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砂の城(創作大賞投稿作品)

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6年前に小説家になろうで書く予定だった消された恋愛話を改稿して纏めております。【創作大賞2024初参加】 暗い部分も多いですが、人の感情揺れ動きとリアル重視。 ハッピーエンドです…
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#恋人

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第15話 隔てられた距離

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第15話 隔てられた距離

 私は霧雨荵さんと互いの利害の一致という事でお付き合いすることになった。利害の一致と言っても100%私が得をしているだけで、彼にとっての利益は謎のままだ。
 彼が私を指名して、時間の許す限り延長してくれるので店には多額の金が入り、そのお陰なのかいじめは無くなった。
 霧雨さんを敵に回すと営業に響くのだろう。もしかしたら私に手出ししないよう店長が全員に通達したのかも知れない。
 結局は権力と金が無い

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第20話 捌け口

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第20話 捌け口

 雪ちゃんが帰った後、新宿を目指した。
 駅から降りるとやけにいつもと様子が違う。西側に広がる空気が重苦しい。
 不安を感じ、西新宿にある家へと足を進めると、白い煙と焦げ臭い匂いが近づかなくてもわかるくらいに立ち込めていた。おまけに家の周りには人だかりが出来ている。

「ボヤ騒ぎらしいわよ」

「燃える素材じゃないのにねぇ……怖いわ」

 あれは、私の住んでいるマンション!
 慌てて中に入ろうとし

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第28話 甘いキス

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第28話 甘いキス

「忍っ……!」

 その場にいた外科の先生は弘樹さんと何か会話をして忍に入っている管の処置をすると、回診で連れて来た2人の看護師と共に私達とすれ違いで出て行った。

「麻衣さんチャンスだよ。今なら忍も寝てるし、さっき言えなかった事きちんと伝えないと」

 澤村さんに背中を押され、私は穏やかな顔で眠っている忍の真横に再び座った。全然起きる気配を見せ無い。
 私はシーツから無造作に飛び出している忍の右

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第36話 変わらない気持ち

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第36話 変わらない気持ち

 病気でも無いのに医者と弘樹さんのお陰で長々精神科病棟に置いて貰った私は忍と一緒にお菓子を買いにとある大手デパートへ行った。

「あれ──麻衣ちゃん?」

 ふと幾つか高級お菓子コーナーを覗いていると相変わらずビシッとスーツを着こなした霧雨さんがニコニコ微笑んで立っていた。

「まさかこんな場所で会うなんて。これも神様のお導きだろうか」

「え、えっと……霧雨さんお久しぶりですね、どうして、こちら

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第37話 本音

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第37話 本音

 用事を全て終えた私は忍に連れられて寂れた海岸へ来ていた。ここには昔から何度も忍と一緒に来ている。母さんの呪縛から逃れたい時に。

 静かな波の音を聞いて、2人で心を穏やかにしていた昔を思い出す。
 別に有名な場所でも無いので人気も殆どなく、ある意味私達だけが知っている秘密の穴場のような所だった。

「──なあ、麻衣。俺に言い忘れている事ないか?」

「えっ!? え、っと……」

 懐かしさを噛み

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第38話 スターチス

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第38話 スターチス

 麻衣、と呼ばれた瞬間私はもうこれで忍はまた離れてしまうのだと目を閉じたまま覚悟を決めた。
 忍は明るい性格で昔から男女問わずモテる。多分、澤村さんのような可愛い彼女だってまたすぐに出来るだろう。私がいつまでもくっついていたら忍にとって迷惑にしかならないのだ。

「はぁ……また早とちりしてんだろ」

 嫌われる、離れられると思いきや想像していたものは全くこなかった。
 ここで泣いたらダメだ。泣いた

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第39話 忍sideー 未来へ

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第39話 忍sideー 未来へ

「結局、麻衣ちゃんと一緒には住まないのか?」

 いつもならこの時に呆れた、と言われるのだが、弘樹はいつもとは違い笑顔で妙に寛大だった。多分、麻衣の態度が変わった事が大きな要因だろう。
 麻衣はなんだかんだで、弘樹の嫁である雪ちゃんの親友。──そりゃあ旦那としてはどちらの事も心配に決まっている。

「まあ、結局はこのスタンスが俺達にとって一番いいからな。雨宮“先生“、いつもご馳走様」

「全く……

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第40話 傷跡

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第40話 傷跡

「佳奈ちゃんなんだけど、来月中旬に退院して、予定通り児童保護施設に行けるみたいなんだ」

 私は弘樹さんの報告を聞いて自分のことのように嬉しくなった。彼女は自らの力で薬が無くても前を向いて歩けるようになったのだ。
 弘樹さんは麻衣ちゃんのお陰と言ってくれるが、私はただあの子に過去の自分を重ねてしまっただけ。
 例え彼女がこれから先、苦労しても親を恨まないで欲しい。誰に何を言われても、子供には罪はな

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