東京異界録 第4録(試し読み)
学校を案内させられた後、今日は異常なかったようなので、そのまま帰路へとつく私たち。彼らは真昼間なのにも関わらず、ゴエイだからとかってついて来ているけれど。
「ため息ばっかついてっと、幸せ逃げるぞ」
「あのねえ」
「それなら、また吸いこめばいんじゃないの~」
「それもそうだな」
何でそうなる。
もはや突っ込む気にもなれないが、彼らなりに気を使ってくれているのはわかった。今までは夜だったから送り迎えしてくれたが、昼もこうしないといけないとなると、先が思いやられるのである。
だって、昼間でも危険な目に遭う可能性があるってことだもの。ま、戦うことは別にいいとして、私が何者であるのか、っていうのは世間に知られたくないのよね。はあ。
べ、別にやましいことじゃないわよ。気にしなくていいから。うん、一切。
「そう言やあ、店って今の時間やってたっけか」
「どうだったっけね~」
と、翔君は天を仰ぎ、真っ青で爽快な空を見つめる。
すずめが一匹、遠い上空を通りすぎると、彼は視線を目の高さに戻した。
すると私たちに向かって笑顔で、ちょうど終わったところだから来いってさ~、と話した。おそらく、さっきのすずめと風を通して聞いたのだろう。
翔君と瞬君、妖怪名ではカーラ君とカヌス君だが、彼らは物の怪と名乗っているものの、私は違うように感じている。というのも、確かに人間ではないんだけど、怖い、より神秘、って表現ほうがしっくりくるからだ。
今にしたって動物と話すことができるし、自然現象を操ることもできるしね。
それぞれ得意なことが違っているけれど、魔法っていうのかな。本当に漫画とかゲームとかの世界みたいなことをやってのけているのよ。
「そういやあよ、ユキはどこにいんだ」
「うーん、さっきLINEで連絡しといたから、店にいると思うわ」
「じゃあ早めに、っていいたいところだけど」
ニコニコ顔から一変、近くにある細い路地を視線だけ鋭くする翔君。何かに気づいたのか、瞬君も同様だった。
「何、どうしたの」
私がそちらを見た途端、景色が歪み、辺りは霧に包まれていく。ただの水蒸気じゃない、どす黒い水なんて普通は存在しない。
「見境ねえな。街中だぜ」
「加濡洲、楓ちゃんを」
そういった翔君は、今回は仕方がないね、と言いながら手に大太刀を出現させ、横抜き様に斬りつける。カヌス君はというと、手に飛苦無をだし、兄の少し離れた右側に投げつけた。
同時に獣のような悲鳴が聞こえ、謎の気配は血走った目をした狼だった。
「お前、武器は」
「お、置いてきちゃった」
「やっぱそーか。しゃあねえ」
しょうがねえよな、とカヌス君が言うと、私の手に術をかける。薄紫色に光った甲は全身に広がり、受け手側の雰囲気を強制変換させる。
身にまとった制服は、だんだん時代の違う服と色使いに変わっていき、スカートよりも動きやすいノンスリーブ上の和服と黒いジーンズ、靴はスニーカーに。
髪と目の色も、日本人の代表色ではなくなっていき、アッシュシルバーとパープルに。
下ろしていた髪は結わかれてアップされた状態になった。
目を細め前方を伺うは、
「あのさ、これとアイツら、どうなってんだよ」
「アレはオレが創ったから、構造を知ってんだよ。術で応用をしただけだ。あいつらは知らね、締め上げればわかるんじゃねえのか」
「確かに。はあ、何なんだよ昼間っから」
っつっても三時だぜ、という言葉が聞こえたが無視。これから化け物と戦わなきゃならなくなったんだからな。
タイミングを見ていたのか、カーラ君がアタシの右側に現れる。
「準備は終わったみたいだね」
「狙いは楓か」
「さあ」
「さあ、ってお前」
「おれに言われてもねえ」
「加阿羅、ふざけてる場合かよ」
「違うってば。陣形見ても連中を見ても、何が目的かがわからないんだって。風も止んでしまってるし」
お前が調べたほうが早いと思うけど、とカーラ君。アタシにはよくわからなかったが、やることは決まったようだ。
アタシとカーラ君はお互いの背を合わせる。
「なるべく離れないようにね、獅子の紅葉ちゃん」
「その名前で呼ぶなっ」
アタシが声を張り上げるのが合図だったように、襲い掛かってくる奴ら。兄弟たちのやり取り中、数十匹に膨れ上がった怨鬼という狼の姿をした化け物は、いっせいにこちらに飛んでくる。
「楓、その線からこっちに入れんなよ」
カヌス君のいう線は、いつの間にか彼の数メートル前に現れており、水色に光っている。黒い霧を吸収している辺り、何かをしようとしているのは確かだ。
アタシは笑って返事をし、狼の爪をかわす。手甲に装着された三本の金属刃が原型のない敵を引き裂く。
横から来た奴を回し蹴りで吹っ飛ばすと、何体かを巻き込んで後転していき、食らった奴は姿を消す。
連中、どうやら本当に大したことないらしい。アタシでもどうにかなるからな。
カーラ君は大太刀を振り、一撃で片手以上の敵を葬り去ると、いつもののほほん笑顔で、
「とりあえず加濡洲の術が完成するまで、あいつらと遊んであげようか」
こんな状況でよくそんなことが言えんな。さすがというべきか。
本当は付き合いたくもないもないが、状況を打破するために彼を手伝うことにした。
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