、読み進めると、吉穂さんを含む駐妻の皆さんの苦労も身に染みてくる。
後半には涙してしまうところもあり……。
東北の震災やタイの洪水の頃のエピソード、エピローグ・あとがきでは家族の在り方も考えさせられる、盛り沢山な内容だった。
普段の私は本を読むのが激遅い。
こんなに早く読み終えたのは面白かったから以外に理由がない。
「なんだかんだ楽しかったな、タイ。また行きタイ」
なんて呟いてしまいそうになるくらい、読み終えると、まるでタイでの生活を体験したみたいな気持ちになっている。
それから、この本を持っている人って、世の中にまだあまりいないんだなと思ってじわじわくる。
あとがきを読むと続編も期待出来そう。
待っていますね、吉穂さん。
素敵なエッセイをありがとうございました。