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砂の城(創作大賞投稿作品)

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6年前に小説家になろうで書く予定だった消された恋愛話を改稿して纏めております。【創作大賞2024初参加】 暗い部分も多いですが、人の感情揺れ動きとリアル重視。 ハッピーエンドです…
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#恋愛小説

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城、プロローグと第一話

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城、プロローグと第一話

第1話    8時15分

 私の職場は新宿歌舞伎町。それなのに、毎日反対方向の青梅街道を電動自転車で駆ける。今日はもしかしたら、あの人に逢えるんじゃないか……なんて淡い期待を抱いて。

 でもこんな馬鹿げた生活を何年続けた所できっとあの人には逢えない。彼は、私を捨てて家を出ていった。3年前に父さんが事故で他界して、変わった母さんと全く折が合わなかったから。

 ──ねえ、忍。貴方がこの近くを毎日

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城「第2話 3年間の空白

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城「第2話 3年間の空白

「しかし驚いたな……まさかこんな近くに『彼女』が住んでいたなんて」

「そうだよ、今までずっと一緒に居たんだから……」

 そう。私が大学に入学するまでは、忍とずっと一緒だった。
 私は精一杯の笑みを浮かべ普通に振舞った。忍は昔から勘のいい男なので、少しでも言動や態度に疑問があるとやたら追求してくる。

 マンションのロックを解除し、エレベーターに乗り、自室の前に立ってもまだこれは夢なのだろうかと

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城「第3話 戻らない記憶」

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城「第3話 戻らない記憶」

「マキ、何かいい事あったあ?」

  店はまだ準備中。派手な同僚とは違い、私はメイクや服を整えるのに倍近い時間がかかる。
  鏡に向かい口紅を引く私の顔は、彼女の指摘通り昨日とまったく違っていた。目元に幸せオーラがはっきり出ている。この歳になって初めて彼氏とお付き合いしたような感じだ。

  あの後、忍と2回触れるだけのキスをしてから電話番号とLINE、メールアドレスを交換した。
  何故か分から

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 「第4話 心の支え」

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 「第4話 心の支え」

  弘樹さん達が店を出た後、見計らったようにミカが近寄ってきた。これはいつもの事だ。

「ねぇーマキちゃん〜。弘樹さん紹介してくださいよぉ〜、センセー達来た時に、ゼッタイ私の事呼んでくれないじゃないですかぁ〜」

  ミカをヘルプとして呼ぶのは大変だ。指名には料金制度があるので、彼女をただ隣の席に置くだけでも結構高くつく。
  料金が高いからという理由だけならば、ミカは弘樹さんに近づきたい人間

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第5話 忍sideー 事故

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第5話 忍sideー 事故

 俺には、記憶が無い。

 自分という存在を確認するものは普通運転免許証と、俺が目を覚ました時に綺麗な顔をぐしゃぐしゃに泣いて病院まで飛んできたガリ勉野郎の雨宮弘樹って野郎だけだ。
 どうせなら、目覚めた時に綺麗な女の子に会いたかったけど、そんな夢みたいな事は言っていられない。

 そう、俺は一度死んだようなモンだ。

 医者の話によると、どうやら俺は家族に勘当されているらしく、この携帯にあった雨

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第7話 本質は変わらない

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第7話 本質は変わらない

 マルボロの香りが残る啄むキスの後で私ははっと現実に戻り、慌てて腕時計を見た。もう8時を過ぎている。
 いいムードだったのに、と頭をぽりぽりしている忍の様子に私は顔が赤くなるのを隠しながら違う話題に切り替えた。

「忍、仕事は? 時間、大丈夫なの?」

「ん……? 今日は夕方からだから大丈夫」

 そう言えば忍が事故ったまでは弘樹さんから聞いていたが、今もまだ建設関係の仕事にいるのか詳しい話は聞い

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第22話 忍sideー 襲撃

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第22話 忍sideー 襲撃

「ねえねえ、今度温泉旅行に行きたいよね」

「そうだな……」

「箱根くらいだったら行けるよね、日曜日はママさん達休み欲しがるから、平日なら休み合わせられるし」

「ああ……」

 俺は澤村の話を聞きながら今日弘樹に怒鳴られた事を反芻していた。
 あいつは普段全く怒らない癖に、俺と麻衣の話になると人が変わる。
 今の俺に麻衣を守るチカラは無いし、あのシノブって奴が麻衣を守ってくれるのならばそれに任

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第23話 埋まらない溝

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第23話 埋まらない溝

 私は慌てた様子の店長に突然呼び出しを受けた。どうやら私宛の電話らしい。
 弘樹さんからのようで、私の命に関わる大事な事と言われて渋々受けたらしい。
 一緒にVIPルームに居た荵さんもやや不満そうな顔をしていたが、彼を何とか宥めて電話に出た。

『麻衣ちゃん、N大附属病院の手術室前まで来て! 今すぐ!』

 弘樹さんの声の後ろで救急隊の声と、女性の声が聞こえる。その人が忍と連呼していたので、私にも

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