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野菜を食べる(リタとリコのバラッド)

リタはエコロジーを、
リコはエコノミーを、
テーブルの両端から主張し合う。
店員が野菜を盛った皿を運んで来た。
2人は議論を続けながら、
野菜に手を伸ばし、
窓からセメントと鉄の夜景を眺める。
2人は互いのイデオロギーを弁証法的に捉え、
「利他」と「利己」を巡る思考の運動を思った。
分別のない靴底で自然を荒らしながら、
その美しさを動画で伝える彼女たちも、
野菜を食べるーー
ドレッシングをかけて、
野菜を食べるーー
ショッピングの話なんかしながら。

それは自分のためか、誰かのためだったのか、
ウェルギリウスとベアトリーチェに導かれて、
ダンテが歩いた「冥土」は、
いびつな逆三角形をしていた。
しかし、我々の亡骸を包むであろうこの大地は、
どこまでも丸い。
差し伸べられたその根を掴むといい、
舌の上で地球を感じるといい。

さぁ、ジャガイモを、トマトを、
キュウリを、大根を、
ゴボウを、キャベツを、
ニンジンを、ズッキーニを、
薄切りに、千切りにして、
煮て、焼いて、
サラダや、スパゲッティに、
鍋や、すき焼きにして食べよう。
豚や、牛、
鶏肉や、ソーセージ、
炭水化物や、豆、
魚と一緒に摂取しながら、
人間は生きて、
ただ死んでいく、
自然に導かれて。

そう、自然こそが未来を決めるのだとしたら、
「私たちも『自然の一部』ね」ーー
と、リタとリコは見つめ合う。
そしてスピノザの磨く水晶を通して、
(つまり、自己否定よりも、
自信に満ちた自己肯定において、)
生きて、食べて、クソして、死ぬ、
野菜を食べてーー
素直に感謝しながら、
野菜を食べるーー
最期の「ごちそうさま」まで。

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