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東京異界録 第3録(試し読み)

 時は流れ、今は正午。ホームルームが終わったあと、彼らはクラスメイトに囲まれ、質問攻めにあったのだ。
 なぜか私も巻きぞえになったんだけど。
 で、お昼近くなったから、空腹に耐えかねてコンビニまで行ってきたってわけ。部活動もあるから誰かか残っていても不思議ではないし。
 「しっかしまあ、盛大な頭突きだったな」
 「メガネ、はずしててよかったね~」
 誰のせいだ、誰の。
 言葉の代わりにため息で妖怪兄弟に返事をする。ちなみに、先に話したほうが弟にあたるカヌス君、後のほうは兄のカーラ君だ。
 人間でいるときは、それぞれ君、君。苗字はって名乗っているらしい。
 「そういえば、体、透き通ってないね」
 「まあな。見た目は完全に人間になってんだよ」
 「どういうことよ」
 「どうって、言葉通りだぜ。お前でもわからねえぐらいの強い術を使ってんだよ」
 「この学校に問題があってね~。それで、おれたちが来たってわけ~」
 笑顔で五個目のサンドイッチをほおばるカ、じゃない、翔君。慣れるまで時間かかりそうだわ。
 それにしてもよく食べるわ。でかいだけはあるわね。偏見かしら。
 ちなみにいつも見ている姿は、二人とも十三、四歳ぐらいの姿で、身長も私よりも少し高いぐらい。長男が一六五センチぐらいで、次男が一六〇ぐらいって言っていたかしら。
 ついでだけど、私は一五八センチよ。
 今の彼らは、前者が一八六、後者が一七三ぐらいなんだって。年齢に合わせて姿を変えるのは、十八番ではあるんだけど。
 「姿なんてコロコロ変えてんだからよ、そんなに驚くことなくねえ」
 「見た目はね。でも、こんなにはっきり見えるなんて初めてだから」
 「まあ、ちゃんと化けなくちゃいけなくなったからねえ~」
 いったい、どういうことなのだろうか。私の問いに、口にある食べ物を飲みこんだ翔君は、こう説明する。
 直球でいうと、この学校が連中の拠点のひとつになっている、とのことだ。拠点というのは、悪意ある物の怪たちの集会所を指す。つまり、ここで奴らと戦うことになるかもしれない、って意味。
 「な、何でイキナリ。去年はそんなことなかったじゃないっ」
 「今は今だろ、過ぎ去った時間なんか知るかよ」
 「まあ、君の気持ちもわかるんだけどね~。おれたちも原因を調べなくっちゃならないし~」
 「それに、お前は共の格好の餌食だからな」
 「ちょっと待ってよ、ユキは」
 「君には妹がついてるよ~。念のためにね~」
 「人の心配してる場合か。お前のほうがヤベえってのに」
 だから二人でってことになったんだけどね~、と翔君。瞬君のツッコミが炸裂したような気がしたが、そこまで頭が回らなかった。
 というのも、今までは学校とは関係のない場所で戦いが行われていたの。近所だったけど、人気のない場所が多かったし、時間帯も早くて夜の九時頃。最近では深夜過ぎにもなることがあるけど、とにかく私と弟以外、慣れさせるために彼らは戦いには参加していない。
 それが今回は校内でドンパチやるかもっていう話なのよ。冗談じゃないわよ。
 「今まで通り結界は張るぜ。別に気にするこたあねえだろ」
 「あのねえ、夜でも校内で暴れたら面倒なことになるじゃないのよ」
 「何言ってんだ、結界があればぶっ壊れてもなかったことになるじゃねえかよ」
 「そーゆーことを気にしてんじゃなくて、お互いの正体がバレたらどうするってことよ」
 「まっさかあ、そんなヘマしないよ~」
 万が一のことがあっても記憶消しちゃえばいいんだし~、と、あっけらかんにいう長男坊。だよなあ、と次男坊も続く。
 「あんたらはいいかもしれないけど、私は困るのよ。平和に暮らしたいのっ」
 はあ、と、瞬君は語尾を上げながら表情を崩し、
 「十分平和だろ、ちっと前に比べれば」
 「まあまあ、感覚が違うからしょうがないって~」
 「話がずれてるから。私は自分の正体を絶対知られたくないんだってば」
 「そんなに心配しなくても問題ねえって。オレ様がつくる結界の威力は知ってんだろ」
 誰も入って来られねえよ、と笑顔で説きふせる彼。た、確かに今までのことを思いだすと、自信満々なのは名実共に、だ。
 「とにかく、お前はいつも通りにしてりゃいいって。何かあったらオレたちに知らせろよ」
 「だねえ。渡した道具は持ってるでしょ」
 「ま、まあ」
 「それがあればすぐに居場所が特定できるから、すぐに対処できるって」
 そのためにここに編入したんだからね~、と彼。私にはもう、ため息しか出てこなかった。
 ということだ、と口にしながら立ち上がる瞬君。
 「楓、案内頼むぜ」
 「は、何の」
 「校内だよ、こ、う、な、い」
 自分で調べろっ。
 「まーまー、ケチケチすんなって。ほら、お前も行くだろ」
 「だねえ~。場所、覚えないと、ね~」
 顔が正直だね~、とかぬしてるそこの兄ちゃん、黒い笑顔で言うんじゃない。拒否権なしですか。
 私は青い息をしながら、しぶしぶ了承。どうにしてもここが危険にさらされるのであれば、早い段階で潰しておくに越したことはないだろう。
 今のうちに目をつけておき、そのあたりを重点的にパトロールすればよいだけですむかもしれないし。
 「早くいこうぜ、イインチョー」
 からかう瞬君の足を踏みつけあと、私たちは教室を後にした。

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