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東京異界録 第2録(試し読み)

 あの出会いから七回目の桜が散り始めている今、私は高校二年生になった。今は窓の外にある道がピンク色に染まる光景を見ながら、眠くてぼんやりとしている。
 まあ、相変わらず、妙な存在である彼らとの関係も、続いているけれどね。はあ。
 きっかけは、あの始業式の後。指定された公園にいくと、人外なる者の姿がふたつあり、手招きをされたのだ。近づいたら、片方からチョコレートをもらったような気がする。
 お菓子はともかく、そこで話されたのは、驚くべきことだった。私の力が必要だから協力してほしい、ってことだったのよ。
 どういうことかっていうと、もう気づいてると思うんだけど、私には生まれつきオバケとかユウレイとかの類が見える力があるの。だから彼らの体が透きとおって見えたのね。
 彼らいわく、力が強い物の怪は、完璧な人間に化けられるらしいんだけど、ごく稀に私みたいなのがいるらしくて、そこに目をつけたんだって。まったく迷惑極まりないわ。
 で、こういう人ならざる者に関わると、ロクなことがないのは経験済み、なんだけど。小さかったし、相手は大きい兄ちゃんだし怖くってね。とりあえずあっちの要求を飲んだわけ。弟のことも助けてくれるって約束してくれたし。
 というより、そうしてもらわないと困るんだけど。
 だって、彼らが私にして欲しいことは、この世界にのさばる異形な者たちの退治をすることだったんだもの。子供の口喧嘩とはワケが違うのよ。
 まるでマンガの世界よね。でも、現実に起こっていることなのよ。
 私もどうして地球外生命体みたいな彼らが存在するのかは知らない。でも、あのとき出会った彼らは、下手すれば人間にも害を及ぼすと言っていた。
 でも、理由は聞いていないの。というより、それは教えるわけにはいかないんだって。今考えれば、頼んでおいてそれはないでしょって思うけど。
 まあ、十歳じゃわかんないもんね。そんなことは。
 つまり、私は夜な夜な現れる害ある存在を彼らとともに倒しているってわけ。
 あ、チャイムがなっちゃったし。この辺りはまた今度話すわね。
 この高校は最初、入試試験順に組替えするのだけど、以降は変わらない。そのせいなのか、新学期っていう雰囲気はまったくないし、中には宿題を写している奴もいる程。
 前の期の初めと似たような風景なのは何故なのかしらね。ま、私も同じなんだけど。毎日寝不足だし。
 そうこうしているうちに、担任が入ってきた。当然こちらはまぶたがくっつきそうなので、話なんて右に左に状態にさせてもらうけど。
 「おはよう。んじゃ、宿題出すように」
 こちらも変化なしのせいか、言葉にはやる気が感じられない。とま、元々のんびりしてる先生だからいいんだけど。ちーちゃん先生なんて呼ばれているぐらいだから。
 慣れた手つきで提出物をまとめ、ホームルームを終わらせた先生の足が止まる。
 「あ、そうそう。転校生を忘れてた」
 どっと生徒がわく。まあ、こーゆーところもあるんだよね、この先生は。それにしてもひどいわね。
 入っていいぞ、という号令の元、頼りない引き戸の音が聞こえる。眼鏡をはずして涙を拭いていた私には、教室に何が起こっているのかがわからなかった。
 どういうわけか、歓声と笑い声が一緒になっていたのだ。
 視線を感じた私は、あごを手に乗せながら、発生元らしき方向へ目を向ける。
 ああ、どうも疲れているようね。見慣れた人と同じような顔をしている人二人、片方は頭を抑えながら手を振り、もう片方は同じものを上げているような気がする、って。
 一気に眠気が飛び、手から力がぬけたせいか、机に頭を思いっきり打ちつける。当然のごとく注目を浴びてしまったようで、顔を上げることができない。
 「委員長、何やってんだよ」
 「な、なんでもない。気にしないで」
 前に座っている男子に声をかけられるが、手を振りながら答える私。
 ああもう。何であいつらがここにいるのよ。しかもいつもよりデカくなってるしっ。
 「何だ。君たちはの友達なのか」
 「そうなんですよ~。おれたち、昔ここに住んでまして」
 「変わってなかったから、すぐにわかったぜ」
 ウソをつくんじゃない、前から住んでいるでしょうが。それに、ほぼ毎日会ってるじゃないのっ。
 のんびりとした口調の緑髪の少年は相変わらずニコニコと、普段どおりの話しかたである水色の少年は、いつもと同じニヤニヤとたくらみ顔だ。
 それは良かったな、と事情を知らない先生。彼らは双子であることを生徒に伝え、仲良くするように、とありきたりな言葉を並べる。
 違うよちーちゃん、彼らは三つ子なんだって。しかも人間じゃないんだってば。
 突っこみどころ満載の状況だが、時間が許してはくれないらしく、
 「席は藜御の後ろでいいな。ちょうど空いてるし」
 やめてもらえませんかね、むしろ他のクラスに飛ばしてくれませんか。
 頭を抱える私のそばに、ふたつの気配が寄ってくる。言わずもがな、私の平穏をぶん盗った張本人たちだ。
 「楓ちゃん、よろしくね~」
 「ま、テキトーにな」
 悪びれた様子もないこの人たち。いや、人じゃないんだけど、利便上ね。
 って、そんなことはいいのよ。何で学校に来てんのよ、こいつらは。私が唯一平和に過ごせる場所なのにっ。
 外で散っている桜と一緒に、頭痛のタネもなくなってくれないかと、私は、心の底から思ったのだった。

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